kodebuyaの日記

労働問題が最近多くなった食レポブログです。

「わたくしの言論の自由は最大限保障されるべきです!!」by櫻井よしこ

お前は何を言っているんだ。
【慰安婦をめぐる損賠訴訟】櫻井よしこ氏会見詳報(1)「法廷闘争は言論の自由から考えて非常におかしい」(1/4ページ) - 産経ニュース

言論人として堂々と例えば雑誌「WiLL」が紙面を提供しますというので申し込んだにもかかわらず、それには全く応じていませんし、いろいろな形で討論するのは可能だったと思いますけれども、このような法廷闘争に持ち込んだことは言論の自由ということから考えて非常におかしいと意見陳述の中で植村さんに問題提起しました。

そもそもこの訴訟は櫻井よしこ及び産経新聞がおこした名誉毀損裁判なのであって言論の自由の問題ではない。
言論人であろうが誰であろうが人様を理由も何もなく貶していいなんて自由は存在しない。
「文句があるならWillという自分のフィールドに来い」というのがまずもっておかしく、それをいうなら「〇〇という中立の場を用意したのでそこで反論なり公開討論をしよう」というのが「言論人」の在り方*1とは思うし、そんな態度だからこそ訴えられたんだろうとしか思えないが、百歩譲って櫻井の主張が言論人の態度として尤もだとしても自民党改憲草案を支持する櫻井よしこが「言論の自由」と声高に言うのは噴飯ものの一言に尽きる。
自民党改憲草案はこういう。

第二十一条
集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、
保障する。


前項の規定にかかわらず、
公益及び公の秩序を害することを目的とした活動を行い、
並びにそれを目的として結社をすることは、認められない。


検閲は、してはならない。
通信の秘密は、侵してはならない。
(強調は引用者)*2

現行憲法にはない2項が新設されている。
これについて自民党の説明は以下の通り。

オウム真理教に対して破壊活動防止法が適用できなかったことの反省などを踏まえ、公益や公の秩序を害する活動に対しては、表現の自由や結社の自由を認めないこととしました。内心の自由はどこまでも自由ですが、それを社会的に表現する段階になれば、一定の制限を受けるのは当然です。なお、「公益や公の秩序を害することを目的とした」活動と規定しており、単に「公益や公の秩序に反する」活動を規制したものではありません。
(強調は引用者)*3

オウム真理教に対して破防法が適用できなかったからというのも酷いが、「社会的に表現する段階になれば、一定の制限を受けるのは当然です」と言い放つのがそれ以上に酷い。
確かに、「言論の自由」を笠に着て例えば人様の殺害予告をするというのは問題があるかもしれないが、それは刑法の脅迫罪や各地方自治体が制定する「迷惑防止条例」で処理すれば足りるのであって、制限条項を殊更憲法に記載する必要があるのか。
それにそもそも憲法が「権力を縛る」ものであることは近代的な意味での憲法としては当然のことであるから、その意味において「権力が下々の者を縛る」ことになりかねない自民党草案の2項は憲法を17条憲法のような倫理規範にまで落としたいという意思が明白に表れた箇所だと私は思う。

だいたい『「公益や公の秩序を害することを目的とした」活動と規定』するのは誰なのか?
明確な線引きは可能なのか?
政府の権限を持って規定するなんて話になったら凡そ言論の自由は死滅すると言わざるを得ないだろう。

まぁ、そうなっても安倍晋三のオトモラチの櫻井よしこの場合「私の言論の自由は保障される」んだろうだが、少なくとも現行憲法櫻井よしこ言論の自由は守られていることは間違いないのであり感謝こそすれ、安倍晋三のように「恥ずかしい」とかなんとかほざける立場にはないと思うのだが。

芸能人の売名行為

まず、先日おこった熊本・大分大地震で犠牲になった皆様のご冥福をお祈りいたします。
また、現在も避難生活を送り、また、怪我を負われた皆様にはお見舞いを申し上げます。

被災した芸能人のブログが炎上している件

熊本で自給自足の生活をしているとの話もあった井上晴美氏だが、先の自身で罹災しているとのことだ。
一連の感情を自身のブログに投稿したのだが、それが炎上してしまい、結果としてブログが休止する事態となっている*1
inoueharumi.exblog.jp
「愚痴りたいのはお前だけではない」「可哀想な私アピールがイラつく」といった中傷があったとのことだ。

寄附をした芸能人を売名行為だ偽善だと中傷し、お詫びさせている件

それ以外にも被災地へおこなった寄付行為をネットで公開した有名芸能人が次から次へと批判中傷にあっているとのことだ。
headlines.yahoo.co.jp
から引用する。

タレントの紗栄子(29)が19日、熊本地震被災者のために500万2000円を寄付したことを明かした。だが、ブログに掲載した金額入りの振込受付書に対し、ネット上では「いちいち出すな」「好感度上げたいのか」と批判する声が…。こんなゆがんだ“不謹慎狩り”が横行し、熊本で被災したタレントの井上晴美(41)にまで誹謗中傷が浴びせられる異常さだ。このほか、被災地にエールを送った藤原紀香(44)や西内まりや(22)、上地雄輔(37)らも袋叩きに遭っている。

袋だたきしている側のゲスな言い分は元記事にいやというほどあるのでここでは掲載はしない。
といって、なにもしなければなにもしないで叩かれるらしいので難儀な世の中だなとしか思えない状態に陥ってしまっている。

反撃しない人間を選んで叩いているのではないのか

上記2件に共通するのは、一般人に対してネットでの反撃が難しい*2芸能人の行為を選んで叩いているということであって、例えば日本財団というギャンブルの胴元が発表した「熊本地震緊急支援」については「偽善だ」「売名行為だ」との批判が原因で同財団のホームページが閲覧不能になったというようなことにならなかったことを考えてもあながち間違いではないのではないかと思う。

「偽善」「売名行為」批判に対する効果的な反論とは

そこでこれらの中傷に対する有効な反論として東日本大震災で多額の寄付をおこなった杉良太郎氏の発言があげられると思う。
www.mag2.com

「偽善とか売名と言われることもあると思いますが…」

と聞かれた杉さんが、

「ああ、偽善で売名ですよ。偽善のために今まで数十億を自腹で使ってきたんです。私のことをそういうふうにおっしゃる方々もぜひ自腹で数十億出して名前を売ったらいいですよ」

