kodebuyaの日記

労働問題が最近多くなった食レポブログです。

極悪の極みの高度プロフェッショナル制度

久々の更新となる。

所謂高度プロフェッショナル法案だが、5月23日に強行採決という方向で進んでいるようだ。「ゆ党」である維新の怪が修正に同意したと昨日(5月19日付)の読売新聞朝刊が報じていた。その修正案については以下の記事を引用する。
働き方改革関連法案:「高プロ」の適用、同意後解除可能 厚労省検討 - 毎日新聞

厚生労働省は15日、働き方改革関連法案の柱の一つで、高所得の一部専門職を労働時間規制から外す「高度プロフェッショナル制度(高プロ)」について、本人が制度適用に同意した後でも解除できる仕組みを導入する検討に入った。同省関係者が取材に明らかにした。自民党との修正協議に臨んでいる日本維新の会や、公明党の要請に応じた形だ。
 法案によると、高プロは研究開発業務やコンサルタントなど高度な専門知識を必要とし、「時間ではなく成果で評価される」労働者に対して、本人が同意すれば適用できる。労働法制では初めて、労働時間規制を外す。【神足俊輔、阿部亮介】

この制度は欠陥ばかりの制度であり*1、その一つが、高プロは導入時には労働者の適用同意が必要であったが、労働者が離脱する手段がないという点であったが、今回の修正でその欠点が形式上は解消されたということになる。

使用者と労働者が対等の立場に(実質上も)あることが前提の離脱規定だ

労働基準法は「労働条件は、労働者と使用者が、対等の立場において決定すべきものである。」と定め*2、労働契約法は「労働契約は、労働者及び使用者が対等の立場における合意に基づいて締結し、又は変更すべきものとする。」*3としている。つまり
労使の立場が対等ではないことを当然なこととして、修正をかけているのだ。
恐らく修正条項には「離脱の申出をしたことを理由に不利益な取扱をしてはならない」というような文言が加えられることになるとは思うが、実際は労働基準法や労働契約法の条項によっても労働者に不利益な条件で契約し、契約を変更されたと言うことはいくらでもある話だ。また、不利益取扱の禁止には「合理的な理由がある変更は有効」という重大な例外があり「高プロ」制度の場合この「合理的な理由」が認められる可能性が他の場合より高いといえる。なぜなら「高度」で「プロフェッショナル」な働き方をする労働者に対して適用する制度であるのだから「高度」で「プロフェッショナル」な業務に給与を多く支払うという給与設計とすることは自然なことになる。とすれば「高プロ」から離脱すると「高度」で「プロフェッショナル」なことを前提に支給される各種手当てを削減することは極めて当然なことになるためだ。
例えば
年収1080万円であったとしても、その内訳を
基本給240万円(月額20万円)
職務給360万円(月額30万円)
職能給480万円(月額40万円)
という給与設計とすれば、離脱した瞬間に職務給と職能給を外し、年収240万円とできる。こうなると「高プロ」業務を離脱するとなると大幅な減収を甘んじよと言うことになるので実際に労働者にとって離脱の自由はなくなってしまう。そして労使の力関係を考えればこのような労働条件に双方合意させられてしまう可能性は極めて高い。
更に問題はこれだけではない。

実際の手取りは大きく下がるが、社会保険料は高止まりする。

今回の働き方改革関連法案を厳しく批判する佐々木亮弁護士は
高プロ制度は地獄の入り口 ~ High-pro systm is the gate to hell~(佐々木亮) - 個人 - Yahoo!ニュース

にて次のように批判する。

(前略)
まず、年収を1075万円と設定し、契約上、働かなければならない時間を、6264時間とします。
 この6264時間とは、1年の365日から、使用者が付与を義務づけられている休日日数104日を引いた261日に、24時間を掛けた時間数です。
 理論上、この時間数が、高プロでの最大の労働時間数となります。
 これを働くようにという契約も、高プロにおいては、法違反ではありません。
 
 当然ですが、人間は機械とは異なるため、24時間労働を何日も連続することは不可能です。
 どこかで力尽きて働けなくなるでしょう。
 その場合、1時間働けなくなるごとに時給換算した1716円ずつ給料が減ることになりますし、24時間休めば、4万円以上、給料が減ることになります。
 
 でも、そうなると高プロの年収要件を割って、高プロの適用がなくなるのでは?と思うところですが、高プロは、一定の年収が得られる「見込み」でいいので、欠勤控除などで下がる分は「見込み」には影響しないものと思われます。
 
 さて、そうすると、どうなるでしょうか。
 高プロで所定労働時間の設定をするにあたり、物理的な最大限の労働時間を所定労働時間と設定した場合の時給は1716円です。
 これを労働基準法の労働時間規制が許される労働時間で再計算すると、年収357万7860円(※3)となるのです。
 なんと!
 高プロは年収1075万円以上の労働者が対象と言いつつも、実は年収357万円くらいの労働者にも、やりようによっては適用できちゃうんですね。
(後略)

そう、使用者側は「契約どおりの勤務ができていないのだから、遅刻早退控除や欠勤控除をするのはノーワークノーペイの原則からして当然だ」といえてしまう。
そして更に問題なのは、「社会保険料が収入が大幅に減少しても下がらない」ということだ。
どういうことか?
確かに社会保険料は固定的賃金が減少し、その下げ幅が2等級以上であり、かつ、その状態が3か月継続すれば保険等級を引き下げ、その保険料を下げるということをしている。その趣旨は給与実態にあった保険料とする点にあるのであるが、この場合の「固定的賃金の減少」とは、降給や給与形態の変更ということを原因とするものであって、欠勤等の控除を理由とすることができないためだ。
勿論年1回7月に実施される保険料算定により実際の支給額に見合った保険料にはなるが、実際に保険料の引き下げが開始するのはその年の9月または10月給与からであり、場合によっては1年数か月間高い保険料を甘受することになりかねない。
上記佐々木弁護士の例で言えば、年収1075万円以上のはずが実際は年収357万円となり、かつ保険料は高額となると実際の手取りは厳しいものになることは言うまでもない。使いようによってはリストラの手段とすることもできるのだ。

可能性を作ることが問題だ。

もちろん、佐々木弁護士の言う例は極端なものであり、このような運用をすれば社会的な制裁もあるだろうから、実際に運用されることはないという反論はあり得るだろう。
しかし、運用の可能性があると言うことは、それ自体が労使間の交渉での使用者側の恫喝材料となり得ることを意味する。運用の可能性を作ってしまうこと自体が問題なのだ。
極めて労働者にとって凶暴な制度であり労働制度審議会への差し戻しでは足りない。一刻も早く廃案とすべきだ。

*1:そもそも労働運動は賃金だけではなく労働時間などの労働環境の改善を求めていたという歴史があり、「沢山払うから死ぬまで働け」という話は歴史を無視したものでしかない

*2:第2条1項

*3:第3条

統計をつまみ食いする安倍政権

裁量労働制は「平均的な方」で比べると一般労働者よりも労働時間が短い?

