kodebuyaの日記

労働問題が最近多くなった食レポブログです。

高須、たかしが黒幕と自白(笑)

地方公共団体の首長は、その住民の選挙によって選ばれるので、内閣総理大臣と異なり、その住民が直接罷免することができ、その罷免請求のことをリコールという。
seijiyama.jp
より制度について抜粋する。

リコールは直接民主制の一つで、公職者を罷免できる制度です。日本国憲法15条1項で「公務員を選定し、及びこれを罷免することは、国民固有の権利である」と保障しています。議会に対する解散請求や最高裁判所裁判官に対する国民審査もリコールの一種です。

とは言え、簡単に首長を罷免できるとなるとその自治体への影響が大きいためリコールには以下の要件がある。
上記記事から引継ぎ引用する。

住民投票によって首長をリコールする場合、有権者は3分の1以上の署名で解職の是非を問う住民投票を60日以内に行うことができます。投票で過半数の同意があれば、リコールが成立し、首長は失職します。失職した首長は出直し選挙に再出馬できます。

 上記の署名は、人口が多い自治体の場合、「40万を超えるときは、40万を超える数の6分の1と40万の3分の1を合計した数以上、80万を超えるときは、80万を超える数の8分の1と40万の6分の1と40万の3分の1を合計した数以上」と地方自治法に明記されています。地方議会の解散にも同様の手続きが必要です。

有権者は3分の1以上の署名が集まることで住民投票を行うことができるようになり、その住民投票過半数を取れば首長を失職させることができるということで、ニュース報道ではリコールが大きく取り上げられるが、それ自体は本来の目的を達成させるための権利を得るための行動に過ぎないともいえる。
とはいえ、人口の3分の1以上が首長の罷免に賛成だということはやはり重く仮にリコール不成立となったとしても、リコール成立に限りなく近い署名が集まれば首長にとってもダメージは大きくなることは十分ありうることではなかろうか。

そこで今問題になっている愛知県知事リコールをめぐる不正署名の件だが、
高須克弥がうっかりと真相を告白したようだ(笑)


今回の件はこちらの記事
note.com
にもあるように偶然署名用紙にナンバリングがされておらず、そのナンバリングを行ったボランティアが

この大量にある不正無効署名簿を見て明らかに無効になりそうなその署名簿を提出しない為に抜き取

るという偶然がなければ有耶無耶のうちに名簿は運動主催者に戻り、結果「リコールは成立しなかったがこれだけの民意が集まった」と主張して大村県知事の力を弱めることができたはずだった。*1
そう、リコール側としては正当な署名が集まりリコールが成立すればそれが一番だが、仮に成立しなかった場合、「民意ガー」と言える程度の署名を水増しすればよく(通常リコールが不成立の場合、選挙管理委員会では署名真正の調査は行わないらしい)、どちらに転んでもリコール側勝利となっていたというストーリーだった訳だった。

こんな練りこんだ絵を、最近政治に目覚めたネトウヨ整形外科医に描けるものだろうか?
ここは、かって市議会をリコールさせた(不正署名が多数あったといわれているが)実績のある河村たかしが何らかの指南をしたというのが自然なのではないかと思われる。河村と大村はかっては関係が近かったが、維新の会(というより橋下徹)と大村が距離を置いたことで関係がおかしくなったと聞く。大村失脚を狙った河村は流石に現職市長としてリコール運動をするわけにもいかず、高須克弥をみこしに担いだということではなかったか。だからかって収集した名簿をリコール側に貸した。また一説には「役所案件です」と説明したうえで、外部業者に署名の書き写しをさせたのではなかったか。

本丸が河村なのか高須なのかはこれからの捜査で明らかになるのであろうが、愛知県警には全貌を解明することを強く希望したい。

*1:実際高須も河村もリコール運動終了を宣言した後しばらくは「民意ガー」と連呼していた

パブリックエナミー

そういえば昨日、えひめ丸事故が発生してから20年になるのだった。
www.asahi.com

愛媛県宇和島水産高校(同県宇和島市)の実習船えひめ丸がハワイ沖で米国の原子力潜水艦に衝突されて沈没し、生徒ら9人が亡くなった事故から、10日で20年を迎えた。同校では同日、「えひめ丸事故追想の日」式典があり、遺族や生存者、在校生ら265人が犠牲者を悼み、海の安全を祈った。