福祉をやるには確かに時間とお金がかかる。特にお金がないと見栄えのいい福祉はできません。でも、お金がない人は時間を寄付すればいい。お金も時間もない人は、福祉に対する理解を示し、実際に活動をしている人に拍手を送るだけで十分。それでもう立派な福祉家なんです。福祉ってそういうもんです。」

そう。非難する側は非難された側の反応*3を見て楽しんでいるのであって、そうでなければ、お金に色が付いていない以上「前夫から取った金だろ」なんて批判が起こるはずもない。
そんなことにいちいち反応するからかえって何をするにも自粛するという環境ができあがってしまうのではないか。
名前を売るのが芸能人の仕事なんだから、ある意味芸能人の行為は全て「売名行為」だ。
芸能人の皆様は是非とも外野のヤジを恐れることなく自分のできることを行っていただきたいし、我々もそうあるべきだと思う今日この頃だ。

*1:2016年4月22日現在

*2:不特定多数VS特定人だからね

*3:被災者の気持ちを思え的な言説をされるとそれに対する反論は不可能に近い

最近読んだ本「ちょっと気になる社会保障」

ここ数日熱を出しており長々と文章が書けないので最近読んだこちらの本

ちょっと気になる社会保障

ちょっと気になる社会保障

からメモ。

「生産物こそが重要(Output is central)であり、年金受給者は金銭に関心があるのではなく、消費に関心がある(食料、衣類、医療サービス)。このように鍵となる変数は、将来の生産物である。賦課方式と積立方式は、単に、将来の生産物に対する請求権を組織的に設定するための財政上の仕組みが異なるに過ぎない2つのアプローチに違いを誇張すべきではない。」
(18頁)

年金を賦課方式(現行の制度)を維持するか、積立方式に舵を切るかという問題で、積立方式を「インフレには弱いが少子化には強い」「世代間の不平等」を理由に支持する人もいるのだが、こと少子化に関して言うならばどちらも同じく影響を受けるということだ。
このことは当の厚労省も理解しており、
www.mhlw.go.jp
においてf:id:kodebuya1968:20160321102514j:plainという図表にしている。
また、同書が引用する厚労省年金局作成資料によれば

生産物(商品やサービス)は積み立てられないため、高齢者への生産物の分配手段-①私的扶養、②私保険・貯蓄、③積立方式の公的年金、④賦課方式の公的年金-のどの分配手段でも、その年々に現役世代が生み出した付加価値を、現役世代と高齢者で分け合う構造に変わりがない
(24-25頁)

ともいっている。

どの方式であってもいまの少子化が続く以上は現役世代の負担増は免れないということだ。
現役世代の負担増による不平等感は、現行の年金制度そのものの問題ではなく、増加する高齢者の消費を現役世代が支えなければならないというところにあるということだ。

国民健康保険税の逆進性

サンデー毎日の「国民健康保険料 こんなことが許されるのか! “サラ金”より酷い! 非情取り立ての実態 生活費も子ども名義の生命保険も」
http://mainichi.jp/sunday/articles/20160222/org/00m/040/008000d
という記事を読んだ。

かってあったサラ金パニックの時代と異なり、まともなサラ金業者であればコンプライアンスは守って当然ということになるので、題名は少々言い過ぎのような気もする。
ましてや国民健康保険料の徴収については、国税滞納処分の例による強制執行が認められていることを考えるといくらでもやりたい放題という事態になることは当然といえる。

この記事を読んで「なんかで同じような話を読んだぞ」と思ったので本棚をひっくり返すとこの本に同じようなことが書いてあったのだった。

消費税のカラクリ (講談社現代新書)

消費税のカラクリ (講談社現代新書)

ここでもやはり徴収する側のノルマがありというような話になっていたのだが、大体きついノルマを課すと担当者が暴走するのは商工ローンでも同じ事だったわけなのだからノルマで人を動かすやり方自体に危険性があることをもっとマネジメントする側はわかった方が良いのではないかと思ったのであった。

ここまでは前振りで、本題は国民健康保険の逆進性ということだ。

そもそも国民健康保険料(税)はどのような算式で計算されているのか?

市区町村によって料率などに違いがあるのだけれども、
国民健康保険料の計算方法をわかりやすく解説|知っておきたい税の基本
にあるように((大阪市の例))
f:id:kodebuya1968:20160228131251j:plain
世帯全員の収入に対して料率をかける所得割だけではなく、1世帯単位にかけられる平等割(定額制)、被保険者数の頭数に所定の金額をかける均等割を加えて算出するということだ。

単に応能負担というだけではなく(協会けんぽや組合健保は応能負担のみ)、一律にかけられる負担がありそれが結構な金額になりかねないということが問題となる。

国民健康保険料(税)と定額負担

元々国民健康保険は会社員等が加入している健康保険をモデルにして作られたものであったが、当初予定していた加入者は会社員等以外の自営業者とその家族と考えていた。
「保険」である以上、被保険者は保険料を支払うことで万一の場合の保障を受けることができ、かつ、被扶養者という概念がないものだからご隠居さんやそのお店の子ども達といった稼がない人々の保険料を算定する場合に定額負担をさせるということはそれなりに合理性があったのだろうと思う。

そこで逆進性が生まれた

しかし、いまや自営業者は減少の一途をたどっており、国民健康保険の加入者として占める割合は減りつつある。
その一方で、
後期高齢者
ニート
・働く能力を欠いた人*1
の占める割合が相対的に増加してきた。
彼等の多くは年金を受給したり、もっと酷い場合は無収入に近い状態であったりする。
そうなると定額負担分が彼等の背中にのしかかってくるということになる。

例えば
算定基礎収入が120万円の者(一人暮らし40歳未満とする)の保険料負担額は148,108円となり、収入に対する負担割合は12.34%になるのに対し、
算定基礎収入が500万円の者(一人暮らし40歳未満とする)の保険料負担額は449,828円となり、収入に対する負担割合は9.00%になる。
逆進性が生まれるのだ。これにさらに子どもなどを追加していくとその差はますます拡大していく。

国民健康保険こそ応能負担の原則に忠実であるべき

現在の日本では「国民皆保険」の建前があり、国民健康保険を脱退するには協会けんぽや組合健保等の加入員になるしか方策がない。
任意脱退することができない以上、能力に応じた程度での保険料負担*2をする必要はむしろこちらの方が高いのではないか。

