kodebuyaの日記

労働問題が最近多くなった食レポブログです。

Nabe Partyからの新着記事「賃金の下方硬直性と値崩れ 」と大阪市西成区の人件費デフレ実験(追記あり)

公務員批判でよくある言われ方に、「公務員は民間より高給だ」や「公務員は民間より高待遇だ」ということがあってそれが公務員の給料を下げよという圧力になっている。
公務員はもちろん市民の信託を得て業務を行っているわけではないのでそのようなことは本来なら大きなお世話な話のはず*1であるが、その上司たる市長や県知事は市民から選挙で選ばれていることもあってそのような「民意」は無視できず、いまや国を含めて公務員の給料は下がる一方だ。

しかし、民間企業はその様子を見て満足するかというとそうではなく、おわかりの通り「公務員の給料ですら下がっているのだから我々も収益を確保し足腰の強い財務体質を構築するためにさらなるリストラに励もう」ということになり、また公務員は民間の給料の下がり方に負けじとさらに給料が下がり、それを見た民間は...といったように結局は給料のデフレスパイラルを生じることになりかねない。

日本はいまだかってないデフレから脱却できない状態であるけれども、それは消費性指向が強い中産階級以下の給料が減っていく状態が続いていくことで低価格指向が極めて強くなっていることによるものだ。そのような中で消費時を増税することはむしろデフレをさらに酷いものにしてしまい、財務省野田首相がもくろむ財政の健全化とか未来にツケを残さないといったことにはならず*2、むしろデフレをより酷いものにさせてしまう可能性があることを私は懸念する。

何が言いたいかというと、だから軽々に他人様の給料が下がれと願うことはひいては自分の首を絞めることになりかねないと言うことだ。

昨日Nabe Party 〜 再分配を重視する市民の会から
Nabe Party 〜 再分配を重視する市民の会 賃金の下方硬直性と値崩れ が公開された。
同記事は言う。

バラマキ、というと田中角栄を思い出すが、もしかしたら彼は「乗数効果」は知っていても、そもそも何故バラマキがうまく行くのかというと、貯蓄退蔵されてしまった購買力を補ってやっているからだ、という理屈を知らなかったのではないだろうか。なぜかといえば、いまでも「貯蓄が貧困を生む」というと、「?」という反応が返ってくるからだ。そう思えば国債は国の借金だなどというナンセンスに有効な反論が出来なかったわけがわかる。
バラマキの批判者たちは、せっかく中央に利潤を溜め込んだのに、貧しい「地方」に補助金を出したら中央の利潤が減ってしまう、と思っているのだろうが、逆だ。
商品の総額は収入の総額に等しいのだから収入の一部が溜め込まれた分だけ貧困が発生する。
中央に利潤を溜め込んだからこそ地方が貧しくなったのだ。
 だから、電源三法を廃止して反原発を進めるという論理はまずい。地方に「核」と「貧困」の二者択一を迫ることになるからだ。
原発を作れば交付金が出るなら、作らなくても出せるはずだ(お金はあったのだから)。 かつ、原発を作らないことにすれば建設費も浮くわけだからその分もつけてやればよい。原発のある豊かな暮らしと、原発のないもっと豊かな暮らしのどちらを選びますか、と問えばよい。

収入の一部が企業(でも富豪でもいいのだけれども)に貯め込まれ、投資にも何にも向かわないことで貨幣の流通性はそれだけ損なわれる。それが労働者の賃下げ圧力の原資になる状態が結果として貧困を生み、困窮した労働者が低賃金の仕事に就かざるを得なくなりさらなる貧困が進行しているのが現在の日本の問題であると言うことだ。

現政権は中流層の復活を政権発足時に掲げていたはずだったが、それは消費税増税で実現するものではなくきちんと再分配していくことが肝要なのだと知らされた記事だった。

とはいいながらも、貧困層のさらなる貧困層への視線は厳しい。あの大阪市ではこのような社会実験が提案されている。
【激動!橋下維新】「西成特区」で仰天改革案 生活保護受給者「就労所得貯蓄」で自立支援(1/3ページ) - MSN産経west

「西成特区」で仰天改革案 生活保護受給者「就労所得貯蓄」で自立支援
2012.4.8 08:49 (1/3ページ)[激動!橋下維新]

