kodebuyaの日記

労働問題が最近多くなった食レポブログです。

労働問題でも政府の露払いをするNHK

これはミスリーディングだと言われてもしょうがないだろう。
トヨタ 裁量労働の対象拡大 時間に関係なく手当支給へ | NHKニュース

トヨタ自動車」は生産性を高めるため、実際に働いた時間とは関係なく、一定の時間働いたものと見なして賃金を支払う、裁量労働の対象を拡大して、管理職以外の総合職のおよそ半数に対し、残業時間に関係なく月17万円程度の手当を支給するなど、新しい人事制度の導入を検討することになりました。
(中略)
具体的には、主に事務や研究開発に携わる30代の係長クラスを対象に、管理職以外の総合職のおよそ半数に当たる7800人程度まで拡大して、残業時間に関係なく月17万円程度の手当を支給する方向です。この金額は月45時間分の残業代に相当するもので、これを超えて残業した場合は別途、手当を支給する一方、働きすぎを防ぐために新たな連休取得なども検討しているということです。


トヨタが採用したこの制度のポイントは
・残業時間に関係なく月17万円程度の手当を支給
する一方で
・この金額は月45時間分の残業代に相当するもので、これを超えて残業した場合は別途、手当を支給する
というところにあり、これがこの制度の肝というのであればそれは単なる「45時間のみなし残業」というだけであって、NHKの報道するような「裁量労働制の拡大」とか「時間ではなく成果で評価」という話とは全く関係がない。

そもそも裁量労働制とは独立行政法人労働政策・研修機構に寄れば2種類ありそれぞれは

<専門業務型裁量労働制
専門業務型裁量労働制は、(1)業務の性質上その遂行方法を労働者の大幅な裁量に委ねる必要性があるため、(2)業務遂行の手段および時間配分につき具体的指示をすることが困難な一定の専門的業務に適用されるものです(労基法38条の3第1項)。具体的な対象業務は、a.研究開発、b.情報処理システムの分析・設計、c.取材・編集、d.デザイナー、e.プロデューサー・ディレクター、f.その他厚生労働大臣が中央労働基準審議会の議を経て指定する業務(コピーライター、公認会計士、弁護士、不動産鑑定士弁理士、システムコンサルタント、インテリアコーディネーター、ゲーム用ソフトウェア開発、証券アナリスト金融工学による金融商品の開発、建築士、税理士、中小企業診断士、大学における教授研究)に限られます(労基則24条の2の2第2項、平成9年労働省告示7号など)。

<企画業務型裁量労働制
企画業務型裁量労働制は、企業の中枢部門で企画立案などの業務を自律的に行っているホワイトカラー労働者について、みなし制による労働時間の計算を認めるものです。このような労働者も、専門業務型裁量労働制の対象者と同様に、仕事の質や成果により処遇することが妥当な場合があることを根拠としたものですが、濫用のおそれもあるため、労使委員会における5分の4以上の多数決による決議を要するなど、専門業務型に比べて要件は厳格になっています(関連法令の他、厚生労働省の指針もご参照ください。平11.12.27労働省告示149号(平15.10.22厚生労働省告示353号により改正)。

すなわち、労使委員会が5分の4以上の多数決による決議を行い、使用者がその決議を行政官庁に届け出た場合には、事業の運営に関する企画・立案・調査・分析の業務であって、性質上その遂行方法を大幅に労働者に委ねる必要があるため、その業務の遂行の手段および時間配分の決定等に関し使用者が具体的な指示をしないこととする業務に、その業務を適切に遂行するための知識・経験等をもつ労働者を就かせたときには、その労働者については決議で定めた時間だけ労働したものとみなすことができます(労基法38条の4第1項)。みなし制の効果は、専門業務型の場合と同様です。

企画業務型裁量労働制の対象業務に当たるか否かは個々の労働者ごとに判断され、「企画課」などの部門の全業務が対象業務になるわけではありません。対象業務の具体例は、上述した指針に挙げられています。また、対象となる労働者としては、少なくとも3年ないし5年程度の職務経験をもち、対象業務を適切に遂行しうる知識・経験をもつ者が想定されています。

また、この制度を実施するには、上述したように、使用者および事業場の労働者を代表する者からなる労使委員会による決議が必要です。労使委員会の委員の半数以上については、事業場の過半数組合、そうした組合がない場合は過半数の代表者が任期を定めて指名することを要します(労基法38条の4第2項)。労使委員会の決議事項は、a.対象業務と対象労働者の具体的範囲、b.みなし労働時間、c.対象者の健康・福祉の確保措置および苦情処理措置、d.実施にあたり対象労働者の同意を得ること、および不同意を理由に不利益取扱をしないこと、e.決議の有効期間、f.記録の保存などです(労基法38条の4第1項、労基則24条の2の3第3項)。

以上のうち、対象者の健康・福祉の確保措置としては、代償休日や特別休暇の付与などがあげられます(健康等の確保の前提として、始終業・入退出時刻の記録等により勤務状況を把握することも必要になります)。また、決議に基づく労働者の同意は、各人ごと、かつ決議の有効期間ごとに得なければなりません。なお、裁量労働制のもとでも、使用者が安全配慮義務を負うことに変わりはありませんので、使用者としては、労働者が心身の健康を害するような働き方をしていないかどうかに注意し、必要に応じて適切な措置をとることが求められます。

Q6.裁量労働制とは何ですか。|労働政策研究・研修機構(JILPT)

とあるように、労働時間を「みなす」のであって、残業時間を「みなす」というものではないからだ。

政府が導入を目指す「(拡大の)裁量労働制」とは、拘束時間のみならず仕事の進め方を労働者の裁量に委ねる*1というものであって、この制度に懸念を持つ労働法専門の弁護士は「労働量の調整権を労働者が持たない以上、結局定額働かせホーダイ」になるという懸念を表明しているわけだが、トヨタのそれは残業時間の調整権も含めて労働者になんの裁量もないものでありこれを「裁量労働」にひっくるめるのは流石に誤報というしかないだろう。
むしろ政府が目指しているのはトヨタのそれのような「労働者に裁量を認める」というものではなく「事業主の裁量を今まで以上に強く認める」というものなのであろうからNHKはその露払いをしたということなのだろうか。
NHKはこの件について一刻も早い訂正報を流すことを強く求めたい。

しかしどうでも良いけど45時間のみなし残業に17万円支給というのはどうなんだろう。流石に最低賃金は割っていないとは思うが基本給と諸手当がいくらなんだろうと余計な心配をしてしまうのだった。

*1:「市場調査」という名目で行列のできる飲食店で2時間も並ぶということになると必ずしも労働時間で管理することに意味があるとはいえない