kodebuyaの日記

労働問題が最近多くなった食レポブログです。

雑誌「創」12月号中島岳志氏の記事「橋下徹『ハシズム』を支えているものは何か」が面白い。

雑誌「創」12月号中島岳志氏の記事「橋下徹『ハシズム』を支えているものは何か」が面白い。

同氏は日本の社会は1995年に起きた阪神大震災オウム真理教地下鉄サリン事件を経験したことで、今まで依拠していた日本の秩序は、意外と簡単に崩れてしまうことを知り、また、労働のあり方も同年日経連の提出した報告書で非正規雇用や派遣労働を増やしていくことを明確にしたことによって、終身雇用を前提として守ってきた日本型雇用システムが大きく崩れていったことによって先の見えない、依存すべき「明るい物語」すら見つからない。そんな不安の中にたたき落とされたと指摘する。

そんな中『脳内革命』や松本人志の『遺書』・小林よしのりの『ゴーマニズム宣言』といった、断言型の本やみのもんたややしきたかじんといった断言型司会者が受けてきたといい、このような状況を

しかし、僕が強調しておきたいことは「わかりやすさと単純化は違う」ということです。
(前掲誌29頁)

と警告している。
本来メディアや言論人は、人間社会の複雑さを丁寧に解きほぐすことであって、AかBか、イエスかノーかという単純化させることではないはずなのに、単純化の方向に流れていったというのだ。
世論が単純化されることによって世論がどんどん「気分化」していった。その熱狂する気分が2006年の当時の小泉首相の靖国参拝の世論の支持率の変化に現れていると指摘している。
当初世論は小泉の靖国神社参拝には否定的な意見が圧倒的に大多数だったのだが、参拝後、小泉が記者会見し「抵抗勢力に屈しない」と発言したことによって世論が逆転したのだった。この発言で賛否を逆転させる人々は「気分で動く人たち」であって、このような人たちとは議論が成り立たないといい、この部分の人たちがファシズムを支える層であると指摘する。
そしてこの人たちは、格差社会で苦しんでいながら、小泉の郵政解散選挙に熱狂した人たちである。
この人たちは、本当は自分と能力が大して変わらないにもかかわらず、組合などの庇護を受けなんとなく守られている人々が「既得権益」と見えてしまう。彼らの批判はホリエモンには向かわず、身近にいる人たちを引きずり下ろすことができれば自分にもチャンスが廻ってくるかもしれないし、そうでなくても憂さ晴らしができるかもしれない。そんな指導者を求めている人たちだという。

同氏は

本当の貧困層や、派遣労働で苦しんでいる人たちにとって、「敵」は大きな権力を持つ為政者や、新自由主義社会で大きな利益を得ているヒーローではありません。
彼らの嫉妬心、攻撃は、身近な労働者や「ちょっと得をしていると思われる人たち」に向いていく。

(同誌33-34頁)

と指摘する。だからこのような人たちに左から説得を試みてもうまくいかなかったのだという。

そして橋下はこの部分にうまく乗っかり、支持を受けているというのだ。
「既得権益バッシング」のヒーローとしての橋下は日教組朝鮮総連をバッシングする右翼的性格を見せながらその一方で「反原発」と左翼的な物言いをする。一見矛盾するような政治姿勢のように思われるが、橋下の政治姿勢の根幹は「既得権益バッシング」なので何ら矛盾するものではない。

世の中を「既得権益を受ける敵」を作り上げ、それを「大阪都さえできあがればすべて解決する」という単純化された「解決策」を断言口調で語ってナショナリズムを鼓舞して、架空の平等性を担保していくのが橋下の手法なのだという。

そんな橋下を支持する層には改革で最も苦しめられるはずの貧困層が大量に含まれているが、なぜ、そんな彼らが橋下を支持するのか?
そこ答えは大阪維新の会マニフェストにあると、同氏は指摘する。

彼らの主張をまとめると、「あなたたちがこんなに貧困で苦しんでいるのは、大阪市役所の職員が得をしているからですよ」「あいつらを引きずり下ろせばいいんですよ」ということです。
(同誌36頁)

実際にこれが実現されるとどうなるか?
公務員を減らしても仕事の量は変わらない*1
その穴を埋めるのが非正規雇用の職員という労働市場で弱い労働者が増え、結果として貧困そうに影響が直撃する事態になりかねない。

同氏は最後にこう指摘する。

大阪都構想の細かい部分の論争より)そういった橋下さんの言説や、断言や、「これをこうやれば全てうまくいく」というような、物言いが受けてしまう社会とは何なのか。そこを丁寧に見ていくことが、問題解決の糸口になるのではないか。
 それが僕の問題提起です。
(同誌37頁)

小泉の手法をさらにえげつなくやっているというのが橋下の手法なのだということだ。
小泉は「郵政改革は改革の1丁目1番地」と絶叫し、「こうすれば全てよくなる」という物言いで政治を単純化させたわけですが、それ以上に罪深いのは、政治をテレビショーにしてしまったマスコミにもあったと思います。少し過激するくらいの物言いをして、マスコミの注目を浴びる。
所謂「B層」と呼ばれた人たちは、「なんや年寄りがいけずなことゆうて若い知事さんをいじめてる。」、と議会での議論を聞くと思い、小泉以来の公務員バッシングが刷り込まれていたりするので、「ようわからんけど親方日の丸で偉そうにしてわたしらよりも儲けてるんとちゃうの。」と橋下の公務員たたきに快哉を叫ぶのだろう。
私の知人と大阪府の教育基本条例で、教育委員会の委員が辞任するという話をしたときに「大阪府ももう少し考えて知恵を出せばいいのに」と言ったのだが、知恵を出す出さないも、このような政治が教育に介入すること自体が問題だという発想は全くなかった。これも上記のような「税金からあんたらの給料が出てるんやから、知事さんの意見に反論ぐらいしたらどうやの」という感覚なんだろうと思う。

これと真逆なのが小沢信者で、小沢一郎原発にせよTPPにせよ何も発言しないことをいいことに、小沢でなければ今の日本は変えられないといい、小沢を既得権益(この場合は植草一秀が過去いっていた悪徳ペンタゴン*2のこと)に立ち向かうヒーローだと見なしている。そんなだからアンチ橋下の左派系小沢信者もいるが、☆大阪市長選・橋下さん頑張れ〜♪〜(^^) - ☆YAMACHANの@飛騨MAVERICK新聞のように、左派ではあるが公然と橋下支持をぶち上げた信者もいる。しかし、橋下であれ小沢であれ*3既得権益(とおもわれるもの)を叩いた時点でその距離は遠くない。当の小沢一郎自身も橋下については「つかず離れずでいけ*4」と言っているくらいで親和性を暗黙のうちに認められているのだから。むしろ、橋下支持をぶち上げた上記ブログ主の方がすがすがしいとさえいえるだろう。

今度の大阪ダブル選挙の結果はまだわからないが、仮に橋下陣営が負けたとしても、今の日本社会が何らかの敵を見つけてそれを叩くということを続けていく限り第二第三の橋下が現れることは間違いないと思う。社会は善悪二元論で片付くものではないということを一人一人が語っていくしかないのだろう。

*1:公立学校の教師や社会保険事務所を想起されたい

*2:http://uekusak.cocolog-nifty.com/blog/cat33444213/index.html他多数

*3:小沢の場合はかってに信者がそう思い込んでいるだけだが

*4:0/31の朝日新聞4面