kodebuyaの日記

労働問題が最近多くなった食レポブログです。

任意が強制にかわるとき

以前私がいた会社では当時の社長がとある経営コンサルタントに嵌まってしまい、
突然に始業前に会社のトイレの掃除を始めたことがあった。
曰く「社長自らトイレを掃除する会社は成長する」ということだった。

当然ことは社長だけに納まるはずも無く、「社長を見習おう!!」と一部の取締役が
言い出したこともあって*1、そのうちに部長以上の人間は毎朝始業前に社長と一緒に掃除をすることが日課となり、私が退職した後には一般社員も「掃除は心を磨く」とかなんとかいうスローガンと共に始業前に、オフィス内だけではなく事務所が入っているビルの周囲も掃除をすることになったらしい。

掃除をするために、その会社の人間は始業時間よりかなり前にオフィスに来ることになったわけだ。
気になるのはちゃんと早出残業手当を会社が出しているかということだ。

心を磨くとかいいだしてたのであれば
「自己研鑽なんだから自分のため。会社は場を与えているだけだから出勤ではない」
という理屈で無給扱いにしていた可能性も高いと思う。
早出残業を拒否した場合*2の会社の対応も気になるところだ。

なんでこんなことを急に思い出したかというと
中日新聞:<はたらく>始業前出勤 強制か心掛けか 「出勤遅延未遂」責められた駅員が自殺:暮らし(CHUNICHI Web)
という記事を読んだからだ。

記事はいう。

「朝活」ブームで、早朝から一日のスタートを切る人も多い。だが、それが仕事絡みで上司の指示に基づくなら、時間外労働として扱われ、労働基準法の制約を受けるのが筋だ。始業前出勤はあくまで自主的な心掛けか、それとも事実上の強制か。はざまで苦しんだ駅員だった男性のケースを追った。 (三浦耕喜)

 今年一月十七日。滋賀県内の山林で、二十一歳の男性が自ら命を絶った姿で見つかった。男性はJR東海に入社して二年。駅員だった男性は寮から姿を消し、家族や友人が行方を捜していたのだ。

 家族が上司から聞いた説明で、経緯が浮かび上がってきた。男性は以前、始業時間に遅刻したことから、定時より一時間前に出勤するよう「奨励」されていたのだ。

 失踪する数日前、男性は定時の二十分前に出勤した。だが上司は、一時間前に出勤しなかったことを理由に、「出勤遅延未遂」と指摘。理由を明らかにするように、プライベートを含めて、前日からの行動記録を提出するよう求めた。

 その提出期限は男性の休日だったが、職場に来て提出するよう約束させた。しかし、男性は期限に現れず、行方が分からなくなった。

 以前に遅刻した際、男性は一週間にわたって勤務を外され、「反省」を迫られる経験をしている。失踪の前日、近所のホームセンターで男性はロープを買っていたことが、見つかったレシートで分かった。男性の父親(55)は「息子が遭ったのは明らかないじめであり、パワハラだ。遅刻未遂とは、遅刻していない意味のはず。なぜ自殺に追い込まれるまで責められなければならなかったのか。会社は明らかにするべきだ」と話す。

     ◇

 始業前に余裕を持って出勤するのは、一般的には仕事をスムーズに運ぶ上で良いこととされる。だが仕事に密接に関わることは本来、労働時間に含まれる。例えば制服や作業着に着替える時間。これを争った大手造船会社の勤務をめぐる裁判では二〇〇〇年三月、着替え時間も労働時間に含まれると最高裁が判断した。

 判断の基準は「労働者の行為が、使用者の指揮命令下に置かれたものと評価できるか否か」だ。朝礼や打ち合わせなど、上司が仕事の方針や手順を示し、それに参加しないと仕事上、本人の不利益になる場合は「指揮命令下」に当てはまる。

 では、始業前に有志で勉強会を開く「朝活」はどうか。その場合、本人の自由意思で参加している限り、労働時間には入らない。だが、その「朝活」を上司が奨励し、昇進や給与、待遇を判断する材料となる場合は、「指揮命令下」である疑いは濃くなる。

 会社側が始業前出勤を労働時間と見なさない以上、始業前に出勤しないことを理由に本人の責任を問うことは本来できない。自殺した男性のケースでは、一時間前の出勤「奨励」が事実上、上司の指示に基づく強制だったのかどうか、あくまで「奨励」なら、上司が遅刻の「未遂」をただしたことが正当だったのかどうか、が問題となる。

 労働法制に詳しい労働弁護団の鵜飼良昭会長は「時間厳守と言いながら、働く者の時間を守っていないのは会社側だ。大幅な定時前出勤を奨励すること自体、法の精神に反している」と指摘する。

 男性の自殺について、JR東海広報部は本紙の取材に対し「当社と遺族との関係なので、コメントはしません」としている。

私が勤めた会社もそうだった。
最初は社長だけがやっているはずだった。
それがいつのまにやら一般社員も任意という名の早出残業を強いられることになった。


いや、掃除が悪いとかそういう話ではないし、自己を磨かせて頂いていると思えるのであれば個人の考えとしてはいいのだろうけれども、上記記事のように
「「朝活」を上司が奨励し、昇進や給与、待遇を判断する材料となる場合は、「指揮命令下」である。」といわざるを得ないだろう*3
まして記事のケースでは件の「遅刻未遂」と失跡した上司は、これは実質上の遅刻であるが、就業規則上は就業時間に遅れていないことは明らかなので遅刻と評価できず、あえて「未遂」と評価し、その上で罰として反省文を提出させたというようにしか私には見えない。


会社はよかれと思ってやっているのだろう。
その点は性善説でありたいと思う。
それが「今後の君の立場」とバーターされた時点で任意は強制に変わる。

*1:わかりやすいおべっかだと思ったが、そういうことを臆面も無く言えるのが出世の道なのだろうと当時は思った

*2:家庭の問題や通勤時間の兼ね合いで難しいこともある

*3:この点において記事の歯切れは悪い