現在国会で審議中の所謂「働き方改革法案」であるが、驚くべき答弁が総理大臣と厚労大臣から飛び出したようだ。以下上西充子法政大学キャリアデザイン学部教授のブログから引用。
news.yahoo.co.jp

立憲民主党長妻昭議員に対する安倍首相の答弁(衆議院予算委員会2018年1月29日)
それと、厚生労働省の調査によれば、裁量労働制で働く方の労働時間の長さは、平均な、平均的な方で比べれば一般労働者よりも短いというデータもあるということは、御紹介させていただきたいと思います。

民進党・森本真治議員に対する加藤厚生労働大臣の答弁(参議院予算委員会2018年1月31日)
どういう認識のもとにお話しになっているのかということがあるんだと思いますけれども、確かにいろんな資料をみていると、裁量労働制の方が一般の働き方に比べて長いという資料もございますし、他方で平均的な、平均で比べれば、短いという統計もございますので、それは、それぞれのファクトによって、見方は異なってくるんだろうと思います。

では、その総理が言うところの「データ」や、厚労大臣のいうところの「資料」だが、これが適切に引用されているものであれば驚くべきことになる。拙ブログが裁量労働制拡大に反対したのはこの政策が「定額働かせホーダイ」になりかねない危険なものであるからだったが実際はそうではない、労働者の働き方の自由を確保できる可能性がある大変有意義な政策ということになるものであると、この政策に対する私の評価を大幅に変えなければならないということになるからである。

裁量労働制と労働時間の長さとの相関関係

野党側は労働時間が長くなることについての根拠を
ictj-report.joho.or.jp
に代表される統計データに求めた。
f:id:kodebuya1968:20180204121430p:plain

こちらは勤務時間のアンケートをそれぞれの労働者に行い、得た回答を時間別にグラフ化したものであり、これを見る限り実に6割の裁量労働制適用労働者が12時間以上の労働を行い、10時間以上となれば9割の労働者が当てはまっていることがわかる*1
また、同調査に寄れば

裁量労働制が適用されている者の通常の業務量にたいする認識
恒常的に自分のキャパシティを超えた業務量を抱えている14.1% (30名)
たまに自分のキャパシティを超えた業務量を抱えている57.3% (122名)
いつもちょうどよい業務量24.4% (52名)たまに業務量が少ないと感じている2.8% (6名)
恒常的に業務量が少ないと感じている1.4% (3名)
計100.0% (213名)

となっており、7割以上の労働者が「恒常的にまたは偶に」自己のキャパシティを超える業務を抱えていると考えているのがわかる。
以上調査は

業務の遂行方法(やり方)に関する裁量はあったとしても、業務の「量」に関する労働者の裁量は限定されており、実際の業務量も、労働者が自身で時間配分を調整できる範囲にとどまらないことがわかる。

と結論づけている。

「平均」の定義

一方、政府側は一般労働者・裁量労働制適用労働者の「平均」の労働時間を比較し、「裁量労働制適用労働者」の労働時間は一般労働者のそれに比べ短い「場合」があると反論した。上掲上西教授に寄れば政府は
http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12602000-Seisakutoukatsukan-Sanjikanshitsu_Roudouseisakutantou/shiryo2-1_1.pdf
を根拠に答弁したとのことであるがここでいう「最長の者」、「平均的な者」の定義を

この調査の調査項目に「平均的な者」と「最長の者」についての労働時間を把握した項目がある。一般労働者の時間外労働・休日労働の実績を紹介したページ(p.7)に、「最長の者」と「平均的な者」について、次のように説明がある。
5 時間外労働・休日労働の実績
※この項の「最長の者」とは、調査対象月における月間の時間外労働が最長の者のことをいい、「平均的な者」とは、調査対象月において最も多くの労働者が属すると思われる時間外労働時間数の層に属する労働者のことをいう。
 ここで注目したいのは、「平均的な者」とは、「最も多くの労働者が属すると思われる時間外労働数の層に属する労働者」のことであって、労働時間の平均値を表すわけではないという点だ。

であると指摘している。

つまり、各々の労働者の労働時間の平均をとり比較するのではなく、母数が一番多い労働者の労働時間の平均を取り比較をしたということだ。これで上記資料を見ると確かに裁量労働制の労働者は8.5時間~9時間の労働者の母数が最も多くなる。その母数の平均を取るというのであるから、仮にどちらも同じ時間帯の労働者が一番大きかったとしても、一般労働者の時間の平均が9時間、裁量労働制の労働者の平均が8.5時間となると、一般労働者の方が長くなるということになるという理屈だ。

普通「平均」というと、この場合は調査母数全体の総労働時間を集計し、母数で割るのだと思うが、ここで言う平均は必ずしもそうではなく、母数の一番大きなものの労働時間の平均をとったというもので、それ自体はおかしなやり方だとは思わないが、必ずしも野党側の質問に真正面から答えているとはいえないだろう。
むしろこれについてのブクマ
b.hatena.ne.jp

>>maruX ↓労働時間が長い方からボロボロと死んでゆくのに中央値取ってなんか意味あるの…?

という批判のとおりだろうし、上西教授の以下の批判に政府は答えるべきだろう。

 政府は小細工によって国民を欺くような真似はやめて、現在でも裁量労働制のもとで働く労働者が長時間労働になりやすいという調査データが示す現実にどう対処し、どう過労死を防ぐかという問題に、真摯に向き合うべきだ。

問題は労働時間そのもののみにあるのではない

裁量労働制はその言葉のとおり労働者の「裁量」に委ねられた労働であるということであるが、その実際は少なくとも業務量については労働者の裁量がおよばないものであり、それが原因で10時間以上勤務を余儀なくされる労働者が過半数を超える実態があるというべきであり、経営者側が労働者に裁量権の全てを渡すくらいにしなければやはりこの制度改革は「定額働かせホーダイ」制度だという誹りを免れないだろう。
また、統計資料を恣意的につまみ食いする安倍政権の態度は更に非難されるべきだ。

*1:10時間以下の場合は一般労働者の占める割合が多いが、それは多くの企業が残業時間を月40時間とする36協定を締結している影響ではないかと思われる

裁量労働制拡大と自己責任

所謂「働き方改革一括法案」が今国会で審議される。
本来なら昨年末の臨時国会で審議される予定だったものが「モリカケ問題」で丁寧な説明をしたくなかった安倍晋三首相がろくに開催日数を用意しなかった御陰で通常国会に持ち越されたというものだ。

