kodebuyaの日記

労働問題が最近多くなった食レポブログです。

「腹は国家からの借り物」の思想

まぁ、結婚するかどうかなんて国家に決めてもらうべきことではないと思うが、男女の出会いの場を用意する環境を作るのは構わないとは思う。
安倍首相が「婚活」後押し、子づくりへの切り札に-初の予算措置で - Bloomberg

3月20日(ブルームバーグ):
高知県内のログハウス風のカフェ、田中英之さん(40)は勇気を振り絞って14歳下の瑛理さんに話し掛けた。テーブルにはコーヒーとケーキ。ピアニストがクラシック音楽を奏でる店内には田中さんを含む18人の独身男女が集っていた。

「結婚を諦めかけていた」と言う田中さんは、結婚に関心のある独身者の出会いのきっかけづくりをボランティアで支援する県の「婚活サポーター制度」を活用して2011年9月に開かれた「婚活パーティー」に参加。昨年6月、晴れて瑛理さんを花嫁として迎えた。

政府は2013年度補正予算に「地域における少子化対策の強化」と銘打って初めて「結婚」に向けた情報提供や相談体制などに30.1億円を投入した。日本の未婚化・晩婚化が進む中、出生率 を回復する切り札として「婚活」に焦点を当てた。予算額としては少額だが、所管する内閣府共生社会政策担当の年間予算約20億円を上回る規模だ。

生涯未婚率(10年)は男性が20.1%、女性が10.6%と増加傾向にある。一方で、平均初婚年齢が29-30歳に上がり、第1子の出産年齢は30.3歳と30歳の大台に乗った。高齢者1人の社会保障費を負担する現役世代の数は現行2.57人。50年代以降はほぼ1人で支えることになり、社会保障負担の増大は日本が抱える深刻な問題だ。

県を挙げて婚活を支援する高知県尾崎正直知事は「将来の若い現役世代がこの負担に耐えられるのか。結果として社会全体の活力が低下してしまうのではないかと非常に危惧している」と述べ、今が少子高齢化対策を本格化させる「ラストチャンス」と意気込む。

高知の経験

尾崎氏は全国知事会の次世代育成支援対策プロジェクトチームのリーダーも務める。1990年から人口の自然減状態に陥っている高知県では、ピーク時2兆円あった商品販売額が97年から減少に転じ、07年には1兆6000億円と約2割も減少した。尾崎氏が少子化対策を強く訴える背景には地元経済の縮小という現実がある。

「高知の経験から、いずれ日本全体が同じような状態になるのではないか」。尾崎氏の危機感は強まる。13年の人口動態統計によると、出生数は約103万人と1899年以降最小となった。国立社会保障・人口問題研究所によると日本の人口は10年の約1億2800万人から60年には約8700万人とほぼ3分の2に縮小すると試算している。

厚生労働省社会保障給付費が12年度の109.5兆円(対GDP比22.8%)から25年度には148.9兆円(同24.4%)に急増すると試算する。中央大学山田昌弘教授は少子化が日本経済に与える影響について「大変深刻だ。社会保障は崩壊の危機にある」と指摘する。

今回の予算措置は単年度事業として計上されたが、永田町からは来年度以降も継続するよう求める声が早くも上がっている。自民党の「婚活・街コン推進議員連盟」の会長を務める小池百合子広報本部長は「少子化問題はすぐに改善するわけではない。良い実例ができた」と述べ、国からの継続的な支援に期待する。

婚活サミット

同議連は14日、「婚活・街コン推進サミット」を開き、少子化の政策コンセプトを「ゆりかごから墓場まで」を「出会いから墓場まで」に再定義すべきと主張。20年代に出生率の2.0以上、未婚率を現状の「2分の1以下」、婚姻件数を「2倍以上にする」との目標を掲げた。

13年の人口動態統計によると日本の合計特殊出生率は1.41(12年)にとどまり、フランスの1.99や米国の1.88を下回る。厚労省のリポートでは、婚外子の割合も2.2%と低く、フランスの56%や米国の41%と比較にならない。小池氏は「欧米ではシングルマザーや事実婚が話題になるが、日本の社会的規範からできにくい」と指摘。その上で、「少子化の最大の問題は結婚しないこと、できないことだ」とする。

政府は今回の施策で「地域少子化対策強化交付金」を地方自治体に交付する。交付上限は都道府県の4000万円、政令指定都市2000万円、その他の市町村に800万円と設定。飲食代や人件費などは対象外とし、各地方自治体から要望を募り、早ければ月内にも交付予定だ。

地方の危機感

高知県は結婚を総合的に支援する相談窓口の設置などを要望。7月にも立ち上げる方針だ。茨城県はお見合いから婚活パーティーまで結婚支援事業を幅広く展開している「いばらき出会いサポートセンター」の機能強化を目指している。06年に立ち上げたセンターには3000人以上が登録し、1144組が結婚に漕ぎ着けた実績を持つ。

茨城県少子化対策室の穂積直之室長補佐は「個人に任せておける状況ではない。もはや危機的だ。人口減少をいかに緩やかにしていくか考えなければ、地域経済がどんどん縮小していく」と指摘。センターを設立した背景には人口減少が進む地方都市の危機感がにじむ。

12年の人口推計によると東京都や埼玉県、千葉県の大都市圏でも自然増減率が初めて増加から減少に転じた。穂積氏は「少子化の解消には20年かかる。今すぐ効果が出るわけではない。出生率は若干持ち直してきているが、子供を生む女性の数が減っているため出生数は下がっている。このままいけば、取り返しがつかなくなる」と強調した。

