kodebuyaの日記

労働問題が最近多くなった食レポブログです。

求職票と労働契約内容が異なるとき

昨日記事*1を書いたのは理由があって、数日前にこちらの記事を某所で知ったことによる。
「職安法に違反」遺族が刑事告訴 帰宅中に事故死 東京 (産経新聞) - Yahoo!ニュース
<<
帰宅途中に交通事故死した男性の遺族が22日、ハローワークの求人票と異なる長時間労働を強いられたとして、職業安定法違反罪で、男性の勤務先だった植物ディスプレー会社(東京都)に対する告訴状を警視庁に提出したと明らかにした。

 告訴状などによると、渡辺淳子さん(59)の次男、航太さん=死亡当時(24)=はハローワークの求人票で同社を見つけ、平成25年10月に就職。求人票での雇用形態は正社員で、時間外労働は月平均20時間と記載されていた。だが、約半年間はアルバイト契約で週6日、フルタイムの勤務を要求されたほか、月100時間超の残業をさせられたことは「職安法に違反する」としている。
(以下省略)
>>
初め見たときは「あぁまたか...」と思ったのだが、よくよく読んでみると「<b>職業安定法</b>」違反で事業主側を刑事告訴をしたというあまり聞かない事例だったのだった。
しかもこの手の話は本来労働基準監督署に告発するものかと思うが、警視庁に告発したということは労働基準監督署側の対応が酷かったのだろうかと邪推してしまう。

それはともかく、確かに職業安定法65条によれば
<<
第六十五条  次の各号のいずれかに該当する者は、これを<b>六月以下の懲役又は三十万円以下の罰金に処する。</b>
一  第十一条第三項の規定に違反した者
二  第三十二条の三第一項又は第二項の規定に違反した者
三  第三十三条の二第一項又は第三十三条の三第一項の規定による届出をしないで、無料の職業紹介事業を行つた者
四  第三十六条第二項又は第三項の規定に違反した者
五  第三十七条の規定による制限又は指示に従わなかつた者
六  第三十九条又は第四十条の規定に違反した者
七  第四十八条の三の規定による命令に違反した者
八  <span style="color: #ff0000"><b>虚偽の広告をなし、又は虚偽の条件を呈示して、職業紹介、労働者の募集若しくは労働者の供給を行つた者又はこれらに従事した者</b></span>
九  労働条件が法令に違反する工場事業場等のために、職業紹介、労働者の募集若しくは労働者の供給を行つた者、又はこれに従事した者
>>
とあり、この「広告」は文字通り広告であって、公共職業安定所(以下職安)に対してだろうが民間の職業紹介事業者に対してだろうが関係なく適用がなされるものだと解釈されるべきだからだ。

だいたい、職安の求人票には嘘が多いということは以前より指摘があったところであり、これら指摘を受けて厚生労働省
ハローワークでの求人票と実際の労働条件が異なる場合の対策を強化します |報道発表資料|厚生労働省
というマスコミ発表をしなければならないことになった。
上記発表によれば
>>
平成 24 年度に全国のハローワークに寄せられた申出で、求人票の記載内容と実際の労働条件が違うといった申出は、 7,783 件でした。申出の内容の上位は、賃金に関することが 2,031 件( 26 %)、就業時間に関することが 1,405 件( 18 %)、選考方法・応募書類に関することが 1,030 件( 13 %)でした。
<<
ということであり
<<
ハローワーク求人ホットライン」を開設するなど、ハローワーク公共職業安定所)で公開している求人票の記載内容と、実際の労働条件が異なる場合の対策を強化します。
>>
とあるが、実際のところといえば
ハローワークの求人票と全然違う!!: 須田みき
にもあるように殆どなんの対策もなされていないというのが現状のようだ。
上記記事から引用する。
<<
ハローワークからその会社に調査や指導をしてもらうことはできますか?
⇒できません。調査や指導をする機関ではないからです。雇用契約書と実際の労働が異なる場合は、担当機関が労働基準監督署になります。

こんなひどい会社なので、求人をハローワークに受付拒否してもらうことはできますか?
⇒現在はできません。今後はどうなるかわかりませんが、今のところそのような法律や制度がなく、ハローワークは全て受け付けなければならないからです。

働き始めて1ヶ月が経ちますが、求人票と同じ条件にしてもらうことはできますか?
⇒求人票と異なるとしても雇用契約を結んでいるので、その条件に納得して働いているということになるため難しいですが、交渉は可能です。

求人票と異なることについて罰則はないのか(`・ω・´)
⇒現在はないです(ーー;)労働基準法違反でもありませんから、労働基準監督署でも取り締まれません(で書いたのは、求人票ではなく雇用契約書と異なる話です)。
>>
つまり
「求人とはあくまで契約の誘因であって、実際は雇用契約をしてしまうと民法上の契約自由の原則が働いてしまうことから、雇用契約が求人票のそれと異なる場合は雇用契約が優先する。」ということらしい。
ずいぶんな話だが、職安に求人票を提出する際には就業規則など書面の提出は何ら必要がないことから、職安は提出された求人票を受理する敷かないのだそうだ。
流石にこれは酷すぎるということで厚労省も重い腰をようやく上げて今年の3月から以下のような対応をするとのことだ。
ブラック企業の求人は門前払いに 来春からハローワーク:朝日新聞デジタル
>>
新制度は、10月から順次施行されている青少年雇用促進法に基づく。ハローワークでの求人は原則、企業が出したものはすべて受け付けなければならなかった。だが新制度では「ブラック」な企業の求人は受理しないようになる。違法な長時間労働や残業代を払わないといった違反を1年間に2回以上、労働基準監督署から是正指導されるなどした企業が対象となる。
<<
同じ厚労省の(というよりどちらも旧労働省管轄にもかかわらず)連携がようやく取れるということのようだが、労働基準監督官も不足する状態の中でどこまで有効な対策なのかには疑問がある。

今回の件で私の知人は「労働基準法15条2項*2適用で契約の即時解除が可能なのではないか?」といっていたが、職安の求人票には労働基準法15条2項のいう「明示された労働条件」が必ずしも記載されていないので即時解除は難しいのではないかと思う。

そこで、昨日の記事のような手段を取るのもやむを得ない対抗策なのではないかと思ってアップした。
ちなみに、このような企業がやりかねない嫌がらせとしては
離職票を出さない。
・離職理由を「自己都合」、もしくは「懲戒解雇」として給付制限をかける。
ということが考えられる。

離職票を出さない場合は自分の住所地管轄の職安に出向き、「確認の請求」を行えば、会社に対して離職票を出すように指導してくれる。会社が退職の事実は認めても離職票の提出に応じないという場合には、職安が職権で証明することも可能だ。

離職理由については、労働契約と実際の労働が著しく異なる場合や、離職直前の 6 か月間(賃金締切日を起算日とする各月)の間に 45 時間を超える時間外労働が 3 月連続してあったため離職した場合、100 時間を超える時間外労働が1月あったため離職した場合、又は 2~6 月平均で月 80 時間を超える時間外労働があったため離職した場合等は、自己都合退職であっても「特定受給資格者」として給付日数を大幅に増加させることもできる*3
今回の事件は労働時間を理由にする退職も可能だったはずであり、そのような労働法規に詳しい人に相談できなかったことが悔やまれる。

*1:
逃げろ逃げろ - kodebuyaの日記

*2:前項の規定によつて明示された労働条件が事実と相違する場合においては、労働者は、即時に労働契約を解除することができる。

*3:ただしこのような場合では事業主が事実関係を認めるとは考え辛いため、自分でエビデンスを用意する必要もあるだろう