kodebuyaの日記

労働問題が最近多くなった食レポブログです。

本丸は裁量労働制の改悪だ

所謂「残業代ゼロ法案」が4月3日閣議決定された。
法案成立まで紆余曲折はあるのだろうが、第一次安倍内閣で頓挫した「ホワイトカラーエグゼンプション」の
焼き直し法案で、安倍首相自身も思い入れがあろうし、なによりこの制度の導入は財界の熱望するところでもあったので、今の国会内の勢力図を考えても成立するはほぼ間違いないと思わざるを得ない。残念だが。
朝日新聞は次のように報じている。
「残業代ゼロ」法案を閣議決定 裁量労働制も拡大:朝日新聞デジタル

政府は3日、労働基準法など労働関連法の改正案を閣議決定した。長時間働いても残業代や深夜手当が支払われなくなる制度の新設が柱だ。政府の成長戦略の目玉の一つだが、労働組合などからは「残業代ゼロ」と批判されている。2016年4月の施行をめざす。
新しい制度の対象は、金融商品の開発や市場分析、研究開発などの業務をする年収1075万円以上の働き手。アイデアがわいた時に集中して働いたり、夜中に海外と電話したりするような働き手を想定しており、「時間でなく成果で評価する」という。
対象者には、①年104日の休日②終業と始業の間に一定の休息③在社時間などに上限――のいずれかの措置をとる。しかし働きすぎを防いできた労働時間の規制が外れるため、労組などは「働きすぎを助長し過労死につながりかねない」などと警戒している。
改正案には、あらかじめ決めた時間より長く働いても追加の残業代が出ない「企画業務型裁量労働制」を広げることも盛り込んだ。これまでは企業の経営計画をつくる働き手らに限っていたが、「課題解決型の営業」や「工場の品質管理」業務も対象にする。
厚生労働省によると、企画業務型の裁量労働制で働く人は推計で約11万人いる。労働時間は1日8時間までが原則だが、制度をとりいれている事業場の45・2%で実労働時間が1日12時間を超える働き手がいる。対象の拡大で、働きすぎの人が増えるおそれがある。

この制度の本質が残業代ゼロというより「定額働かせ放題」にあるということは、佐々木弁護士のこちらの記事
「定額働かせ放題」制度・全文チェック!~繰り返される「成果に応じて賃金を支払う新たな制度」という誤報(佐々木亮) - 個人 - Yahoo!ニュース
を含める一連の主張の通りだと思うが、むしろこの制度の本丸は「裁量労働制」の拡大にあると私は思う。

そもそも裁量労働制とはどういう制度なのか?

労働基準法はこのように定義する。

使用者が、労使協定により所定の事項を定めた場合において、労働者を対象業務に就かせたときは、当該労働者は、その協定で定める時間労働したものとみなされる(第38条の3第1項)。

労使委員会が設置された事業場において、委員会がその委員の5分の4以上の多数による議決により所定の事項に関する決議をし、かつ使用者が当該決議を所轄労働基準監督署長に届け出た場合(届出なければ無効)、対象業務を適切に遂行できる労働者を当該対象業務に就かせたときは、当該労働者は、当該決議で定める時間労働したものとみなされる(第38条の4第1項)。

この制度は使用者にとって、相当の負担もあり、また、38条の3の規定する「専門業務型裁量労働制」については対象とされる業務が限定されているなど使い勝手がいい制度とは言えなかった。
「使い勝手がいい制度」ではないのは当然のことで、元来労働は労働者が自身の時間を提供し労働することでその対価を得るというものであり。
、佐々木弁護士のいう「結果に報酬を支払う」というものではないからだ。ましてや「結果」なるものが定量化されているならばともかく、事業主の希望する結果が出なければ時間に見合った報酬を出さなくて良いということになりかねない以上、この制度に手枷足枷をはめることは労働者保護を建前とする労働基準法の立場ではやむを得ないといえるからだ。
しかし朝日新聞の記事に寄ればこの改正案では「裁量労働制」の対象労働者の範囲を

「課題解決型の営業」や「工場の品質管理」業務も対象にする。

としており、マスコミの報道する「残業代ゼロ」対象労働者のような年収制限は盛り込まれていない。*1
思うに、「工場の品質管理」に「裁量」が入り込む余地があるとはとても考えられないし、「営業」も大なり小なり顧客の「課題を解決」する性格があり*2、この制度が成立すると日本の労使間の関係を考えると果てしなく長時間労働を強いられる労働者が急増することが予想されると言わざるを得ない。事業主にしても特殊な業務に従事する労働者より、圧倒的多数を占めるであろうそれ以外の余人をもって替え難くない業務に従事する労働者に残業代を払わずして長時間労働させることができるこちらの制度の方が魅力的であろう琴も容易に想像が付く。

この法案は閣議決定されたが成立に向け野党の同意を得るために「残業代ゼロ」の部分を撤回する可能性はあると思うが、本当に撤回すべきは裁量労働制の部分だ。
ゆめゆめ「残業代ゼロ」の撤回という「架空の利益」に騙されてはならないと思う今日この頃だ。

*1:年収は省令で決定されるとあるが、上述の佐々木弁護士の記事に寄れば年収は基準年間平均給与額の3倍の額を相当程度上回る水準として省令で定める額以上とありハードルはそれなりに高そうだ

*2:およそどんな仕事も課題解決型といえるだろう