 事故が起きた午前8時43分。海に沈んだえひめ丸から引き揚げた鐘が犠牲者の数と同じ9回鳴らされ、遺族や全校生徒、教職員らが黙禱(もくとう)した。

 武智誠治校長が9人全員の名前を一人ひとり読み上げ、「あれから20年を迎えますが、この長い歳月をもってしても、志半ばで命を奪われた方々の無念、最愛の肉親を奪われたご家族の心中、生還された方々の精神的・肉体的苦痛を思う時、この事故に対する大きな憤りと深い悲しみは決して癒えることはない。この事故を風化させてはならないという気持ちを改めて強くする」と追悼の言葉を述べた。生徒らは慰霊碑に花を手向け、犠牲者をしのんだ。

そういえば当時の森喜朗首相は事故発生時ゴルフをしており、事故発生の知らせを聞いたにもかかわらずプレーを続行したとして国民の非難を浴びたのであった。
森本人に言わせると

:もう思い出したくもないけど、あれもテレビのいい加減な報道で。あれはちょうど6番か7番(ホール)のときで、そこで秘書官から電話が来たんですよ、「詳しいことはわかりませんが、どうもハワイでこういう事故があったみたいです」って。「じゃあ、すぐ帰ったほうがいいのか?」って聞いたら、「いや、もうちょっと様子を見るからそっちにいてください」と。

 でも、ゴルフ場で座っているわけにいかないじゃない。後ろの組がどんどん来るんだから。そうじゃなくても嫌がられてるんだよ、SPが周りにいるから。だから、早くホールアウトしようとしたら、「事故の報告を聞いてるのにゴルフやってた」とか叩かれて。

 そのあとも「着替えてから(官邸に)行ったほうがいいか?」と聞くと、「そうしてください」って言うんで途中で着替えて行ったら、今度は「すぐ飛んで行かないで、シャワー浴びてから行った」と書かれた。でも、ゴルフウエアのままで官邸に入ったら、今度はなんて書かれたことか!

森喜朗元首相 えひめ丸事件の際にゴルフ続けた理由を明かす|NEWSポストセブン

佐々淳行

「危機管理には総理が陣頭指揮すべき『クライシス・マネイジメント』と、各省庁が国家行政組織法の定めに基づき対処すべき『インシデント・マネイジメント(事件処理)』と『アクシデント・マネイジメント(事故処理)』とがある。(えひめ丸事故が大きな国際的事故であったとしても)すべて総理の責任とするのは日本の法制上から言って誤りである。日米安保条約と日米外交問題は外務省所管だが、一般論から言えば海難事故は国土交通省とその指揮下にある海上保安庁の所管であり、「えひめ丸」が水産高校の実習船であることを考えると文部科学省の所管でもある。このように責任官庁が複合するようなときは、指揮命令系統の統一のために内閣官房を所管とする安全保障会議を開催するのが常道であって、外務省が動いた後に所管は内閣官房に移るので、森総理はゴルフ場からでもひと言「所管大臣は官房長官」と指示しておくだけでよかった。森総理が言うとおり、「えひめ丸」の衝突は事故であるが「総理の危機管理」ではない[40]。さらに、森総理は早く戻ってきた方で、私の経験からすればもっと狼狽した総理はたくさんおられる」

森喜朗 - Wikipedia
側近の「いや、もうちょっと様子を見るからそっちにいてください」というのはプレー中断してゲストハウスで待機してくれということで、後ろに客がいるからなんて言い訳にもならないし、「森総理はゴルフ場からでもひと言「所管大臣は官房長官」」と言わなかったわけだから危機管理できなかったことに間違いはないだろうと言わざるを得ない。
森にえひめ丸の事故それ自体に何の責任はないが、その後の対応の稚拙さには大いに責任がある。ポストのインタビューに見せる無責任な態度は最も批判されるべきだと思う。

そんな森喜朗だが(笑)、以降20年の長きにわたり様々な失言をし何一つ反省せず過ごしてきたわけだがようやく責任を取る機会が訪れたようだ。
www.nikkansports.com

国際オリンピック委員会IOC)は9日、東京五輪パラリンピック大会組織委員会森喜朗会長(83)が女性を蔑視する発言をしたことについて「完全に不適切だ」と指摘する声明を発表した。IOCは4日に「森会長は謝罪した。この問題は決着した」との声明を出していたが一転。世論などから批判の声が収まらない状況を受け、あらためてIOCの立場を示した。

