kodebuyaの日記

労働問題が最近多くなった食レポブログです。

ひとたび進むと止まらない

安倍晋三の置き土産であるところの義務教育の武道必修化がこの四月から始まることになる。
武道必修化とは中学の体育の授業では武道を必修するということで、一応各学校の判断で「柔道」、「剣道」、「相撲」、「ダンス」の中から選択することになっているのだけれども、剣道は竹刀やら防具やらに経費がかかり、相撲は相撲場を持っているような学校はごく少数だろうから、これも経費がかかる。ダンスは私学の女子校をおそらく念頭に置いていると思われる。以上より柔道を選択する学校が多くなるだろうと言われている。
この柔道について本当に四月から初めて問題が無いのか?と言うことで大きな懸念が発生している。

毎日新聞の社説は次のように言う。
社説 - 毎日jp(毎日新聞)

社説:武道必修化 柔道は延期すべきだ

 武道必修化への不安が急速に広がっている。学習指導要領が改定され、4月から中学1、2年の体育の授業で実施される。原則として柔道、剣道、相撲が対象で6割ほどの学校が柔道を選択するとみられる。

 直視しなければならない数字がある。中学と高校での柔道事故で昨年度までの28年間に114人の子どもが命を落とし、275人が重度の障害を負った。部活動中の事故が授業中を上回る。授業中が少ないのは動きが激しくなく時間も短いためで安全なわけではない。東海・北陸7県の中学で昨年度に起きた事故を分析すると、頭や首を負傷する割合は授業中が部活動中の2.4倍だった。必修化では男子に比べて運動経験の少ない女子も全員が対象となることを考慮しなければならない。

 現場で指導にあたる体育の先生も不安を募らせる。大学時代に武道を履修しなかった先生は少なくない。各地の教育委員会は柔道未経験者を対象に地元の柔道連盟などと連携して講習会を開催している。だが、複数の県で、わずか数日間の講習で初段(黒帯)を認定してきた実態が明らかになっている。

 全日本柔道連盟が13年度から導入する公認指導者資格制度は学校の先生について「現場の実情を考慮し、条件付きで資格を認める例外措置」を設ける。規定された講習を受けていなくても資格認定するということだ。初段程度の先生が中学生の柔道指導にあたるのは若葉マークをつけた初心者ドライバーが自動車教習所の教官を務めるのと似ていないか。

 文部科学省の対応からは焦りが伝わってくる。学校でのスポーツ事故を分析して事故防止の安全対策を検討する有識者会議を設置したのは昨年8月。今年度内に柔道の安全指針をまとめる予定だが、現場に周知徹底する時間が圧倒的に足りない。泥縄の対応にもかかわらず、奥村展三副文科相は8日の会見で「見送りはできない」と予定通りの実施を明言した。子どもたちの命を預かっているという覚悟はあるのだろうか。

 日本の3倍近い競技人口を持つフランスでは近年、重大な事故が起きていない。柔道指導者は国家資格で、380時間以上の研修が義務づけられている。19歳以下が競技人口の75%を占めるだけに安全対策は最重要課題なのだ。柔道の本家が頭を下げ、学ぶべきことは少なくない。

 柔道が危険なのではない。医学的知見を欠いた経験頼りの指導と、事故が起きても原因究明がなされず、再発防止策もとられないという環境こそが問題なのだ。まずは必修化を延期したうえで、部活動も含めて国民が納得できる安全確保の仕組みを構築しなければならない。

私自身、高校時代に授業で柔道をやり、落とされることもなくひやっとしたことも幸い無かったけれども、それは偶然危険な技を教わるところまでいかなかったからに過ぎなかったんだなと今更ながら思う。しっかり受け身の練習をしておけば事故のリスクは下がるのだろうけれども、全く事故を0にすることはできないだろうし、事故があったときの被害が大きすぎるのが問題だ。

このようなことを書くと、いや事故は柔道だけではない。水泳や野球やサッカーだって死亡事故は起きている。殊更柔道のみをなぜ問題にするのか?といわれるかもしれない。
学校におけるスポーツ中の事故  特集:柔道事故
は柔道での死亡事故を検証したところ、柔道固有の現任による死亡は中学校で82.1%、高校で62.7%であったという。
同記事は言う

ここでいう「柔道固有」というのは柔道固有の動作に起因する死亡、「運動全般」というのは運動全般に共通する死因(突然死、熱中症等)を指している。
  「柔道固有」は、中学校で全体の82%(32件),高校では全体の63%(47件)と,いずれも多数を占めている。「柔道固有」の内訳をみてみると、中学校の32件のうち,投げ技・受身の衝撃によって頭部外傷(急性硬膜下血腫など)が生じて死に至ったケースが30件,その他(寝技で窒息死,投げ技・受身で臓器損傷など)が2件,高校では47件のうち,前者が44件,後者が3件である。「柔道固有」とは,そのほとんどが、頭部外傷によるものであるということがわかる。
  運動をするからには,そこにはつねに突然死といった,運動に共通して起きる死亡がある。柔道以外の部活動(ただしラグビーを除く)では,運動全般に共通する死亡事例はあるものの,その運動に固有の死亡事例(たとえば,バスケットボールであればコートのなかでぶつかったり,ボールが頭を直撃したりして死亡する場合)があまりない。柔道における死亡事故の件数や確率を大きくしているのは,この柔道固有の動作による頭部外傷である。
(太字は原文の通り)

柔道以外の競技でも死亡事故は起きるのは確かだが、そのリスクはどの競技にも共通するわけだが、柔道の場合は共通のリスクに柔道固有の頭部外傷のリスクが加わるということだ。
しかも指導者が毎日新聞の社説の言う「規定された講習を受けていなくても資格認定」された指導者が行うというのだから危険度はさらに増すともいえるだろう。
授業として柔道をやるなとはいわないけれども、明らかに準備不足だといわざるを得ないし、実施を延期してでもきちんと文科省は実態を確認する必要があると思うのだけれども文科省クローズアップ現代『“必修化”は大丈夫か 多発する柔道事故』 書き起こし - Togetter

まだまだ新たな知見としてそのようなことが分かってきた段階だと捉えております。ですので、これから私どもが行う講習会や説明会等について、その都度そういった新しい知見を指導主事の皆さんだったりを通して学校の先生方にも分かるように努めてまいりたいと存じております。

といい、全く延期する気は無いようだ。
しかも「まだまだ新たな知見としてそのようなことが分かってきた段階」というのだが、実際は

このとき国は、頭を打たなくても死に至ることを証明するため、アメリカの論文まで証拠として提出していました。「サルの頭を強く揺さぶる実験をしたところ、“加速損傷”で頭の中に出血が起こり死んだ」というものでした。

“加速損傷”の危険性は、このとき国の側から提示されていたのです。裁判から30年、事故の具体的教訓が国から学校現場に伝えられることはありませんでした。そうした中、100人を超える子どもの命が失われ、300人近くが重い障害を負いました。

ということだ。
ずいぶん都合の良いこと。

要するに一旦始まることが決まると、止められないということなんだろう。八ッ場ダムにしても原発についても同じことがいえる。

残念なことだが学校内で事故があることは事実だが、これ以上リスクを子供達に背負わさなければならない理由が私には思いつかない。