「アメとムチを一括に出す」

この法案の答申は厚労省のホームページから見ることができる。
www.mhlw.go.jp

そのポイントだが

1.働き方改革の総合的かつ継続的な推進
 働き方改革に係る基本的考え方を明らかにするとともに、国は、改革を総合的かつ継続的に推進するための「基本方針」(閣議決定)を定めることとする。(雇用対策法
2.長時間労働の是正、多様で柔軟な働き方の実現等
(1) 労働時間に関する制度の見直し(労働基準法
時間外労働の上限について、月45時間、年360時間を原則とし、臨時的な特別な事情がある場合でも年720時間、単月100時間未満(休日労働含む)、複数月平均80時間(休日労働含む)を限度に設定。
※自動車運転業務、建設事業、医師等について、猶予期間を設けた上で規制を適用等の例外あり。研究開発業務について、医師の面接指導、代替休暇の付与等の健康確保措置を設けた上で、時間外労働の上限規制は適用しない。
・月60時間を超える時間外労働に係る割増賃金率(50%以上)について、中小企業への猶予措置を廃止する。また、使用者は、10日以上の年次有給休暇が付与される労働者に対し、5日について、毎年、時季を指定して与えなければならないこととする。
企画業務型裁量労働制の対象業務への「課題解決型の開発提案業務」と「裁量的にPDCAを回す業務」の追加と、高度プロフェッショナル制度の創設等を行う。(企画業務型裁量労働制の業務範囲を明確化・高度プロフェッショナル制度における健康確保措置を強化)
(2) 勤務間インターバル制度の普及促進等(労働時間等設定改善法)
・事業主は、前日の終業時刻と翌日の始業時刻の間に一定時間の休息の確保に努めなければならないこととする。
(3) 産業医・産業保健機能の強化(労働安全衛生法等)    
・事業者から、産業医に対しその業務を適切に行うために必要な情報を提供することとするなど、産業医・産業保健機能の強化を図る。 

3 雇用形態にかかわらない公正な待遇の確保
(1) 不合理な待遇差を解消するための規定の整備(パートタイム労働法、労働契約法、労働者派遣法)
・短時間・有期雇用労働者に関する正規雇用労働者との不合理な待遇の禁止に関し、個々の待遇ごとに、当該待遇の性質・目的に照らして適切と認められる事情を考慮して判断されるべき旨を明確化。併せて有期雇用労働者の均等待遇規定を整備。派遣労働者について、(a)派遣先の労働者との均等・均衡待遇、(b)一定の要件※を満たす労使協定による待遇のいずれかを確保することを義務化。また、これらの事項に関するガイドラインの根拠規定を整備。 
(※)同種業務の一般の労働者の平均的な賃金と同等以上の賃金であること等
(2) 労働者に対する待遇に関する説明義務の強化(パートタイム労働法、労働契約法、労働者派遣法)
・短時間労働者・有期雇用労働者・派遣労働者について、正規雇用労働者との待遇差の内容・理由等に関する説明を義務化。
(3) 行政による履行確保措置及び裁判外紛争解決手続(行政ADR)の整備
・(1)の義務や(2)の説明義務について、行政による履行確保措置及び行政ADRを整備。
(赤太字、青字は引用者)

この一括法案の嫌らしいところは、不完全ながらも(むしろ現状追認でしかないが)時間外労働の上限を設け、勤務感インターバル制度を設けることを(努力規定とはいえ)事業主に求め、そしてある意味本法案の目玉でもある「同一労働同一賃金」とそれに伴う労働条件の均等を求める一方で、所謂「裁量労働制」の適用範囲を青天井にしようとしている点にある。
確かにいずれも「働き方改革」なのであろうが、残業時間の規制と、「定額働かせホーダイ」の異名を持つ裁量労働制の業種の拡大は個別に論じられるべき議論であり一括にとても馴染まず、また労働時間の問題と「同一労働同一賃金」の問題は別物だと思うのだが現政権が長期政権のわりには目立った成果が出ていない以上、ここで実績を作っておきたいと思う政権側とホワイトカラーエグゼンプションの実現を長年の希望にしていた経団連側の意向が合致し、一括提案になったのだろう。
もっと邪推すれば「日本人の低い生産性」をごまかすために時間という概念を第三次産業からなくそうとしているのではないかとすら思えてくる。

裁量労働制の拡大と制度を支える「自己責任」の論理

 裁量労働制の拡大については当ブログでも言及したが、今野晴貴氏のこちらの記事がわかりやすい。
news.yahoo.co.jp

この記事と記事に紹介される判例を見る限りではやはりこの制度は問題がありすぎると言わざるを得ない。
最大の問題はこの制度の根幹を支えるのが「自己責任論」にあるからだ。

所謂「ブラック企業」問題のカウンター言論としては
「帰ることができたのに帰らなかった。」
生活残業だったんだろう」
「辞めることができたのに辞めなかった」
「好きで入社したのにお門違いだ」
「わかっていて入社したくせに」
など、自己責任論が噴出する。実際この制度が運用されるようになれば、さらにこの風潮に拍車がかかることになる、というよりも仕事が自己責任で処理できる社会になっていない中でこの制度の運用は極めて危険だ。というのも「名ばかり裁量」が横行することになりかねないし、今野氏の上記記事を読む限り実際「名ばかり裁量」の問題を解決することなしに制度拡大すればこのような被害が噴出することは目に見えている。
その上以下の問題もあると考える。

判例の確立した基準からも後退する

裁量労働とはいえども、会社は従業員の健康を守る義務があり、そのためには時間管理が必要である」というのが判例で確立した裁量労働制に対する規制であり、実際この判例理論があったからこそ労働基準監督署はこのような是正勧告を出すことができた。https://www.buzzfeed.com/jp/kotahatachi/medtronic-jp?utm_term=.fb4Dx4038#.ju90Bg1Kv
しかし、今回の一括法案にはそのような文言は記載されておらず、また高度プロフェッショナル業務では求められている健康保全措置の義務づけもないことから、判例理論の規制はほぼ骨抜きになることが危惧される。

日本特有の同調圧力

そしてなによりも大きいのが自分一人だけ帰りにくいというような同調圧力にある。
かって舛添要一が「ホワイトカラーエグゼンプション」を「馬鹿な上司を置いてさっさと帰ろう法案だ」といったことがあった。「馬鹿であれなんであれ人事評価をするのがその上司である以上上司の顔色を伺わずに帰ることなんてできないだろ、舛添って社会人経験がないのか」と思った。日本の会社風土をそのままに導入すると結局会社居残り競争になってしまう状態が加速されるのではないか。