新たな交付金ができるとのことで、新たな利権に群がる輩が出てくるのは間違いないとは思うが、この結果幸せなカップルが生まれるのであればそれはそれで意味があるのだろう。
ただし、これが小池百合子が言うところの少子化対策につながるかどうかは大いに疑問だ。

平成25年版厚生労働白書*1はこう指摘している。

理想の子ども数実現への課題 ~経済的な理由と年齢・身体的な理由~

(1)全体としては経済的な理由が最も多い
理想とする子どもの数を実現できない理由は何なのだろうか。
国立社会保障・人口問題研究所「出生動向基本調査」によると、その理由として最も多いのは「子育てや教育にお金がかかりすぎるから」であり、6割以上がこの理由を選択している(図表2-3-14)。とりわけ、妻の年齢が30歳未満の若い世代では8割以上に上っている。
また、30歳未満では、それ以上の年代に比べて、「自分や夫婦の生活を大切にしたいから」との回答が多い傾向にある。一方、30歳代になると、「欲しいけれどもできない」「高年齢で生むのはいやだから」といった年齢・身体的理由の選択率が高くなっている。さらには、「これ以上育児の心理的・肉体的負担に耐えられないから」という回答も比較的多くなっている。


(中略)


(3)1~2人目の壁は「年齢・身体的理由」、3人目の壁は「経済的理由」
次に、理想の子ども数別に、理想を実現できない理由を見てみると、理想子ども数を3人以上としている夫婦では、理想を実現できない理由として「お金がかかりすぎる」「家が狭い」といった経済的理由を挙げる割合が高い。一方、理想が2人以下の場合には、「高齢だから」「欲しいけれどもできないから」など、年齢・身体的理由が多く挙げられている。


子育て世代の収入の減少

理想の子ども数実現への課題として経済的な理由が大きいことを確認したが、子育て世
代の雇用者の所得はどうなっているのだろうか。
まず、若者の雇用形態の割合の変化を示したものが図表2-3-17である。年齢階級別に非正規雇用*10比率の時系列推移を見ると、どの年齢層においても上昇傾向が見られる。
特に若年層ほど大きく上昇して子育て世代の25~34歳層や35~44歳層においても、バブル崩壊後の1990年代半ばから2000年代の初めにかけて大きく上昇している。子育て世代の雇用者に占める非正規雇用の労働者の割合は大きくなっている。

結婚して「生めよ増やせよ」は結構だけれども、「生んだら生んだで自己責任」ですべてが収斂されかねないこの国では出産することが最早リスクなのだと思う。

そんな中こんな報道もあった。
「子供産むのは国家への貢献」 公明指摘で自民代表質問から削除 - MSN産経ニュース

「子供産むのは国家への貢献」 公明指摘で自民代表質問から削除
2014.3.13 00:42 [公明党

 自民党二之湯智参院議員が12日の参院本会議で、「子供を産み、立派に育てることが国家に対する最大の貢献」としていた代表質問の内容を公明党の指摘を受け、事前に削除・修正していたことが分かった。
 二之湯氏の代表質問原稿案は少子化問題について「結婚しているのに子供を持つことが社会人としての義務だと考えない人たちが増えている」とも指摘。二之湯氏の質問は公明党を含む与党としての代表質問だったため、公明党が11日に党の政策と相いれないとして修正を申し入れ、自民党が応じた。

 この結果、二之湯氏は12日の代表質問で「国家に対する貢献」の部分を削除。「子供を持つことが社会人としての義務」との表現は「子供を持つことを望まない人たちが増えている」と修正した原稿を読み上げた。

実際に代表質問から削除されたので大事にはならなかったようだが*2、「女性は産む機械」発言とどっこいどっこいの発言としか思えない私にしては、発言の反響の差に愕然とする思いだ。

この議員は「腹は国家からの借り物」という思想を持っているのだろう。
公明党の指摘を受けて修正したということはこの思想は少なくとも自民党の上層部では共通の認識としてあるといわれても仕方が無いだろう。

「腹は借り物」の思想について

日本が「神の国」だった時代―国民学校の教科書をよむ (岩波新書)

日本が「神の国」だった時代―国民学校の教科書をよむ (岩波新書)

から引用する。

文部省の意を体したオピニオン誌『国民学校』に、「婦徳の涵養」と題した一文が載っている。婦徳といっても「凡そ女性の特色は子を産むという事実」だけに視点をおいた論である。
「母はその所生の子を神の御子、すなわち天使様の御子としてお預かりし、これを導いて本具の神聖の展開に努めることになる。神の御子たるの自覚に於いて、神の御子たるその子を神へまで導き神に奉るの自覚と精進によって、彼女は真に賢母たり得るのである。」
筆者は宗教者でも伝道者でもない。栃木県女子師範で教鞭をとる教諭志賀匡である。一見たんなる自己陶酔としか思われない論文であるが、その文飾の裏から透けて見えるのは天皇家を頂点とする封建的家父長制度の中で定着してきた「腹は借り物」の思想であろう。しかし一九四〇年当時は、このような暴論が、新たに発足する国民学校女子教育の理念として、女子教育専門家の立場から建言され、従来の良妻賢母の枠を破った新しい賢母増として歓迎されていたのである。
(168頁 強調は引用者)

安倍晋三を代表とする「日本をトリモロス」ことを求める人々はどうやらこの時代の日本やクメールルージュのカンボジアを理想郷にしているようだが、国家から強制される出産のどこに夢や希望が生まれるというのか。
呆れるのを通り越して心底この国の将来が恐ろしくなってしまった。

*1:http://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/kousei/13/dl/1-02-3.pdf

*2:この件では自民党公明党に感謝するべきだと思う。逆に公明党は余計なことをしてくれた。