生活保護受給者の就労・自立支援のイメージ
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 大阪市の橋下徹市長が活性化に向けた特区構想を打ち出した同市西成区で、生活保護受給者が働いて得た収入を行政側で積み立て、生活保護から抜ける自立時に一括返還して初期生活費に充ててもらう制度を導入するという改革案を、特区構想担当の市特別顧問、鈴木亘・学習院大教授(社会保障論)がまとめたことが7日、分かった。区民の4人に1人が生活保護受給者という状況の中、受給者の就労・自立を促し、市財政を圧迫する生活保護費の縮減にもつながる一石二鳥の案としており、鈴木氏は近く橋下市長に提示する。

 不況を背景に、生活保護受給者数は全国的にも過去最多の更新が続いており、厚生労働省も同様の制度創設の検討に入ったが、自治体の事務量増大などの課題がある。西成区で制度が導入されれば全国のモデルケースとなる可能性もあり、成否が注目される。

 現行の生活保護制度では、原則として受給者の就労所得などが増えるとその分保護費がカットされるため「労働意欲の向上につながらない」との指摘がある。また、受給者が自立すると、それまで不要だった公的医療の保険料や医療費の窓口負担などが必要となり、自立時の生活費を圧迫する実情もある。

鈴木氏の案では、西成区の受給者に自立支援プログラムによる5年間の就労義務を課し、収入は区の福祉事務所で貯蓄。自立時に返却するとしている。就労報酬額は、3年程度は最低賃金(大阪府は時給786円)の適用除外として同400円程度とし、その後は最低賃金にすると仮定。企業側にも雇用義務を課し、若い労働者と雇用者のマッチングが図れるとともに、就労経験による技術習得にもつながるとしている。

 人口約12万人の西成区の生活保護受給者は、今年1月現在で2万8412人にのぼり、大阪市全体(15万2703人)の2割近くを占める。市の受給者数は全国の市町村で最多で、平成23年度予算ベースでの生活保護費は、一般会計全体の約17%に当たる2916億円に達し、市財政を圧迫。縮減が喫緊の課題となっている。
(以下略)

生活保護の理念が一旦生産活動からリタイヤを余儀なくされた人々の生産活動への復帰の支援であると考えれば決して悪い制度ではないとは思うのだが、やはり疑問が残る。

  1. 高齢者や高度障碍者のように本来生産活動の市場には不在であることが前提の人々は就労「義務」を果たせないわけであり、その場合は支給額を減少させるのか?という点。
  2. 最低賃金をさらに下げ、企業に雇用義務を課すことで確かに生活保護受給者(で勤労が出来る状態の人)には結構な話だと思うが、最低賃金未満の賃金で数年間働かせ、その後解雇、また最低賃金未満の賃金で数年間働かせることで企業がこの制度を悪用するという懸念が生じるという点。
  3. 上記に関連して、既存の従業員(最低賃金以上を受給されているとする)が生活保護受給者を雇い入れることでリストラの対象となり*3、新たな貧困層を生み出しかねないという点。

そもそも最低賃金未満で働かせるということ自体問題だと思うし、そして何よりも問題なのはこの制度の根幹には「生活保護受給者」≑「犯罪者」という思想が見え隠れすることだ。

このモデルは

ルポ 貧困大国アメリカ II (岩波新書)

ルポ 貧困大国アメリカ II (岩波新書)


で紹介されていた刑務所ビジネスを彷彿とさせる。
同書では囚人が第三世界並みの低賃金で「職業訓練」と称して低賃金でコールセンター業務や産業廃棄物の処理をしているという話が紹介されているが、日本もそれに追従しようということなのだろうか。
そしてこの制度には再分配や、本来の意味での貧困問題の解決にはならないのではないかと私には思われるのである。

(追記)
上記記事をアップした後当の鈴木氏から以下のような反論があったことを知った。
事実誤認の産経新聞「西成特区の生活保護改革」記事(鈴木亘) - BLOGOS(ブロゴス)
産経の飛ばし記事のようであるが、制度自体を実際に否定するものではないようですし、そもそも産経の記事なんぞ信用して記事にしたこちらにも非があることですので(苦笑)このままにしておきます。
産経には謝罪と賠償を(ry

*1:とある民間会社が同業他社の給料の高さを批判するようなものだ

*2:当然だけど「消費」税である以上景気に左右される税と言うべきだから不況になれば徴収できる税額は当然に減る

*3:「最低」賃金である以上これより賃金を下げることは条例を変更しない以上不可能なため