労働者の勝ち得た権利を手放す暴挙だ

実際法案が成立したとしても、事業主は時間管理義務を免れることは実質不可能であり*1、もしかすると採用する事業主は少ないのかもしれない。
しかし、労働における拘束時間の問題は長年の労使間の闘争を経た末に労働者が勝ち得た権利であり、それに逆行するようなことは今までの利益を嬉々として手放すものであり決して認めてはいけないと言わざるを得ない。

そしてこんな批判にはこう答えよう

「成果に対して賃金を支払ってなぜ悪い?」
→法律上禁止されていませんからどんどん支払ってください。ただし、人を拘束していることはお忘れなく。
「だらだら残業している人間がカネを稼いでいいのか?」
→そのとおりです。だからきちんと労務管理と仕事量管理をしてください。

あぁそれから「それならば全従業員を業務委託にする」とか「全従業員を役員にする」とか考えるだけ無駄なのでとりあえず。

*1:深夜労働については割増賃金の支払い義務があるからだ

切り捨てることで成り立つ大阪府の教育指導

d.hatena.ne.jp

を読んで思ったこと。

この件は、学校側と企業側と(消極的には)学生側との利害関係が一致し成り立ってきた構図がその構図にどうしても組み込まれることを潔としなかった生徒が声を上げてきたことで可視化されたことなのではないかと思う。

労働者の容姿に企業側がどこまで介入できるかについては、地裁レベルではあるが、このような判決がある。

労働者の服装や髪型等の身だしなみは、労働者個人が自己の外観をいかに表現するかという労働者の個人的自由に属する事柄であり、また、髪型やひげに関する服務中の規律は、勤務関係又は労働契約の拘束を離れた私生活にも及び得るものであるから、そのような服務規律は、事業遂行上の必要性が認められ、その具体的な制限の内容が、労働者の利益や自由を過度に侵害しない合理的な内容の限度で拘束力 を認められるというべきである。
郵便事業事件 神戸地判平成 22.3.26 事件番号:平成 21 年(ワ)149 号

髪型やひげという自分の意思で*1表現することができるものでさえ「合理的な内容の限度」でしか拘束できない。これが「生まれながら」や「本人の責めに帰すことができない後天的な事由」での場合であれば、ますます拘束力は認められないという方向に向かうと思われる。

企業側とすれば従業員はその支配下に入れたいということになるのだろうから、きちんとそのような社員に相対するという手間も時間も場合によっては訴訟リスクも抱えるなんてことよりも、早い段階でそのような人間を入社させない、排除するという方向に向かうだろうし、可能であるならば、教育機関があらかじめそのようなことを起こさない人間を作り出してくれているのであればますますありがたいし、そのような教育機関出身の人間を積極的に採用していきたいと思うだろう。

学校側としても、就職率が高いということは何よりも優る宣伝材料であり、しかも脅すだけで効果が出るというのだからこんなに効率の良い方法はないということなのだろう。
そして学生達も髪の色「だけ」異常に厳しいことだけなのだし、少なくとも多くの学生は髪の色を諦めさえいれば就職も見込めるということなのだから、全てがwin-winの関係になりめでたしめでたしのはずなのだ。

だから大阪府側(というより学校側の意向なのだろう)は争う姿勢を見せた。
そうしなければ大阪府の教育カイカクの嵐の中で生き延びる方法がなくなってしまう危険性があるからだということなのだろう。生まれながらだろうがなんだろうが全て学校の指導を強制するというやり方に正当性があるという姿勢をとり続けなければ全てが崩壊するという恐怖心がこのような学校側の強硬な姿勢を取らせた要因なのではないか。

新自由主義の根本は自己責任ということだが、究極には「生まれてきたことも自己責任」まで行き着いてしまう。大阪府下の教育はそこまでいってしまっているのではないかといわざるを得ない。

*1:もちろん事情によりどうすることもできない場合もあるけど

労働問題でも政府の露払いをするNHK

これはミスリーディングだと言われてもしょうがないだろう。
トヨタ 裁量労働の対象拡大 時間に関係なく手当支給へ | NHKニュース

トヨタ自動車」は生産性を高めるため、実際に働いた時間とは関係なく、一定の時間働いたものと見なして賃金を支払う、裁量労働の対象を拡大して、管理職以外の総合職のおよそ半数に対し、残業時間に関係なく月17万円程度の手当を支給するなど、新しい人事制度の導入を検討することになりました。
(中略)
具体的には、主に事務や研究開発に携わる30代の係長クラスを対象に、管理職以外の総合職のおよそ半数に当たる7800人程度まで拡大して、残業時間に関係なく月17万円程度の手当を支給する方向です。この金額は月45時間分の残業代に相当するもので、これを超えて残業した場合は別途、手当を支給する一方、働きすぎを防ぐために新たな連休取得なども検討しているということです。


トヨタが採用したこの制度のポイントは
・残業時間に関係なく月17万円程度の手当を支給
する一方で
・この金額は月45時間分の残業代に相当するもので、これを超えて残業した場合は別途、手当を支給する
というところにあり、これがこの制度の肝というのであればそれは単なる「45時間のみなし残業」というだけであって、NHKの報道するような「裁量労働制の拡大」とか「時間ではなく成果で評価」という話とは全く関係がない。

そもそも裁量労働制とは独立行政法人労働政策・研修機構に寄れば2種類ありそれぞれは

<専門業務型裁量労働制
専門業務型裁量労働制は、(1)業務の性質上その遂行方法を労働者の大幅な裁量に委ねる必要性があるため、(2)業務遂行の手段および時間配分につき具体的指示をすることが困難な一定の専門的業務に適用されるものです(労基法38条の3第1項)。具体的な対象業務は、a.研究開発、b.情報処理システムの分析・設計、c.取材・編集、d.デザイナー、e.プロデューサー・ディレクター、f.その他厚生労働大臣が中央労働基準審議会の議を経て指定する業務(コピーライター、公認会計士、弁護士、不動産鑑定士弁理士、システムコンサルタント、インテリアコーディネーター、ゲーム用ソフトウェア開発、証券アナリスト金融工学による金融商品の開発、建築士、税理士、中小企業診断士、大学における教授研究)に限られます(労基則24条の2の2第2項、平成9年労働省告示7号など)。