自治体によっては「税」と同じ扱いにしているが、税というのであれば減免措置があることを確定申告の書類にあるのと同様に被保険者に通知するべきだともいえるだろう。
因みに納税の義務は応能負担を意味するのであって、絶対的に義務に応じなければならないものではない。
国民健康保険についても、どこまで有効化はわからないが*3、状況が悪化したというのであれば速やかに自治体の国民健康保険課に相談するのがまず解決への第一歩だろうと思う。

*1:それは障碍を意味しない。乳飲み子を一人で抱え就職もままならない母親・父親といった方々も含まれる

*2:要するに協会けんぽや組合健保等の計算方法

*3:知らないことを良いことに丸め込むということも多いだろう

「すご腕社労士」様が3か月の業務停止に

自称「すご腕社労士」の「社員をうつ病に罹患(りかん)させる方法」と題した文章を載せた問題であるが、厚労省が処分を決めたようだ。
headlines.yahoo.co.jp

愛知県内のベテラン社会保険労務士の男性がブログに「社員をうつ病に罹患(りかん)させる方法」と題した文章を載せた問題で、厚生労働省は4日、懲戒処分に向けた聴聞手続きを愛知労働局で開き、業務停止3カ月とする方針を本人に伝えた。

 社労士は「文章が刺激的だったが、うつ病に罹患させるつもりはなかった」として、業務停止でなく戒告にとどめるよう求めた。厚労省は本人の釈明を踏まえ月内にも処分を決める。
(以下省略)

社労士の懲戒処分については重い順に

  • 失格
  • 1年以内の業務停止
  • 戒告

となるが、この中でも業務停止になる公算が高くなったということだ。

「なんだ失格ではないのか。3か月とはいかにも軽い」と考えてしまうが、実際同人は既に所属している県の社労士会から3年間の会員権停止処分と退会を勧告されている状態であり、また悪名を轟かせてしまった以上、同社労士を顧問にしたり労務相談をしてしまうとそれだけで事業主にとってリスクを背負い込むことになりかねないからだ。
仮に同人を顧問に抱えている事業主に労務トラブルが起こり、あっせん・調停が不調となり訴訟に移行したとしよう。
通常の場合であれば事業主側の故意過失を立証するのは労働者側であるので立証責任はそれなりに困難さを有するが、この社労士を事業主が顧問にしているということだけで「故意又は重大な過失」が事業主側にあると立証されることになり*1、その点から立証は極めて容易になる。よって事業主は損害賠償責任を負う可能性が高くなってしまうといえるためである。

日本の企業は一部を除き解雇自由の状態であることは
大企業だからだろう - kodebuyaの日記
で引用したとおりであり、わざわざ「うつ病」に罹患させる手間や問題になったときのリスクを負うまでのことはないと思うのだが、件の「すご腕先生」そこまでの現状はご存じではなかったらしい。

大先生はfacebookあたりで「解雇は愛だ」と宣っておられたかと記憶するが、同人の「文章が刺激的だったが、うつ病に罹患させるつもりはなかった」とか「「適切合法なパワハラを行ってください」「万が一本人が自殺したとしても、うつの原因と死亡の結果の相当因果関係を否定する証拠を作っておくこと」」という言葉になんの労働者に対する愛情は感じられないし、「モンスター社員に精神的打撃を与える事が楽しくなりますよ」という言葉にも事業主に対する愛情も責任感のかけらも感じられないのはどうしたことか。
同業者には「愛情」という言葉で正当化し、それ以外の人間には無知を良いことに「刺激的なことを言えば良い、最期の責任は事業主が負うからオレは関係ない」という臭いしかしないのだ。

そして何より頭にくるのは
当初は

「世間をお騒がせしたのは申し訳ないと思っています。一部、筆が滑って過剰な表現はありましたがブログに書いた趣旨は間違っていないと思います」

うつ病に罹患させるのもやむを得ないと言わんばかりの弁明をしておきながら、厚労省の弁明の機会の付与の際には

「文章が刺激的だったが、うつ病に罹患させるつもりはなかった」

と主張を後退させたことだ。
なんだ、大先生も問題があると思っていたんじゃないか。

*1:同人は「筆が滑って過剰な表現はありましたがブログに書いた趣旨は間違っていないと思います」とかっては主張しており所謂「確信犯」であるといえる 「社員をうつにする方法」ブログの社労士に退会勧告 愛知県社労士会【ブラック士業】

求職票と労働契約内容が異なるとき

昨日記事*1を書いたのは理由があって、数日前にこちらの記事を某所で知ったことによる。
「職安法に違反」遺族が刑事告訴 帰宅中に事故死 東京 (産経新聞) - Yahoo!ニュース
<<
帰宅途中に交通事故死した男性の遺族が22日、ハローワークの求人票と異なる長時間労働を強いられたとして、職業安定法違反罪で、男性の勤務先だった植物ディスプレー会社(東京都)に対する告訴状を警視庁に提出したと明らかにした。

 告訴状などによると、渡辺淳子さん(59)の次男、航太さん=死亡当時(24)=はハローワークの求人票で同社を見つけ、平成25年10月に就職。求人票での雇用形態は正社員で、時間外労働は月平均20時間と記載されていた。だが、約半年間はアルバイト契約で週6日、フルタイムの勤務を要求されたほか、月100時間超の残業をさせられたことは「職安法に違反する」としている。
(以下省略)
>>
初め見たときは「あぁまたか...」と思ったのだが、よくよく読んでみると「<b>職業安定法</b>」違反で事業主側を刑事告訴をしたというあまり聞かない事例だったのだった。
しかもこの手の話は本来労働基準監督署に告発するものかと思うが、警視庁に告発したということは労働基準監督署側の対応が酷かったのだろうかと邪推してしまう。