    ◇    ◇    ◇

声明では「アスリート、全ての五輪関係者、市民に対しIOCは引き続き男女平等、連帯、無差別への取り組みを継続していく」とあらためて記した。世論や選手、協賛企業から森会長の発言を批判する声が相次いだことを受けた。

IOCの協賛企業は全て国際的な企業であり高い社会的目標を掲げている。そんな中、「問題は決着した」との声明を出しただけでは協賛企業からの理解は得られにくい。最悪の場合、協賛撤退にまで事態が発展する恐れもあるため「多様性、男女平等はIOCの活動に不可欠な要素。森会長の最近の発言はIOCの公約や(改革指針の)五輪アジェンダ2020に矛盾している」と明確な考え方を示した。

声明では森会長の進退には触れていない。IOCトーマス・バッハ会長は、森会長が調整能力にたけ、元首相という立場で国内外の要人に太いパイプがあることから、絶対的な信頼を置いている。しかし、国際的な体裁を守るために4日の声明から一転、世論に追随するような形で、新たな声明を発表した。

森会長は一時は辞任を意識するも、五輪を成功させる決意から続投を決意。ただ発言から週が明けても、世論の批判の声は収まっていない。関係者によると森会長は現在も発言を反省している一方で、家族や親族に週刊誌などの記者が詰め掛けている事態に、心を痛めているという。

15日からは東京五輪の準備状況を話し合うIOCプロジェクトレビューが開催される。それに先立ち12日、理事と評議員で開かれる合同懇談会で組織委としての立場を明確に示したい考えだ。

これはIOCの「反省しろよ森喜朗、それでもやっぱり森喜朗」ということなんだろうが、一方で日本国民、海外の反発を考えると辞任を含めた処分をJOCに暗に求めているともいえる。
これを機に今まで何一つ自分の失言の責任を取らなかった森喜朗に言葉の重みを痛感してもらいたいものだと思う*1

*1:失言暴言といえば石原慎太郎を思い出すが、石原はかって — 石原慎太郎環境庁長官時代の1976年に水俣病患者が手渡した抗議文の字を見て「IQが低い」と言い土下座したが、それから23年後、都知事に就任直後、知的障碍者について「ああいう人ってのは人格あるのかね」とほざいたこともあって、この手の老人がいまさら反省しこれからの生きざまを変えるなんてことは一切期待していない

2000万円必要なのはこちらのせいではないだろう

久しぶりの更新になる。

老後の生活に年金では足りず2000万円が必要だという金融庁の審議会の報告を麻生太郎財務大臣が受け取りを拒否した問題で麻生はこんなことを言ったらしい。
以下NHKから引用する。

老後の資産形成で「およそ2000万円必要になる」などとした金融庁の審議会の報告書について、麻生副総理兼金融担当大臣は「現場で作業していた人たちがもう少しきちんと丁寧にやればよかった」と述べ、報告書を取りまとめた金融庁の担当者の対応に問題があったという認識を示しました。
(以下省略)

老後2000万「現場がもう少し丁寧にやればよかった」麻生金融相 | NHKニュース

政府の意向に合わせようがなにしようが不足があることは事実で、それを真摯に受け止めてどうするのか議論するのが政治なのだとは思うが、この政権は不都合なことはとりあえず隠ぺいすればいいという考えが根本にあるのでいまさら感しかない。
また、政府の意向に基づいて財政制度等審議会は1年前の建議に記載した「自助」という文言を削除するようだ。

財政制度等審議会財務相の諮問機関)がまとめる2020年度予算案の編成に向けた建議(意見書)の概要がわかった。公的年金財政検証をきちんとして制度の「持続可能性を担保すべきだ」との考え方を示す。金融庁の金融審議会がまとめた老後資産の報告書問題を受け、1年前の建議に明記した私的年金などでの「自助努力」との文言は削除する方向だ。

年金制度「自助努力」削除へ 財制審建議 :日本経済新聞


・何故2000万円が必要になったのか
日本の年金制度は以下の前提で作られていた。
1.年金受給後5年から10年で死亡する。
2.2世帯以上同居(現役世代との同居もしくは現役世代からの仕送りが見込める)

1.についてだが次の表を示す。
f:id:kodebuya1968:20190615170425j:plain  
出典https://www8.cao.go.jp/kourei/kou-kei/24forum/pdf/tokyo-s3-2.pdf

