kodebuyaの日記

労働問題が最近多くなった食レポブログです。

極悪の極みの高度プロフェッショナル制度

久々の更新となる。

所謂高度プロフェッショナル法案だが、5月23日に強行採決という方向で進んでいるようだ。「ゆ党」である維新の怪が修正に同意したと昨日(5月19日付)の読売新聞朝刊が報じていた。その修正案については以下の記事を引用する。
働き方改革関連法案:「高プロ」の適用、同意後解除可能 厚労省検討 - 毎日新聞

厚生労働省は15日、働き方改革関連法案の柱の一つで、高所得の一部専門職を労働時間規制から外す「高度プロフェッショナル制度(高プロ)」について、本人が制度適用に同意した後でも解除できる仕組みを導入する検討に入った。同省関係者が取材に明らかにした。自民党との修正協議に臨んでいる日本維新の会や、公明党の要請に応じた形だ。
 法案によると、高プロは研究開発業務やコンサルタントなど高度な専門知識を必要とし、「時間ではなく成果で評価される」労働者に対して、本人が同意すれば適用できる。労働法制では初めて、労働時間規制を外す。【神足俊輔、阿部亮介】

この制度は欠陥ばかりの制度であり*1、その一つが、高プロは導入時には労働者の適用同意が必要であったが、労働者が離脱する手段がないという点であったが、今回の修正でその欠点が形式上は解消されたということになる。

使用者と労働者が対等の立場に(実質上も)あることが前提の離脱規定だ

労働基準法は「労働条件は、労働者と使用者が、対等の立場において決定すべきものである。」と定め*2、労働契約法は「労働契約は、労働者及び使用者が対等の立場における合意に基づいて締結し、又は変更すべきものとする。」*3としている。つまり
労使の立場が対等ではないことを当然なこととして、修正をかけているのだ。
恐らく修正条項には「離脱の申出をしたことを理由に不利益な取扱をしてはならない」というような文言が加えられることになるとは思うが、実際は労働基準法や労働契約法の条項によっても労働者に不利益な条件で契約し、契約を変更されたと言うことはいくらでもある話だ。また、不利益取扱の禁止には「合理的な理由がある変更は有効」という重大な例外があり「高プロ」制度の場合この「合理的な理由」が認められる可能性が他の場合より高いといえる。なぜなら「高度」で「プロフェッショナル」な働き方をする労働者に対して適用する制度であるのだから「高度」で「プロフェッショナル」な業務に給与を多く支払うという給与設計とすることは自然なことになる。とすれば「高プロ」から離脱すると「高度」で「プロフェッショナル」なことを前提に支給される各種手当てを削減することは極めて当然なことになるためだ。
例えば
年収1080万円であったとしても、その内訳を
基本給240万円(月額20万円)
職務給360万円(月額30万円)
職能給480万円(月額40万円)
という給与設計とすれば、離脱した瞬間に職務給と職能給を外し、年収240万円とできる。こうなると「高プロ」業務を離脱するとなると大幅な減収を甘んじよと言うことになるので実際に労働者にとって離脱の自由はなくなってしまう。そして労使の力関係を考えればこのような労働条件に双方合意させられてしまう可能性は極めて高い。
更に問題はこれだけではない。

実際の手取りは大きく下がるが、社会保険料は高止まりする。

今回の働き方改革関連法案を厳しく批判する佐々木亮弁護士は
高プロ制度は地獄の入り口 ~ High-pro systm is the gate to hell~(佐々木亮) - 個人 - Yahoo!ニュース

にて次のように批判する。

(前略)
まず、年収を1075万円と設定し、契約上、働かなければならない時間を、6264時間とします。
 この6264時間とは、1年の365日から、使用者が付与を義務づけられている休日日数104日を引いた261日に、24時間を掛けた時間数です。
 理論上、この時間数が、高プロでの最大の労働時間数となります。
 これを働くようにという契約も、高プロにおいては、法違反ではありません。
 
 当然ですが、人間は機械とは異なるため、24時間労働を何日も連続することは不可能です。
 どこかで力尽きて働けなくなるでしょう。
 その場合、1時間働けなくなるごとに時給換算した1716円ずつ給料が減ることになりますし、24時間休めば、4万円以上、給料が減ることになります。
 
 でも、そうなると高プロの年収要件を割って、高プロの適用がなくなるのでは?と思うところですが、高プロは、一定の年収が得られる「見込み」でいいので、欠勤控除などで下がる分は「見込み」には影響しないものと思われます。
 
 さて、そうすると、どうなるでしょうか。
 高プロで所定労働時間の設定をするにあたり、物理的な最大限の労働時間を所定労働時間と設定した場合の時給は1716円です。
 これを労働基準法の労働時間規制が許される労働時間で再計算すると、年収357万7860円(※3)となるのです。
 なんと!
 高プロは年収1075万円以上の労働者が対象と言いつつも、実は年収357万円くらいの労働者にも、やりようによっては適用できちゃうんですね。
(後略)

そう、使用者側は「契約どおりの勤務ができていないのだから、遅刻早退控除や欠勤控除をするのはノーワークノーペイの原則からして当然だ」といえてしまう。
そして更に問題なのは、「社会保険料が収入が大幅に減少しても下がらない」ということだ。
どういうことか?
確かに社会保険料は固定的賃金が減少し、その下げ幅が2等級以上であり、かつ、その状態が3か月継続すれば保険等級を引き下げ、その保険料を下げるということをしている。その趣旨は給与実態にあった保険料とする点にあるのであるが、この場合の「固定的賃金の減少」とは、降給や給与形態の変更ということを原因とするものであって、欠勤等の控除を理由とすることができないためだ。
勿論年1回7月に実施される保険料算定により実際の支給額に見合った保険料にはなるが、実際に保険料の引き下げが開始するのはその年の9月または10月給与からであり、場合によっては1年数か月間高い保険料を甘受することになりかねない。
上記佐々木弁護士の例で言えば、年収1075万円以上のはずが実際は年収357万円となり、かつ保険料は高額となると実際の手取りは厳しいものになることは言うまでもない。使いようによってはリストラの手段とすることもできるのだ。

可能性を作ることが問題だ。

もちろん、佐々木弁護士の言う例は極端なものであり、このような運用をすれば社会的な制裁もあるだろうから、実際に運用されることはないという反論はあり得るだろう。
しかし、運用の可能性があると言うことは、それ自体が労使間の交渉での使用者側の恫喝材料となり得ることを意味する。運用の可能性を作ってしまうこと自体が問題なのだ。
極めて労働者にとって凶暴な制度であり労働制度審議会への差し戻しでは足りない。一刻も早く廃案とすべきだ。

*1:そもそも労働運動は賃金だけではなく労働時間などの労働環境の改善を求めていたという歴史があり、「沢山払うから死ぬまで働け」という話は歴史を無視したものでしかない

*2:第2条1項

*3:第3条