それはともかく、確かに職業安定法65条によれば
<<
第六十五条  次の各号のいずれかに該当する者は、これを<b>六月以下の懲役又は三十万円以下の罰金に処する。</b>
一  第十一条第三項の規定に違反した者
二  第三十二条の三第一項又は第二項の規定に違反した者
三  第三十三条の二第一項又は第三十三条の三第一項の規定による届出をしないで、無料の職業紹介事業を行つた者
四  第三十六条第二項又は第三項の規定に違反した者
五  第三十七条の規定による制限又は指示に従わなかつた者
六  第三十九条又は第四十条の規定に違反した者
七  第四十八条の三の規定による命令に違反した者
八  <span style="color: #ff0000"><b>虚偽の広告をなし、又は虚偽の条件を呈示して、職業紹介、労働者の募集若しくは労働者の供給を行つた者又はこれらに従事した者</b></span>
九  労働条件が法令に違反する工場事業場等のために、職業紹介、労働者の募集若しくは労働者の供給を行つた者、又はこれに従事した者
>>
とあり、この「広告」は文字通り広告であって、公共職業安定所(以下職安)に対してだろうが民間の職業紹介事業者に対してだろうが関係なく適用がなされるものだと解釈されるべきだからだ。

だいたい、職安の求人票には嘘が多いということは以前より指摘があったところであり、これら指摘を受けて厚生労働省
ハローワークでの求人票と実際の労働条件が異なる場合の対策を強化します |報道発表資料|厚生労働省
というマスコミ発表をしなければならないことになった。
上記発表によれば
>>
平成 24 年度に全国のハローワークに寄せられた申出で、求人票の記載内容と実際の労働条件が違うといった申出は、 7,783 件でした。申出の内容の上位は、賃金に関することが 2,031 件( 26 %)、就業時間に関することが 1,405 件( 18 %)、選考方法・応募書類に関することが 1,030 件( 13 %)でした。
<<
ということであり
<<
ハローワーク求人ホットライン」を開設するなど、ハローワーク公共職業安定所)で公開している求人票の記載内容と、実際の労働条件が異なる場合の対策を強化します。
>>
とあるが、実際のところといえば
ハローワークの求人票と全然違う!!: 須田みき
にもあるように殆どなんの対策もなされていないというのが現状のようだ。
上記記事から引用する。
<<
ハローワークからその会社に調査や指導をしてもらうことはできますか?
⇒できません。調査や指導をする機関ではないからです。雇用契約書と実際の労働が異なる場合は、担当機関が労働基準監督署になります。

こんなひどい会社なので、求人をハローワークに受付拒否してもらうことはできますか?
⇒現在はできません。今後はどうなるかわかりませんが、今のところそのような法律や制度がなく、ハローワークは全て受け付けなければならないからです。

働き始めて1ヶ月が経ちますが、求人票と同じ条件にしてもらうことはできますか?
⇒求人票と異なるとしても雇用契約を結んでいるので、その条件に納得して働いているということになるため難しいですが、交渉は可能です。

求人票と異なることについて罰則はないのか(`・ω・´)
⇒現在はないです(ーー;)労働基準法違反でもありませんから、労働基準監督署でも取り締まれません(で書いたのは、求人票ではなく雇用契約書と異なる話です)。
>>
つまり
「求人とはあくまで契約の誘因であって、実際は雇用契約をしてしまうと民法上の契約自由の原則が働いてしまうことから、雇用契約が求人票のそれと異なる場合は雇用契約が優先する。」ということらしい。
ずいぶんな話だが、職安に求人票を提出する際には就業規則など書面の提出は何ら必要がないことから、職安は提出された求人票を受理する敷かないのだそうだ。
流石にこれは酷すぎるということで厚労省も重い腰をようやく上げて今年の3月から以下のような対応をするとのことだ。
ブラック企業の求人は門前払いに 来春からハローワーク:朝日新聞デジタル
>>
新制度は、10月から順次施行されている青少年雇用促進法に基づく。ハローワークでの求人は原則、企業が出したものはすべて受け付けなければならなかった。だが新制度では「ブラック」な企業の求人は受理しないようになる。違法な長時間労働や残業代を払わないといった違反を1年間に2回以上、労働基準監督署から是正指導されるなどした企業が対象となる。
<<
同じ厚労省の(というよりどちらも旧労働省管轄にもかかわらず)連携がようやく取れるということのようだが、労働基準監督官も不足する状態の中でどこまで有効な対策なのかには疑問がある。

今回の件で私の知人は「労働基準法15条2項*2適用で契約の即時解除が可能なのではないか?」といっていたが、職安の求人票には労働基準法15条2項のいう「明示された労働条件」が必ずしも記載されていないので即時解除は難しいのではないかと思う。

そこで、昨日の記事のような手段を取るのもやむを得ない対抗策なのではないかと思ってアップした。
ちなみに、このような企業がやりかねない嫌がらせとしては
離職票を出さない。
・離職理由を「自己都合」、もしくは「懲戒解雇」として給付制限をかける。
ということが考えられる。

離職票を出さない場合は自分の住所地管轄の職安に出向き、「確認の請求」を行えば、会社に対して離職票を出すように指導してくれる。会社が退職の事実は認めても離職票の提出に応じないという場合には、職安が職権で証明することも可能だ。

離職理由については、労働契約と実際の労働が著しく異なる場合や、離職直前の 6 か月間(賃金締切日を起算日とする各月)の間に 45 時間を超える時間外労働が 3 月連続してあったため離職した場合、100 時間を超える時間外労働が1月あったため離職した場合、又は 2~6 月平均で月 80 時間を超える時間外労働があったため離職した場合等は、自己都合退職であっても「特定受給資格者」として給付日数を大幅に増加させることもできる*3
今回の事件は労働時間を理由にする退職も可能だったはずであり、そのような労働法規に詳しい人に相談できなかったことが悔やまれる。

*1:
逃げろ逃げろ - kodebuyaの日記

*2:前項の規定によつて明示された労働条件が事実と相違する場合においては、労働者は、即時に労働契約を解除することができる。

*3:ただしこのような場合では事業主が事実関係を認めるとは考え辛いため、自分でエビデンスを用意する必要もあるだろう

逃げろ逃げろ

所謂「ブラック企業」であるが、ブラックの定義としてはいろいろあると思う。
労働時間であるとか、低賃金であるとか。
その最たるものが「退職妨害」だと思う。
退職妨害はある意味*1労働基準法が「してはならない」と定義する「強制労働」に該当しかねない行為だからだ。
このことについては
bylines.news.yahoo.co.jp
が詳しいが、具体的にどうすれば良いのかを考えてみた。

  1. 会社に行って「願」を出さない

 会社に行って退職「願」を出すから、おかしな話になる。「願」いは叶わないことがあるからだ・
 言葉の問題で枝葉末節かもしれないが退職「届」を出すべきだ。
 労働基準法や労働契約法では事業主が労働者の解雇をする場合に制限をかけているが、労働者が退職をする場合にはなんの規制も設けていない。特別法に規定がなければ、私法の一般法たる民法の規定が適用される。
民法第627条によれば

