大企業だからだろう
東京メトロで勤務し、痴漢行為を理由に解雇された男性が、解雇の無効を求めた訴訟で、東京地裁は25日、「処分は重過ぎる」として無効と認める判決を言い渡した。
石田明彦裁判官は、男性の勤務態度に問題がなかったことや、弁明の機会が十分に与えられなかったことを挙げ「懲戒権の乱用に当たる」と指摘した。
判決によると、男性は2007年4月入社。13年12月、電車内で女性の体を触ったとして逮捕され、罰金刑が確定した。昨年4月、諭旨解雇の懲戒処分となった。
東京メトロは「主張が認められず遺憾だ。判決内容を精査して対応を検討したい」とコメントした。
一見「なんじゃそりゃ?」と思えるような判決ではあるが、この判決自体はおかしなものではない。
- 私生活上の非道行為が懲戒解雇の対象となるためには
本件は労働者がとりあえずこれ以上のトラブルを避けるために容疑を認めたという話もあり、事実そのような行為があったのかどうかの判断は保留するが、労働者の非道行為が懲戒解雇の対象となるためには
会社の社会的評価に重大な悪影響を与えるような労働者の行為については、それが職務遂行と直接関係のない私生活上の行為として行われたものであっても、会社の規制を及ぼしうる。従業員の不名誉な行為が会社の体面を著しく汚したというためには、必ずしも具体的な業務阻害の結果や取引上の不利益の発生を必要とするものではないが、当該行為の性質、情状のほか、会社の事業の種類・態様・規模、会社の経済界に占める地位、経営方針及びその従業員の会社における地位・職種等諸般の事情から総合的に判断して、右行為により会社の社会的評価に及ぼす悪影響が相当重大であると客観的に評価される場合でなければならない。
*1
とされている。本件の場合は地下鉄勤務の職員が「出勤前に」このような行為を犯しているわけであるけれども、この職員の地位(管理職以上の者であれば会社の被る不利益も大きいだろう)や職種(内勤の職員と現場勤務とでは意味合いが異なってくる)など総合的に勘案した結果として懲戒解雇が妥当((本件は諭旨解雇であるが、日本の労働法規に諭旨解雇の規定は存在せず、実際は懲戒解雇といえる。))であると判断されなければならないということになる。
本件の職員の会社における立場は上記記事からは不明であるが、例えば内勤者で平社員、かつ罰金(迷惑条例違反と思われる)で済んでいるということであれば確かに会社の体面は傷つくが、「悪影響が相当に重大」とまでは評価しにくいのでは無いかと思う。
- 仮に上記を満たしたとしても企業側には更正させる責任がある。
労働契約法16条によれば
解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。
とある。「合理性」と「相当性」が解雇には必要とされる訳である。
合理性とは
a.傷病等による労働能力の喪失・低下
b.能力不足・適格性の欠如
c.非違行為
d.使用者の業績悪化等の経営上の理由(いわゆる整理解雇。)
e.ユニオンショップ協定に基づく解雇(但し一定の制限がある。)
(84)【解雇】解雇の社会的相当性|労働政策研究・研修機構(JILPT)
相当性とは
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a.使用者の従業員の行った違反に対する黙認、注意・指導・監督の欠如
b.適正な指示・命令の欠如、配転等による改善努力の欠如
ことほど左様に解雇は困難に「見える」ため、一部の経済学者やエコノミスト*2は、日本の企業の解雇の困難性が労働力の弾力性を損ねているというわけだが、これは一部正しく残りは大間違い。
「日本の」大企業は解雇が難しいというべきなのだ。
- 中小企業の現実
解雇するスキル・・・なんかなくてもスパスパ解雇してますけど: hamachanブログ(EU労働法政策雑記帳)
によればまぁよくぞこんな理由思いつくなというような理由で解雇がなされている。
日本の雇用終了―労働局あっせん事例から (JILPT第2期プロジェクト研究シリーズ)
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例えば
・10096(非女):「うちの事務所に合っていない」「解雇ですね」(10 万円で解決)
・10110(非女):カラーに合わないを理由に普通解雇(不参加)
・10136(試男):社風に合わないことを理由に普通解雇(不参加)
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(太字は引用者)
これ、労働あっせんに上がってきたものなので実際はさらに酷い理由で解雇されているであろうことは想像に難くない。
これがあっせんの場で終わってしまうのは何故か?中小企業でニュースバリューに欠けるからだ。
また、外資系企業であれば部門丸ごと潰してしまったりするが、「外資だから」という理由で社会的に問題にならない。
日本の中小企業は企業全体の97%を占めるのだという。
中小企業庁:FAQ「中小企業白書について」
ある意味日本は解雇天国であり、そこに入っていない大企業だからこその上記記事であり、中小企業に勤める私としてはむしろ羨ましくすら思える話でもある。