<企画業務型裁量労働制
企画業務型裁量労働制は、企業の中枢部門で企画立案などの業務を自律的に行っているホワイトカラー労働者について、みなし制による労働時間の計算を認めるものです。このような労働者も、専門業務型裁量労働制の対象者と同様に、仕事の質や成果により処遇することが妥当な場合があることを根拠としたものですが、濫用のおそれもあるため、労使委員会における5分の4以上の多数決による決議を要するなど、専門業務型に比べて要件は厳格になっています(関連法令の他、厚生労働省の指針もご参照ください。平11.12.27労働省告示149号(平15.10.22厚生労働省告示353号により改正)。

すなわち、労使委員会が5分の4以上の多数決による決議を行い、使用者がその決議を行政官庁に届け出た場合には、事業の運営に関する企画・立案・調査・分析の業務であって、性質上その遂行方法を大幅に労働者に委ねる必要があるため、その業務の遂行の手段および時間配分の決定等に関し使用者が具体的な指示をしないこととする業務に、その業務を適切に遂行するための知識・経験等をもつ労働者を就かせたときには、その労働者については決議で定めた時間だけ労働したものとみなすことができます(労基法38条の4第1項)。みなし制の効果は、専門業務型の場合と同様です。

企画業務型裁量労働制の対象業務に当たるか否かは個々の労働者ごとに判断され、「企画課」などの部門の全業務が対象業務になるわけではありません。対象業務の具体例は、上述した指針に挙げられています。また、対象となる労働者としては、少なくとも3年ないし5年程度の職務経験をもち、対象業務を適切に遂行しうる知識・経験をもつ者が想定されています。

また、この制度を実施するには、上述したように、使用者および事業場の労働者を代表する者からなる労使委員会による決議が必要です。労使委員会の委員の半数以上については、事業場の過半数組合、そうした組合がない場合は過半数の代表者が任期を定めて指名することを要します(労基法38条の4第2項)。労使委員会の決議事項は、a.対象業務と対象労働者の具体的範囲、b.みなし労働時間、c.対象者の健康・福祉の確保措置および苦情処理措置、d.実施にあたり対象労働者の同意を得ること、および不同意を理由に不利益取扱をしないこと、e.決議の有効期間、f.記録の保存などです(労基法38条の4第1項、労基則24条の2の3第3項)。

以上のうち、対象者の健康・福祉の確保措置としては、代償休日や特別休暇の付与などがあげられます(健康等の確保の前提として、始終業・入退出時刻の記録等により勤務状況を把握することも必要になります)。また、決議に基づく労働者の同意は、各人ごと、かつ決議の有効期間ごとに得なければなりません。なお、裁量労働制のもとでも、使用者が安全配慮義務を負うことに変わりはありませんので、使用者としては、労働者が心身の健康を害するような働き方をしていないかどうかに注意し、必要に応じて適切な措置をとることが求められます。

Q6.裁量労働制とは何ですか。|労働政策研究・研修機構(JILPT)

とあるように、労働時間を「みなす」のであって、残業時間を「みなす」というものではないからだ。

政府が導入を目指す「(拡大の)裁量労働制」とは、拘束時間のみならず仕事の進め方を労働者の裁量に委ねる*1というものであって、この制度に懸念を持つ労働法専門の弁護士は「労働量の調整権を労働者が持たない以上、結局定額働かせホーダイ」になるという懸念を表明しているわけだが、トヨタのそれは残業時間の調整権も含めて労働者になんの裁量もないものでありこれを「裁量労働」にひっくるめるのは流石に誤報というしかないだろう。
むしろ政府が目指しているのはトヨタのそれのような「労働者に裁量を認める」というものではなく「事業主の裁量を今まで以上に強く認める」というものなのであろうからNHKはその露払いをしたということなのだろうか。
NHKはこの件について一刻も早い訂正報を流すことを強く求めたい。

しかしどうでも良いけど45時間のみなし残業に17万円支給というのはどうなんだろう。流石に最低賃金は割っていないとは思うが基本給と諸手当がいくらなんだろうと余計な心配をしてしまうのだった。

*1:「市場調査」という名目で行列のできる飲食店で2時間も並ぶということになると必ずしも労働時間で管理することに意味があるとはいえない

連合さん大いに変よ

所謂ホワイトカラーエグゼンプション法案*1は、安倍政権下で2年前に提出されていたが、労働者側の反発が大きくまた本質的には経済に興味がない現政権下では棚晒しとなっていたのだが、水面下では動いていたらしく連合が修正案を出してきた。
これによって、秋に開かれる*2 臨時国会ではまたぞろこの法案の審議が始まりそうである。
今回は労働者の代表である連合が修正を求め、政府はそれに応じるということだから「連合お墨付き」法案であり、この法案の成立は確実に成る危険性が極めて高いといえるだろう。

連合の修正とはどういうものか

これは
www.asahi.com
にある図表に詳しい。
f:id:kodebuya1968:20170713070939j:plain

政府法案としては「働き過ぎ防止」のために
・年104日以上の休日取得
・労働時間の上限設定
・勤務間インターバル制度
の「いずれか」を選択するとあったのだが、
これを
・年104日以上の休日取得を義務として
その上で
・労働時間の上限設定
・勤務間インターバル制度
・2週間連続の休日取得
・心身の状況に応じた臨時の健康診断
のいずれかを複数選択するとしている。

新たな電通事件を作りたいのか

以前も書いたことだが、この法案の本丸は裁量労働制の適用対象者の拡大にあると思っており、この内容では裁量労働制の改悪により新たな電通事件が起きるのではないかというのが正直な感想だ。

連合は条件を加算したというのだがあまりにも弱すぎるのだ。・

年104日以上の休日というのは、週休2日制を言い替えたに過ぎず、仮にそうであれば年末年始・国民の祝日・夏期休暇など一切認めないとすることができる。
また、連合の言う選択についてだが、健康診断であるがあくまでも「心身の状況に応じた」とあり、労働者の希望に応じる義務を企業側に課すのだろうが実際に労働者がその権利を行使できるかと言うことについては健康診断の受診率は小規模事業所で8割を切っている状態であり*3をみると企業に課せられた義務の健診ですらこうなのだから、任意の健診を受診するとなるとさらに受診率が低下するのは間違いない。
問題は勤務時間・休息時間の確保なのであって、
・労働時間の上限設定
・勤務間インターバル制度
・2週間連続の休日取得
を2つ選択として、健診は外さなければ勤務時間改善には繋がらないだろう*4
実際、勤務時間の上限といえば36協定を思い浮かべるがあれも労使の協定で青天井にできることを考えると、選択方法によっては「定額働かせホーダイ」にお墨付きを与える制度にできるのだ。

現在は人手不足でありそのような制度を持つ企業に入社するかどうかは疑問ではあるが、入社時から裁量労働制社員として働かせるのではなく、半年・1年経過後に裁量労働制を採用するというやりかたができる以上、この条件下で裁量労働制の適用を拡大することは極めて問題があるといわざるを得ない。
「連合さん大いに変よ」と言わざるを得ない。