1.当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者はいつでも解約の申入れをすることができる*2。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から二週間を経過することによって終了する。
2.期間によって報酬を定めた場合には、解約の申入れは、次期以後についてすることができる。ただし、その解約の申入れは、当期の前半にしなければならない。
3.六箇月以上の期間によって報酬を定めた場合には、前項の解約の申入れは、三カ月前にしなければならない

とあり、殆どの労働者は同条1項に該当する以上、解約の申出(この場合は「退職届」)を事業主に到達させることでその翌日から2週間の経過で終了させることができるのである

  • 「願」を会社に行って直接手渡さない

 直接渡すから、脅されたり監禁されたり洗脳されたりということになる。全て郵便で処理すること。但し、郵便の出し方にコツがある。

  普通郵便だと「そもそもそんなものは届いていない」と主張される危険性が極めて高い。また、簡易書留や配達記録では到達日の確定はできるが中身の確定ができないというきらいがある。これでは「確かに郵便は届いたが、中身はなかった。封入せずに送ったのではないか」と事業主から主張されかねない。よって到達日の確定と封入文書の内容を証明できる「内容証明郵便」をお金はかかるが送るべきだ。

  • できれば1週間分、無理であれば3日分の食料などを買い込んでおく

  内容証明郵便が事業主に到達すると、事業主は離職希望労働者にいろんな手を使ってコンタクトすることが考えられる。
  電話、メール(パーソナルのアドレスを教えていた場合)、訪問といったやり方だ。
  2.26事件の青年将校と同じで彼等に「話せばわかる」は通用しない。全てのコンタクトを断ち切らなければ、逆に脅され説得され元に戻らされという最悪な事態になりかねないからだ。食料品を買い込むのは、事業主と話をしないと決断した場合に自分の居所に事業主等がきてしまうと外出が困難になるためそういう場合の不便を前もって避けるためだ。籠城すると決めれば相手方が諦めてしまうまで籠城しなければならない。
くどいようだが「事業主側の人間とのコンタクトは一切取らない。会社の友人だろうが恩人だろうが同じ事だ。」と人間関係をリセットするくらいの気持ちを持たなければならない。

  • 退去しない場合は警察を使うことを躊躇しない。

  確かに雇用契約のトラブルは民事の問題であり警察が介入できる話ではない。
しかしながら例えば自宅前に事業主側の人間が張り込んでいて、1週間以上外出ができないような事態が継続しているような場合や玄関前で騒いでいて近隣にご迷惑をおかけしつつあるといった場合には「不退去罪」として躊躇無く警察を呼ぶべきだ。警察としては玄関前で頑張っている連中に「とにかく一旦帰ってくれ」とお願いするはずであり、それに応じない場合は警察権を行使するということになるはずである。

  • 損害賠償請求は裁判所からの書類が届かなければ一切無視する

  事業主が退職について損害賠償請求をすることもあるが、内容証明程度であれば無視する。
  相手はあなたととにかくコンタクトしたいだけであって、コンタクトさえできればなんとかできると思っているから請求をしてくるに過ぎない。裁判所から訴状少額訴訟の特別送達が届けば対応をしなければならないが、そうでなければ一切無視する。

本来はきちんと会社に仁義を通し、引き継ぐものがあれば引き継ぐのが本来だとは思う。
しかしそんなことをしていると引き継ぎが完了しないといつまでも退職できないということになりかねず、そもそも引き継ぎは労働者の法的義務ではない。
確かに就業規則に引き継ぎの規定があるだろうが、それに逆らっても不利益はない。*3むしろそこまで追い込まれている状態であればお金より自分の体や精神を守るべきだ。
そうしなければ悲劇になる。

とにかくそのような事業所から逃げることを最優先に考えて欲しい。我慢してもなんの得にもなりはしない。

*1:というよりそう理解するしかかないが

*2:ただし完全月給制(欠勤控除がない場合)は別。この場合は退職の申し出は、次の賃金計算期 間以後に対して行うことができるとされている(民法第627条第2項)。その退職の申し出は、賃金計算期間の前半にしなければならないとされている。

*3:退職金が出ないという不利益はあるだろうけど

大企業だからだろう

this.kiji.is

東京メトロで勤務し、痴漢行為を理由に解雇された男性が、解雇の無効を求めた訴訟で、東京地裁は25日、「処分は重過ぎる」として無効と認める判決を言い渡した。

 石田明彦裁判官は、男性の勤務態度に問題がなかったことや、弁明の機会が十分に与えられなかったことを挙げ「懲戒権の乱用に当たる」と指摘した。

 判決によると、男性は2007年4月入社。13年12月、電車内で女性の体を触ったとして逮捕され、罰金刑が確定した。昨年4月、諭旨解雇の懲戒処分となった。

 東京メトロは「主張が認められず遺憾だ。判決内容を精査して対応を検討したい」とコメントした。

一見「なんじゃそりゃ?」と思えるような判決ではあるが、この判決自体はおかしなものではない。

  • 私生活上の非道行為が懲戒解雇の対象となるためには

本件は労働者がとりあえずこれ以上のトラブルを避けるために容疑を認めたという話もあり、事実そのような行為があったのかどうかの判断は保留するが、労働者の非道行為が懲戒解雇の対象となるためには

会社の社会的評価に重大な悪影響を与えるような労働者の行為については、それが職務遂行と直接関係のない私生活上の行為として行われたものであっても、会社の規制を及ぼしうる。従業員の不名誉な行為が会社の体面を著しく汚したというためには、必ずしも具体的な業務阻害の結果や取引上の不利益の発生を必要とするものではないが、当該行為の性質、情状のほか、会社の事業の種類・態様・規模、会社の経済界に占める地位、経営方針及びその従業員の会社における地位・職種等諸般の事情から総合的に判断して、右行為により会社の社会的評価に及ぼす悪影響が相当重大であると客観的に評価される場合でなければならない。
*1

