kodebuyaの日記

労働問題が最近多くなった食レポブログです。

鍋パーティの新着記事「生活保護バッシング その2」と社会防衛としての生活保障

承前*1
鍋パーティから新着記事
Nabe Party 〜 再分配を重視する市民の会 生活保護バッシング その2が公開された。

少し古い内容だが平成20年版犯罪白書特集『高齢犯罪者の実態と処遇』http://www.moj.go.jp/content/000010212.pdf
は、高齢者の犯罪について特集を設けている。
これによれば

平成19年の高齢者の一般刑法犯検挙人員では,窃盗の占める比率が65.0%と最も高く
(男子は54.1%,女子では88.4%),次いで,横領が22.0%,暴行が3.7%,傷害が2.3%と続いている。

そこで,まず,高齢窃盗事犯者の犯行動機・原因について見てみる。

窃盗事犯者の犯行動機・原因について,主なもの三つまでを調査したところ,高齢窃盗事犯者において,男子では,「生活困窮」による者が74人(66.1%),次いで「対象物の所有」目的の者が41人(36.6%),「空腹」による者が21人(18.8%)であった。食べるのに困って飲食物を盗む者が多いことが分かるが,一方で,「遊興費充当」の者も17人(15.2%)いた。女子では,「対象物の所有」の者が17人(63.0%)であるのに次いで,「お金を使うのがもったいない。」などといった「節約」による者が16人(59.3%)であり,「生活困窮」による者は6人(22.2%)と男子に比べると顕著に少なかった。
さらに,高齢窃盗事犯者について,前科の有無別に見てみると,前科を有している男子は,「生活困窮」による者が68人(69.4%)で,前科を有していない男子の6人(42.9%)に比べて高かった。

東京地方検察庁及び東京区検察庁が平成19年に事件を受理した高齢犯罪者全体に係る属性に関する分析において,高齢犯罪者には,高齢に達する以前から犯罪を繰り返し,高齢の域に達して更に犯罪を行った者が相当数おり,実刑に処せられ受刑した経験を持つ者(「受刑歴あり群」)が,調査対象全体の3人に1人の割合でいるなど,犯罪性の進んだ者が少なくないことなどがうかがわれた。一方で,高齢になって初めて犯罪を行った者(「高齢初発群」)が調査対象全体の4人に1人の割合でいた。

という。女子の場合生活困窮を原因にする犯罪は男子のそれに比べ低いというが、複数回答を認めているようであり一見低そうには見えるが節約の理由が生活困窮という可能性も否定しきれず一概に高齢者の女子は貧困度が低いとは言えないようにも思える。
また、遊興費充当の問題であるが、これも生活費を稼ぐ目的でパチンコや競馬をしている可能性もあり*2これも結局は生活困窮関連と言えなくもないのだ。

高齢犯罪者がこのように増加している理由は何であろうか。

現在の我が国では,高齢者の平均寿命が延び,また,高齢者人口も急激に増加していて,社会の高齢化が急速に進んでいる。
そして,現在の高齢犯罪者を取り巻く環境に目を向けてみると,高齢犯罪者の犯罪性が進むにつれ,住居が不安定になるとともに,配偶者がなく,単身生活の者が増えている。

これらの者は,親族との関係も希薄である。このように,犯罪性の進んだ高齢犯罪者は,孤独な生活状況に陥っており,周囲から隔絶されている状況がうかがわれる。犯罪性が進んだ高齢犯罪者には,犯罪に結び付きやすい物質依存関連疾患にり患した経歴を有する者の比率が高いが,このような問題について福祉的なサポートを受けないままでいる者が少なくないこともうかがわれる。

就労状況,収入源等の経済状況についても,犯罪性が進むにつれ,就労の安定しない者,低収入の者の比率が上昇しており,また,生活保護などの福祉的支援を受けないまま無収入でいる者の比率も大幅に上昇している。

経済的に不安定な状態に置かれて,生活に困窮していることから,更に犯罪の危険性が高まっているといえる。
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上記ブログ記事にもあるのだが、今の日本では、それが自分に由来することであろうとなかろうと、一度転落すると這い上がることが殆ど不可能とすら言える社会であって、最終的には生活保護を受給することで(労働可能な状態であれば)再度労働市場に出て行く準備をしようとするし、労働市場に出ることがが病気や年齢の関係でかなわない場合は、生活保護を受給することで憲法25条に認められた権利であるところの「健康で文化的な最低限度の生活」をすることになる。

しかし、かって北九州市で問題になった所謂「水際作戦」や片山某や世耕某らが嬉々として国会で追及していた生活保護バッシングによって福祉的支援を受けることが後ろめたい世論といったものが支援を手に届かないものにしてしまっている。

そうなればどうなるか?
餓死するか犯罪に手を染めるかの二者選択を迫られるということになってしまう。
このことを白書は書いている。

同白書は次のようにいう。

高齢受刑者には心身に疾病等を抱え,直ちに福祉の支援(社会福祉施設への入所等)や病院への入院を必要とする者がおり,その中には,生活するための資金や仕事がないことを出所後の不安としてとらえている者が多くいるほか,出所後も頼れる人がいないなどの問題を抱える再入所者が多いなどの問題があることを見たが,こうした問題を持つ者が,刑務所を出所後,適切な福祉等の支援を得られないまま地域社会に出て,生活に困窮し,再び犯罪に至るということが考えられる。

そのため,刑務所を出所後,早期かつ確実に福祉的な支援につなげることで社会的な受皿を確保し,自立を促して,再犯に至るリスクを最小限にする必要がある。なお,刑務所,保護観察所や更生保護施設は,これまでも福祉関係機関と意思疎通を図るなどして,刑務所を出所した者に対して,必要な福祉等の支援が得られるように努めてきたところであるが,高齢化が進み,
今後も,高齢犯罪者の増加の可能性が危ぐされる中,この問題はますます重みを増していくと考えられる。

そこで,高齢犯罪者の円滑な社会復帰と再犯防止のために,刑務所と連携し,保護観察所が中心となって,地域の福祉等の関係機関・団体との連携を図るとともに,生活環境の調整として,刑務所在所中の段階から,出所後円滑に福祉等の支援を受けながら自立した生活が送れるよう支援を行うことが一層重要となっている。

鍋パーティの新着記事「生活保護バッシング その1」 - kodebuyaの日記でも書いたことだが、このような高齢者の犯罪を防止するには刑の厳罰化なんかでは何の効果も無いといって良い。
引用はしなかったが、介護疲れや、病気の子どもの将来を悲観して殺人を起こしてしまう場合なども多く、その根本の問題は満足な福祉がなされていないことにある。
こんな原因では厳罰化が抑止力になりえようはずがない。

この手の犯罪を防止するには生活保障をきちんとすることが一番なのだ。
生活保護よりも最低時給が低いことが問題という意見もあるが、生活保障の観点からいえば、「あれかこれか」という考えでは誰もが救われない。最低時給の引き上げも大切なのだ。
そうしなければ賃金と生活保護給付の引き下げ合戦となり、結果として社会が不安定になってしまう。

「あれもこれも」を求めなければならないのだ。

*1:http://kodebuya.hatenadiary.com/entry/20120613/1339583130

*2:私事であるが経験上このような事例を何度か見てきた