*1:とするとわかりにくいので「定額働かせホーダイ」というべきだろう

*2:というより現時点で野党は臨時国会の開催を求めており憲法の規定では開催をしなければならないのだが、当然のように政府・与党は無視するらしい。

*3:古いデータだが厚労省データによるhttp://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/saigai/anzen/kenkou07/j1.html

*4:もしくはインターバル制度は少なくとも必須項目に追加する

有名ブロガー氏に学ぶ有給休暇

ネタにマジレスなのかかどうか私生活まで知る由もないので軽々なことはいうことができないが、某有名ブロガーが現在前職の会社に対し戦いを挑もうとしているらしい。
労基署に行って、昨年末辞めた会社と戦うことにしました。 - Everything you've ever Dreamed

ここでの論点は以下の3つあると考えている。

1 退職後の有休取得は可能か?未消化の有給買い取りは会社の義務か?

2 協定のない有給休暇の計画的付与は有効か?

3 年休未消化を理由に退職後に退職を撤回できるか?

それぞれを考えてみたい。
某ブロガー氏の目に留まるとは思えないが*1有給とその周囲の確認のために残しておく。

退職後の有休取得は可能か?未消化の有給買い取りは会社の義務か?

有給休暇とは一言で言えば「労働者のリフレッシュを目的とした制度」であって、労働義務がある日を「有給休暇カード」を使ってその職場での労働義務を免除するというものであるから、「労働者が就業していること」が有休取得の要件となる。
だから、有給休暇を退職後行使することはまず不可能というしか無い。

それなら、未消化の有給を会社が買い取れと退職後の労働者が会社に対して主張できるのか?会社はその主張に応じる義務があるのか?ということだが、給与計算上の有給処理方法は給与形態によって2つあって
1:月給者の場合は欠勤控除としない。
2:時給者・日給者はその日分の給与を手当てとして((基本給に組み入れてもいいが、有給と本来の勤務とは分けた方が好ましいと思う))支給する
ということになる。
月給の場合は控除をしないということになる訳だからそもそも制度として有給の買い取りを予定していないと言うべきだ。だいたい有給を会社が買い取れるようにすると全く有休を取得させないという方法が可能になり有給制度の趣旨を没却しかねない。
それでは一切の有給買い取りが認められないのかといえば、例外的に、退職日の段階で消化しきれなかった有給を会社の任意で買い取ることで精算することは認められている。
逆に言えば買い取るかどうかは会社の任意によるのであって、慣例的になっているのでなければ必ずしも買い取る義務は無いと言わざるを得ない。

もちろん、件のブロガー氏が会社と折衝の結果買い取らせることができればいいのだけれどその場合であっても問題は有給の日数が何日残っているかが問題となる。

協定のない有給休暇の計画的付与は有効か?

件のブロガー氏の会社は4週8回の休日の休日制度を取っていたということで、このことは別におかしくはない。ただ、この休日制度は月を単位とはしてはならないので、

4週間ではなく月末〆の1ヵ月間で8日以上休んだ場合、その8日を超過して休んだ分は本人に連絡も確認もなく年休消化として処理

することは「有給休暇の計画的付与協定」を労使間で交わさなければ違法となる。
この制度を組むときに専門家の知識なしにしているとは考えにくく、おそらく労使協定はあるのだろうが、仮に存在しないということであればこの有給休暇のみなし取得は違法でありブロガー氏の計算による有給日数を認めるということになる。

年休未消化を理由に退職後に退職を撤回できるか?

退職の撤回については自己都合退職の場合は認められにくいが、例外として錯誤・詐欺・強迫をうけて退職願や退職届を提出したといったような労働者の自由意思でなされたものかどうか極めて疑わしい場合には例外的に撤回が認められることになる。
問題は有給休暇の日数が12日しかないと「騙されたので」この日に退職したのであってそうでなければ本来の有休取得日数分を経過した日に退職をしていたといえるのかどうかだ。
問題は有給日数が退職を決める重大な要素かどうか、もっといえば有給が全く残っていなければそもそも退職をしなかったといえるほどの要素かどうかにかかっているのではないかと思う。
いや、もし退職届提出から退職日までの間2か月も給与が入っていれば安心して求職活動ができたはずだということであれば全くそのとおりなどだが、そこまでくると労働審判に委ねることになるであろうから、速やかに無料弁護士相談を利用し法的に主張が可能か確認した方が良いだろう。
とはいえ、この場合「有給の計画的付与協定」が有効に成立しているのであれば有給残日数どおり取得したということになってしまうので無意味な主張になってしまう。


なお、主張が認められた場合だが、退職日の訂正届を会社はハローワークと年金事務所に提出し、市県民税についても普通徴収の切り替えの訂正をすることとなる。
雇用保険の求職者給付についてはもし支給されてしまったのであれば返還することとなるし、年金・健康保険の保険料については会社が天引きすることになる。仮に国民年金国民健康保険の保険料を支払ってしまっていた場合には後日同氏に返還されることになるので二重払いにはならない。
また、個人対会社となると話し合いにはまずならないので、どちらかのユニオンを介するのが得策である。労基署も今はやりの過剰労働や未払い残業ということであれば重い腰を上げると思われるがこの件で積極的に動くかといえば悲観的にならざるを得ない。
件のブロガー氏がどう考えるかは関知することはできないが、この件のみで会社とやり合うのは上手いやり方とは思えない。
ブクマにもあるとおり未払い残業でやり合う方が良いように思う。最後「部長」だったそうだが同氏のブログの記事を信じるならば休日出勤も当然な「名ばかり管理職」にしか思えないので証拠がどの程度用意できるかによるが十分そちらの方が勝算があるだろうし入ってくる金銭も有給に比較して多いのではないかと思う*2

*1:同氏曰く社会保険労務士有資格者とのことなので100も承知なのだろう。以前も通勤災害の件でわざと知らないようなふりをした記事を書いていたし。

*2:もちろんそれを折衝材料として同氏主張の有給日数分の賃金を解決金として獲得するという方法もありだけど

教育勅語と美しい国

森友学園への国有地二束三文売却事件を発端とする一連の問題の中では「教育勅語」の是非が議論になった。
教育勅語」の是非については稲田朋美防衛大臣

国会の中で教育勅語について随時質問され、お答えしてきたのは、「父母ニ孝ニ(親に孝養を尽くしましょう)、兄弟ニ友ニ(兄弟・姉妹は仲良くしましょう)、夫婦相和シ(夫婦は互いに分を守り仲睦まじくしましょう)、朋友相信シ(友だちはお互いに信じ合いましょう)」など、今日でも通用する普遍的な内容を含んでいるということを答弁してきた所でございます。