とされている。本件の場合は地下鉄勤務の職員が「出勤前に」このような行為を犯しているわけであるけれども、この職員の地位(管理職以上の者であれば会社の被る不利益も大きいだろう)や職種(内勤の職員と現場勤務とでは意味合いが異なってくる)など総合的に勘案した結果として懲戒解雇が妥当((本件は諭旨解雇であるが、日本の労働法規に諭旨解雇の規定は存在せず、実際は懲戒解雇といえる。))であると判断されなければならないということになる。
本件の職員の会社における立場は上記記事からは不明であるが、例えば内勤者で平社員、かつ罰金(迷惑条例違反と思われる)で済んでいるということであれば確かに会社の体面は傷つくが、「悪影響が相当に重大」とまでは評価しにくいのでは無いかと思う。

  • 仮に上記を満たしたとしても企業側には更正させる責任がある。

労働契約法16条によれば

解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。

とある。「合理性」と「相当性」が解雇には必要とされる訳である。
合理性とは

a.傷病等による労働能力の喪失・低下
b.能力不足・適格性の欠如
c.非違行為
d.使用者の業績悪化等の経営上の理由(いわゆる整理解雇。)
e.ユニオンショップ協定に基づく解雇(但し一定の制限がある。)
(84)【解雇】解雇の社会的相当性|労働政策研究・研修機構(JILPT)

相当性とは

労務管理は負け裁判に学べ!なぜ負けたのか?どうすれば勝てたのか?

労務管理は負け裁判に学べ!なぜ負けたのか?どうすれば勝てたのか?

によると以下の様な場合は相当性が認められないとのことである。

a.使用者の従業員の行った違反に対する黙認、注意・指導・監督の欠如
b.適正な指示・命令の欠如、配転等による改善努力の欠如

ことほど左様に解雇は困難に「見える」ため、一部の経済学者やエコノミスト*2は、日本の企業の解雇の困難性が労働力の弾力性を損ねているというわけだが、これは一部正しく残りは大間違い。
「日本の」大企業は解雇が難しいというべきなのだ。

  • 中小企業の現実

解雇するスキル・・・なんかなくてもスパスパ解雇してますけど: hamachanブログ(EU労働法政策雑記帳)
によればまぁよくぞこんな理由思いつくなというような理由で解雇がなされている。

日本の雇用終了―労働局あっせん事例から (JILPT第2期プロジェクト研究シリーズ)

日本の雇用終了―労働局あっせん事例から (JILPT第2期プロジェクト研究シリーズ)

例えば

・10096(非女):「うちの事務所に合っていない」「解雇ですね」(10 万円で解決)
・10110(非女):カラーに合わないを理由に普通解雇(不参加)
・10136(試男):社風に合わないことを理由に普通解雇(不参加)
・20048(非女):店長から「俺的にだめだ」と普通解雇(15 万円で解決)
・20068(非女):社風に合わないから普通解雇(不参加)
・20104(正男):いったん内定したが営業向きでないと思い取り消し(25 万円で解決)
・30044(非男):挨拶しなかったため採用4 日後に「辞めて欲しい」(打ち切り)
・30083(正女):会社方針に合わないと普通解雇(不参加)
・30088(正男):会社方針に合わない(100 万円で解決)
・30247(正男):社長交代で普通解雇(不参加)
・30261(正男):廃業し息子が後継するにあたり、他は継続雇用するが、本人は雇用したくないと普通解雇(取下げ)
・30341(試女):「相性の問題ですね」と普通解雇(打ち切り)
・30555(正男):やる気なし、社長の意に沿わないとして普通解雇(打ち切り)
・30626(正女):再面接で社員としての適合性に欠けると判断して内定取消(不参加)
・30633(正男):有料紹介業者を通じて社風に合わないと解ったから内定取消(30 万円で解決)

・10071(正男):異動の送別会中に会社の鍵を忘れたことを思い出し依頼したら即刻解雇(不参加)
・30040(非女):「会社の恥、お詫びに死ね」と言われ、配置転換、雇止め(不参加)
・30311(試男):待機中過度に挨拶しすぎとして解雇(不参加)
(太字は引用者)

これ、労働あっせんに上がってきたものなので実際はさらに酷い理由で解雇されているであろうことは想像に難くない。
これがあっせんの場で終わってしまうのは何故か?中小企業でニュースバリューに欠けるからだ。
また、外資系企業であれば部門丸ごと潰してしまったりするが、「外資だから」という理由で社会的に問題にならない。

日本の中小企業は企業全体の97%を占めるのだという。
中小企業庁:FAQ「中小企業白書について」
ある意味日本は解雇天国であり、そこに入っていない大企業だからこその上記記事であり、中小企業に勤める私としてはむしろ羨ましくすら思える話でもある。

*1:日本鋼管事件 最二小判昭49.3.15 民集28-2-265

*2:パソ中平蔵や城ナンタラとか。むかつくので正式な名前は書かない(笑)

1年では短すぎる

東芝に限らず東証一部上場企業で大型リストラが起こった年だったが、その際のセーフティネットとして存在しているはずの雇用保険について思ったこと。
きっかけはこちらの記事。
リストラターゲットは50代。希望退職の先にある「絶望」(河合薫) - 個人 - Yahoo!ニュース

(前略)
早期退職。別名、希望退職。正確には、「希望なきリストラ」である。

むろん、“希望”という接頭語のついた退職のもと退職を余儀さくされたのは、東芝だけではない。
ソニー、モバイル分野で2015年度末までに2100人の人員削減
セガサミーホールディングス、300人の人員削減
日本コロムビア、リストラの一環で全従業員の約3割の人員整理を実施
カドカワ(旧KADOKAWA・DWANGO)、232人を削減
損保ジャパン日本興亜ホールディングス、200人の人員削減
ニッセンホールディングス、120人の人員削減を実施
日本たばこ産業JT)、1754人の人員削減
シャープ、3234人の人員削減
ルネサス エレクトロニクス、2300人の人員削減
ワールド、453人の人員削減
今年に入ってから9月末までで、これだけの“名の知れた”東証一部上場企業で、人員削減が実施されている。
ルネサスでは早期退職後、人材派遣会社に再就職した元社員を、派遣社員として再び雇用するという、わけのわからない事態も起きた。

特に

ルネサスでは早期退職後、人材派遣会社に再就職した元社員を、派遣社員として再び雇用するという、わけのわからない事態も起きた。

ということで、これが派遣法に抵触しないのかが気になるところではあるが*1、いずれにせよ企業の体力が戻りつつあるときに人員整理を行うのはここ20年以上常套手段として行われてきた。
そんな不測の事態による離職者にとってありがたい制度が雇用保険による失業等給付の制度である。
記事は続ける。

世界各国のGDP国内総生産)に占める労働市場政策への支出を比較した場合、日本は「就業支援・訓練」などの積極的措置、「失業保険」などの消極的措置のどちらにおいても使われているお金の割合が各国よりも低い。

また、失業保険の給付期間も、欧米と比較した場合、かなり短い。
フランスでの失業保険の給付期間は最長36カ月、デンマークは2年間と長く設定されているほか、ドイツの保険制度は12カ月の期間終了後、更新可能な扶助制度がある。スウェーデンでは300日(18歳未満の子供がいる場合はさらに150日)であるが、支給期間を満了した後にも失業状態の場合、新たに300日間の支給日数が起算される。
長くなればなるほど、「働いて半端なカネをもらうくらいなら、働かない方がいいや~」という精神状態に陥るリスクも高まるので、長きゃいいってもんでもないかもしれない。
それでも、やはり日本は短すぎる。もう少し長くてもいいのではないか。

さらに、日本の失業は「完全失業(full unemployment)」を前提としているが、多くの先進諸国では、「部分的失業」も失業保険の適用対象としているので、通常の労働時間がゼロになる場合のみでなく、労働時間の削減を部分的失業者として扱い、手当が給付されている国が少なくないのである。
非正規の賃金の見直し、失業の概念を変えるなど、やる気ある50代を後押しする支援策を講じないと、ますます“萎えたミドル”が増殖する。早期退職する前の一年間を、国の援助の下、新しい職種や業種に必要なスキル(技能)の習得期間と位置づけるなんてやり方だってあるのではないか。

ここで雇用保険の特色を書いておきたい。

  • 失業等給付の受給期間、給付日数の制限がある。

失業の原因がどうであれ、雇用保険は失業前2年間に12か月以上の被保険者期間があることを原則として1年間という支給期間を設定する。
その上で被保険者期間、年齢、属性(特に就職が困難な者であるかどうか)、失業原因に応じて支給日数が90日から330日の間で設定される。
この「給付日数」とは失業等給付の基本手当(昔でいうところの失業手当)の支給を受けることができる日数のことをいう。
例えば
離職時点で30歳の者で、3年間被保険者を継続していた場合90日分の基本手当を失業の認定時から1年以内に受給することができる。
離職時点で50歳の者で、20年間被保険者を継続していた場合330日分の基本手当を失業の認定時から1年以内に受給することができる。
ここでのポイントは、基本手当ての支給日数は長く被保険者であった者にとってそれなりに手厚くなるが、受給できる期間は被保険者の期間の長短にかかわらず同じであるということだ。

  • 早期就職へのインセンティブがある。

引用はしなかったが、所定給付日数を3分の1以上残して(給付日数が90日の場合30日分以内しか受給しなかった場合)1年を超えて引き続き雇用が確実と見込まれる職業に就き、又は自分で事業を開始した者については、支給残日数を買い取って受給者に支給するという制度(再就職手当)があり、この手当を受給した者で、新就職先の給与が基本給付を下回る場合には差額の一部を支給するという 「就業促進定着手当」もついてくる。
要するに「どんな就職先でもいいからさっさと就職してくれ。すぐに職が決まれば報奨金を出すよ、何?給料が低い??わかった差額を少し面倒見るから雇用保険を使わないでくれ」ということだ。そして1年以上就業できれば仮にその後また離職するようなことがあっても被保険者の都合や懲戒解雇ということでもなければ、また雇用保険から給付を受けることも可能になる。

  • 支給額にボーナスは考慮されない。

おおざっぱに言えば、給付額は離職前直近6か月の給料の総額を180日(時給の場合は実労働日数)で割り、その50%に支給日数をかけたものが支給額となるが、給料にはボーナスは含まれない。ただし、ボーナスからも保険料は控除される。そういう意味では「保険」の持つイメージとは異なるやり方を取っている。日本のサラリーマンの多くはボーナスも生活費と見込んで家計を組み立てているケースが多く、その場合には離職により想像以上の収入減という事態が待ち構えることになる。

最後の点も大概問題だとは思うが、特に問題なのは1番最初の点であると私は思う。
引用記事に登場する方は40代後半で会社から追い出されるという憂き目に遭っているが、確かに40代からの再就職は困難を極める。また、経験といっても日本の場合そのノウハウがその企業限定になっているという場合も多く汎用性に欠くということも珍しいことではない。
つまり「余人をもって替え難い」ものがなければ相当条件を下げなければ転職が困難になるということになりかねない。
もちろん「そのような実力を培えなかったのは自己責任」とバサーと切られるのだろうけれども、多くの人にとっては「余人をもって替え難」くない業務を担っているのであってそのような人が新たに職業訓練を行ってとなると支給期間が1年ではいかにも短い。なお、雇用保険支給期間が終了した後に職業訓練を受ける者については「求職者支援法:から職業訓練受講給付金の支給があり得るが、そもそも雇用保険の被保険者であったことが必要であり、また。万一職業訓練校に入学できなければ受給できないという点もあって決して満足できる内容であるとはいえない。
ちなみにこの1年という期間は障碍者等就職が特に難しい者であっても同様であり、この点でも問題があると言わざるを得ない。

確かに「就職への真摯な努力」を求める雇用保険では、失業状態を長期化させかねないインセンティブをつけることはできないのであろうが、就職を急ぐことを強要するあまりに、不本意な就職先ならまだしも所謂「ブラック企業」の就職をせざるを得ないことになるのではないかと思う。
社会保障セーフティネットといわれるが、殊雇用保険はネットというより上に跳ね上がる推進力をつけるトランポリンのようなものであるべきだと思う。最近の雇用の需給関係の好転によって雇用保険の財政には多少なりとも余裕があるとのことではあるが雇用の需給関係なんていつおかしくなっても不思議ではない。財政に余裕のある内に職業訓練の充実や制度の(良い意味での)見直しを求めたい。

*1:派遣法40条の9:派遣先は、労働者派遣の役務の提供を受けようとする場合において、当該労働者派遣に係る派遣労働者が当該派遣先を離職した者であるときは、当該離職の日から起算して1年を経過する日までの間は、当該派遣労働者(雇用の機会の確保が特に困難であり、その雇用の継続等を図る必要があると認められる者として厚生労働省令で定める者を除く。)に係る労働者派遣の役務の提供を受けてはならない。