と「今日でも通用する普遍的な内容」を含むと肯定的にとらえ、また、人気芸人バラエティ番組の中で「教育勅語のどこが悪い」と言い放ったということだ*1
この点については様々な方が批判をしており、私ごときが付け加えることは何もないが、もう一つの問題である子ども達にこのようなことを刷り込みをすることが良いことなのかどうかについての議論がなかったのは残念であった。

安倍晋三一派の目指す「美しい国」の時代の教育勅語はどういう扱いだったのか?
この手の問題になると常に引用する

日本が「神の国」だった時代―国民学校の教科書をよむ (岩波新書)

日本が「神の国」だった時代―国民学校の教科書をよむ (岩波新書)

ではこういう。

国民学校令が示した「皇国の道」は教育勅語の理念である。
(中略)
少なくとも勅語が朗読される十分前後の間は、両手をぴたっと脇につけ首をさげる恭順の姿勢のままで、私語はおろか鼻をかむことも許されない。
耳で聞いて理解するのには、はなはだ難解な文章であるが、繰り返しの効果によって、二年生になるころには「チンオモウニ ワガコウソコウソ」「ナンジシンミン フボコウニ」「メイジ二十三年十月三十日ギョメイギョジ」などは、門前の小僧式に覚え込んでしまう。
(中略)
しかし国民学校では、教育勅語は、最終学年の「大御心の奉体」で一通りの意味の解釈が施されるまでは、教師と生徒がともに仰ぎ、ともに奉体すべき教材-ただひたすらに経文を読むように暗唱することによって、信条として体に刷り込むべき「非教材」だったのである。(同書141-142頁)

そしてその教育勅語が求めたものはなんだったかというと結局は天皇を頂点とする国体を守るために命を捧げよというものであった。
そしてなぜそんなことをしなければならないのかという疑問については正面から答えず「あなたのおじいいさんもひいおじいさんもそのもっと前の先祖もずっと天皇の家来だったから」という感情論でかわす。これが「美しい国」の教育だった。

「じゃ、教育勅語のそこの部分以外はどうなんだ。家族仲良くしなくていいのか?勉強に励まなくていいのか?などという千葉麗子みたいなおっちょこちょいが湧き出すので*2いっておくと、これらの項目は別に上から勅語ということで押しつけられる筋合いではないという一言で十分だろう。また彼等が考える「教育勅語の元で生活していた美しい国」では残りの項目が具現化されていたのか?部落差別や女性蔑視は今よりもマシだったとでもいえるのか?阪神・淡路大震災東日本大震災・熊本大震災では関東大震災で起こった朝鮮人虐殺のような事件は起きなかったがそれはどうしてなのか?と言っておきたい。

コンビニのブラック問題はコンビニ本部の問題だ

「そこまでして人手不足に拍車をかけたいのか」と思わせるような記事が今月は相次いだ。
http://mainichi.jp/articles/20170131/ddm/041/020/112000c

親会社セブン&アイ・ホールディングスの広報センターなどによると、女子生徒は1月後半に風邪のため2日間(計10時間)欠勤した。26日にアルバイト代を受け取った際、給与明細には25時間分の2万3375円が記載されていたが、15時間分の現金しか入っていなかった。手書きで「ペナルティ」「9350円」と書かれた付箋が、明細に貼られていた。

 店側は「休む代わりに働く人を探さなかったペナルティー」として、休んだ10時間分の9350円を差し引いたと保護者に説明したという。

 広報センターの担当者は毎日新聞の取材に「加盟店の法令に対する認識不足で申し訳ない」と話した。「労働者に対して減給の制裁を定める場合、減給は1回の額が平均賃金の1日分の半額を超え、総額が賃金総額の10分の1を超えてはならない」と定めた労基法91条(制裁規定の制限)に違反すると判断したという。

労働者の病気は制裁の対象になるのか?

労基法上確かに「減給の制裁を」することは、事業主の権利であり組織の規律という点からもそれを否定することはできない。
しかしその制裁の原因となる行為は組織の維持のためなら何でも許されるというものではないというべきだ。なぜなら誰しもが望まなくとも罹患する可能性のある風邪・インフルエンザ・事故などによる怪我による人員不測の可能性は事業主が当然にリスクとして予防する義務があるというべきだからだ*1
セブンイレブン本部側は労基法91条違反を問題としているが、そもそもこの件は制裁規定に当てはめていいのかという点が問題なのであって、セブンイレブン本部側の認識に大いに疑問を持たざるを得ない。
欠勤を懲罰対象とするにしても、そのためには就業規則やそれに類したものを店側が作っていたのか?作っていたとしてこのような欠勤を懲罰にできる規定があったのか?その規則は従業員に周知されていたのか?という点をクリアしていなければならないはずである。
まずもってこのような規定を店が置いているということが想定できないためこの点において懲罰そのものが無効であるとしてセブンイレブン本部は店側を指導すべきではなかったのかと言わざるを得ない。

労働者は欠勤することでペナルティを受けている。

月給者についてだが、日本のおそらく殆どの事業所では完全月給制ではなく日給月給制を採用している。日給月給制とは遅刻、早退、欠勤などをした場合は、その会社の規定に基づき給与から相当額が控除されるという制度であり、「ノーワークノーペイ」の原則にのっとったものであるとはいえその比較としての「完全月給制」からすれば実際には欠勤に対する懲罰的な意味合いは否定できないだろう*2
時給者はもっとシンプルだ。働いた時間に対して所定の賃金が支払われる。働かなければ支払いはない。
件の高校生の給与は記事によれば時給のようだが、自分の意思ではない事由であった欠勤にせよ既にペナルティは受けているのであり更なる懲罰は刑法で言えば「二重懲罰の禁止」というものであるといえる。
もし何が何でも懲罰をしたいということであったのであればその欠勤は有給扱いとして給与を欠勤分まで支給したうえで懲罰するということになるはずであり*3、そんな非合理的なやり方はないというべきだろう。

いくら休んでも労働者を罰することはできないのは事業主にとって不利だという主張

もちろん、ちゃんとした理由もなく*4欠勤を繰り返している労働者を罰したいというのであればきちんと就業規則等を整備すればよいのであって、その手間を惜しんで恣意的に罰したいという権利を持ちたいというのはむしろ事業主にとって甘すぎる考え方と言わざるを得ない。
事業主は労働者を雇用することでビジネスチャンスを喪失せずに済んでいる。この考え方を逆さにすれば労働者の一方的な労働の不提供で事業主はビジネスちゃすを失ったと言っていいものなのだろうかといえば、
「それを見越して事業計画をするのが事業主の仕事」
というしかない。
以前も記事にしたようにこれは経営の問題であって正当な理由のある限り労働者の問題ではない。
だから
セブンイレブンの”新たな”罰金問題が発覚!!「1時間遅刻するごとに6000円の罰金」⇒まだ懲りてないのか!!! | BrandNewS

ことはある意味事業主の無能ぶりを証明しているようなものであり、事態が
【ブラックバイト】「辞めたい」→「殴打、首絞められた」 しゃぶしゃぶ温野菜の元バイト大学生 - 産経ニュース
になり心も体も文字通り傷を受けないうちに退職し、労働基準監督署に駆け込むようにと言っておきたい。

人手不足のはずなのになんでこんな人手不足に拍車をかけることが起こるのか?