博打は自分の金でやれ

今更ではあるのだけれども、やはりこの記事をスルーするわけにはいかない。
年金積立金管理運用独立行政法人の大規模な運用損失を報じるロイターの記事だ。
headlines.yahoo.co.jp

[東京 30日 ロイター] - 年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)は30日、2015年7―9月の運用損失が7兆8899億円だったと発表した。世界的な株安の影響で利回りは5.59%のマイナスとなり、安倍内閣が主導した昨年10月の運用改革後、初めての赤字に陥った。年金資産の積立金は135兆1087億円と、過去最大に膨らんだ6月末の141兆1209億円からおよそ6兆円減少した。

(中略)

資産ごとの運用損失は国内株式が4兆3154億円(利回りはマイナス12.78%)、外国株式が3兆6552億円(同10.97%)、外国債券が2408億円(同1.26%)と、運用見直しで比重を高めた3資産がいずれもマイナス運用だった。逆に、国内債券で3022億円(利回りは0.60%)を稼いだ。

年金特別会計で保有する短期資産について、厚生労働省は9月末の時点で4兆2000億円としており、GPIFは6月末から国内債券を6800億円程度減らす一方、国内株式を3700億円程度、外国債券を3500億円程度、外国株式を1兆6600億円程度買い増ししたもようだ。

9月末の年金積立金全体に占める保有資産割合は国内債券38.95%、国内株式21.35%、外国債券13.60%、外国株式21.64%となった。

運用の失敗で大規模な穴を開けたということだ。
とはいえ、

10月以降の運用損益はプラスに回復している公算が大きい。指標となる「ベンチマーク収益率」は今年4―10月の国内株式(TOPIX配当込み)が1.93%とプラスに転じたほか、マイナスに陥った外貨建て資産についても、足元で戻り歩調となっているためだ。

との見通しがある模様だが、実際にどうなるのかは第三四半期の運用報告を待つしか無い。
なんでこんな有様になったのか?といえば、

GPIFは、昨年10月末から国内外の株式運用を増やした。現在は国内債券35%(以前は60%)、国内株式25%(同12%)、外国債券15%(同11%)、外国株式25%(同12%)と

国内債券を中心としたこれまでの運用から株式に重点をシフトさせたことによることだ。
また債券についても毎日新聞の11月13日付の特集によれば
http://mainichi.jp/articles/20151113/dde/012/020/003000c

「ジャンク債」と呼ばれる海外の低格付け債での運用だ。格付け機関の評価で「ダブルB」以下のハイリスク・ハイリターンの国債社債のことで、財政不安が続くギリシャ国債もその一つ。先月から新たに購入することが決まった。

 GPIFはこう説明する。「リスクは高いのですが、なるべく安全な債券を慎重に選びます。購入額は外国債(構成比率15%)の中の5%程度。全体としては極めて低い割合です。万一、損が出ても、積立金全体では運用益が出るよう投資先を分散している。全体のリスクは変わりません」(GPIF担当者)

ということで、GPIF側は「安全」を強調するが*1かなりリスキーな運用をしている様に私には思える。

このようにGPIF側の運用方針が変容したのは政権による働きかけが大きいと先の毎日新聞の特集埼玉学園大の相沢教授(金融論)は次の通り指摘する。

相沢教授は「国内株の比率は、34%まで上げられることになっています。安倍内閣は株価連動内閣。今後の政治状況によっては、選挙前に株高を演出するため、株式を買い増しするよう圧力をかけるかもしれない。そうなれば積立金はさらにリスクにさらされる」と話す。

「株あがーれ」とテレビカメラの前で蕪を持ち上げた故小渕恵三元総理以降、歴代の内閣は経済政策の重点を株価対策に置いてきた。これは現政権も同じで、「三本の矢」とか「新三本の矢」とか言っているが株価を官製相場でもなんでも良いのでつり上げることで景気*2を回復することで「民主党政権時代とは違う」ところを見せつけて支持率を維持するという戦略を強く押し進めている以上、半官半民組織のGPIFに抵抗などできるはずもなかったということだ。

もちろん、年金の運用方法については様々な考え方があるだろう。現に確定拠出年金では掛金拠出者自らの判断で株式への投資にをメインとする運用も認められている*3。自己責任で老後の生活費を確保するという確定拠出年金ならではといえる。
しかしGPIFの運用原資は違う。
ある意味強制的に徴収される年金保険料の運用について我々被保険者が物申す手立てはないに等しく、あずかり知らぬところで大損を出しておきながら「高齢者等の生活の保障」といい保険料を上げたり、「子や孫の世代に負担を先送りしない」といい給付額を大幅に引き下げるというようなことがあれば、ただでさえなくなっている年金制度への信頼がますます失われてしまうのではないか。しかもそのようなことになった原因は株価を上げて政権の基盤を盤石なものにするというのだから開いた口がふさがらない。

確かに「運用は長期の視点で判断すべき」というのはそのとおりなのかもしれないが、大きく儲かるかもしれないが大きく損をするかもしれない投資の原資としては年金保険料はふさわしくないと言うべきだ。「長期的に儲かっているんだから大損出しても良いじゃないか」というような話では無いと思う。

私は日本で合法的にできるギャンブルは株だと思っている。
GPIFの職員の英知を絞ってポートフォリオを決定しているのだとは思うが、どこか「これだけの大金を運用している俺たちスゲー」と思っている節があるのではないか?と上記のGPIF側の説明を読んでいるとそのような疑念が頭をよぎるのであった。

いずれにせよ
「博打は自分の金でやれ」
といいたい。

*1:そりゃリスクが大幅に上がったけれどリターンもあるよとは口が裂けても言えないだろう

*2:実感するかどうかは関係ない。数字が上がればいい。なんといっても景気は「気」からだから。

*3:とはいえ確定拠出年金法23条及び同条を準用する73条によれば、「確定拠出年金運営管理機関は、政令で定めるところにより、次に掲げる運用の方法のうち政令で定めるものを企業型年金規約で定めるところに従って少なくとも3以上選定し、企業型年金加入者等に提示しなければならない。この場合において、その提示する運用の方法(第25条第2項及び第26条において『提示運用方法』という。)のうちいずれか1以上のものは、元本が確保される運用の方法として政令で定めるものでなければならない。」とされており、元本保証で運用することを選択することが可能にはなっている