コンビニ業界も多分に漏れず人手不足なわけだが、その一つには365日24時間営業というビジネスモデルが当然に人手の確保を前提としているのであって若手が減少していく中でこのモデルを維持するのは難しいということもある。
そして最大の原因と思われるのは「本部が損をすることがない」といわれるフランチャイズ制度にあると思う。
先日恵方巻の廃棄の件でこのような報道がなされた
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20170202/k10010862671000.html

機会ロスを恐れ、多く発注してしまい売れ残り廃棄ということなのだが、経済の合理性を考えれば廃棄ロスは損失なので避けるはずなところコンビニ本部は廃棄が出ようが何だろうが、損失は出ず、廃棄ロスはコンビニ店が負う仕組みなのでロスは当然に出るということでそれを恐れるコンビニ店側が「ノルマ」としてアルバイトに購入を「お勧め」しているということだ。
そしてこれは、恵方巻に限らずバレンタイン・ホワイトデー・クリスマスケーキなど本部の企画するもののすべてが対象となるのであった。
ノルマのきつさから下に無理をさせるという点では、フランチャイズ側とフランチャイジー側の関係で成り立っており、それがそのまま事業主(店のオーナー)と労働者の関係に引き継がれてしまっている。ここがコンビニ業界をブラック化している元凶なのだと思う。

*1:休業手当については天変地異など予測不可能な場合の事業所閉鎖には支払いの義務を免除されるが、単なる資金繰り悪化による事業所閉鎖では休業手当の支払い義務は免れないとされている

*2:少なくとも無断欠勤の抑止力になりうるという意味で

*3:もちろん必要な就業規則もしくはそれに類するものが作成されており周知されていることが大前提であるとして

*4:誰が聞いても「そりゃあんたが悪い」といえる程度の理由

そりゃ炎上商法の上野千鶴子(と東京新聞)が悪いけどさぁ

確かに上野千鶴子社会保障に詳しいかと言われれば、かってこのような批判を受けたくらいなのだからそうではないんだろうと思う。
eulabourlaw.cocolog-nifty.com

実際id:kojitaken氏も批判している通り、この題名のつけ方はあまりにも恣意的だと言わざるを得ない。東京新聞の「衣の下に鎧が見える」案件であり、流石長谷川某を副主幹にいつまでも飼っている新聞社の所以だなと思わざるを得ない。
とはいえここまでの反応はいかがなものか
migrants.jp

私の上野の文章を読んだ感想だが、これは

・移民受け入れにより「社会的不公正と抑圧」が増大するのではありません。日本に存在する社会的不公正と抑圧が、移民に集中的にのしかかる可能性はありますが、これは移民を受け入れた結果ではなく因果関係が転倒しています。上野氏は、女性が増えたら、性的マイノリティが増えたら社会的不公正と抑圧が増大するからよくないといわれるのでしょうか。

・治安悪化は、日本において特に頻繁に語られる移民への謬見です。実際には、日本で移民人口が増えたことによる治安悪化はまったく起こっていません。「治安悪化」というデマは、1990年代後半に警察とメディアが広めたもので、上野氏もそれを信じ込んでいるようです。今回の発言は、自らそうしたデマを広めていますが、それについてどうお考えでしょうか。

という反応を一般人が持っているのではないかという疑念を言ったものではないのか。実際「日本に存在する社会的不公正と抑圧が、移民に集中的にのしかかる可能性はあり」と認めているわけだし。次もそうだ。

・2008年に国会の衆議院及び参議院において「アイヌ民族先住民族とすることを求める決議」が全会一致で採択され、日本が「単一民族」であることは公式に否定されましたが、「単一民族神話が信じられてきた」というのはどのような根拠にもとづいているのでしょうか。またこの発言こそが、「単一民族神話」を再生産していますが、その点についてはどのようにお考えでしょうか。

・現在日本には230万人を超える外国人移住者が暮らし、先住民や外国にルーツをもつ日本国籍者を含めると、民族的マイノリティはそれ以上になります。「日本は『ニッポン・オンリー』の国」というのは、どのような根拠にもとづいた発言でしょうか。

・このような、外国人移住者の増加や民族的マイノリティの存在の認知を背景に、各地で多文化共生の取り組みがすすめられてきました。2006年には総務省も「地域における多文化共生推進プラン」を策定しています。こうした取り組みには、民族的マイノリティ当事者のみならず「日本人」も多く関わっています。「日本人は多文化共生に耐えられないでしょう」というのは、いかなる根拠にもとづいてなされた発言でしょうか。


単一民族ではないのは当然としても厳然として在日朝鮮人差別やアイヌ*1・沖縄差別を「見て見ぬふり」するメジャーな国民がこれ以上の多文化に耐えられるとはとても私も思えない。
すくなくとも桜井誠やら竹田某やらをのさばらせている国民が「多文化共生」を本当に推進しているとはとても思えない。
多民族国家」であるはずのアメリカ合衆国でさえ排他主義者が推すトランプが大統領になりうる状況なんだから。
いやもちろんアメリカだって公民権運動以降も差別はあった。ただすくなくとも良識人は差別をなくそうとはしていた。
日本ではどうか?「三国人」発言をするレイシストが何度も首都の首長を務めることができるのだ。根拠は無限にあると残念だが言わざるを得ない。

上野の今回のインタビューは確かに言葉足らずであり*2、そもそも社会保障に根本的な理解が欠けているかもしれないという疑念が拭えない以上、批判されてしかるべきではあるが、インタビューにある再分配の強化はもっと議論されるべきだと思うし、上野の発言が仮にそれを意図したものだったとすればもう少し言いようがあったのではないかと私は思う。

*1:この本来は「人間」を意味する言葉を彼らが使いたがらないということもあるではないか

*2:東京新聞の編集の可能性もあるとみているが