このグラフでは男性の平均寿命が
1950年 58.0歳
1960年 65.32歳
1970年 69.31歳
となっている。
今でこそ老齢厚生年金の受給開始は65歳*1からとなっているが、制度発足当時は55歳であり、その後60歳に引き上げられた。ということは、年金を受給してから10年程度で亡くなるというのが制度の考えとしてあったと思われる。
勿論そうしたには理由があって、老齢年金は終身年金であるので、保険という面で考えれば支給期間が長くなればなるほど支給に必要な原資が増大するということであり、保険料負担を抑えるために必要な考えだったのであろう。
そして、高齢化が進むことを見込んで順次受給開始年齢は引き上げられた。

しかし、急激な高齢化は見込を大幅に超えた。
1980年 73.35歳
1990年 75.92歳
2000年 77.72歳
10年を超えるようになったのだ。
金融庁の試算で2000万円足りないというのは、毎月5万円足りない分を積み重ねるとそれだけ不足するということだから、仮に年金支給から10年で死亡するとすれば300万円不足ということになる。
300万だってたいした金額ではないか、と思うが、ここにもう一段セーフネットが用意されてある。
それが2.の2世帯以上同居(現役世代との同居もしくは現役世代からの仕送りが見込める)という点だ。

2世帯で同居ということであれば、現役世代がリタイアするのと先後して子ども世代が現役世代に参入するのであり、世帯全体の収入は親世代については年金ということで減収となるが、現役世代は増収する*2ので、下がることがなく、不足の300万円は十分に賄えたのだ。

しかし、
1.右肩上がりの経済が崩れ現役世代に親世代を養う余裕がなくなったこと
2.さらに現役世代の収入が下がり現役世代の生活も厳しくなり、子どもを養う余裕もなくなったこと
が、核家族化と少子化を急激に進展させることになった。
その結果、年金世代は不足する生活費を自助で賄うしかなくなってしまった。
結局、2000万円の不足は麻生の思うような自助努力が足りなかったためなんかではなく、政治の無為無策が原因といって良いものなのだ。
それを無視して高齢者の資金形成に不向きといわれる投機でまかなえといわれるから炎上しているのだ。

・年金世代の不足額は経済成長を考えると2000万ではないのではないか
政府は継続的な経済成長を考えているようだが、高年齢化が今後も進んでいくとすれば今後の消費の主役は高齢者となる。結局国内GDPの60%を占めるといわれる個人消費は高齢者の消費の如何に関わってくる。
そうなると、高齢者に金融商品の投資によって不足分をまかなわせるだけではなく、さらに消費もさせなければ経済成長は見込めなくなる。
年金の継続性も結構だが、今後高齢者に安心して消費させる必要があり、そのための仕組みが必要なのではないかと思う今日この頃だ*3

*1:昭和60年(1985年)から

*2:年功序列、経済が右肩上がりであることが前提だが

*3:年金の原資の半分は税金であり、政府が喧伝する「消費税増税分は社会保障費に充てる」ということが正しいのであれば、消費が増大することこそが年金の安定性を増すことになる。

極悪の極みの高度プロフェッショナル制度

久々の更新となる。

所謂高度プロフェッショナル法案だが、5月23日に強行採決という方向で進んでいるようだ。「ゆ党」である維新の怪が修正に同意したと昨日(5月19日付)の読売新聞朝刊が報じていた。その修正案については以下の記事を引用する。
働き方改革関連法案:「高プロ」の適用、同意後解除可能 厚労省検討 - 毎日新聞

厚生労働省は15日、働き方改革関連法案の柱の一つで、高所得の一部専門職を労働時間規制から外す「高度プロフェッショナル制度(高プロ)」について、本人が制度適用に同意した後でも解除できる仕組みを導入する検討に入った。同省関係者が取材に明らかにした。自民党との修正協議に臨んでいる日本維新の会や、公明党の要請に応じた形だ。
 法案によると、高プロは研究開発業務やコンサルタントなど高度な専門知識を必要とし、「時間ではなく成果で評価される」労働者に対して、本人が同意すれば適用できる。労働法制では初めて、労働時間規制を外す。【神足俊輔、阿部亮介】

この制度は欠陥ばかりの制度であり*1、その一つが、高プロは導入時には労働者の適用同意が必要であったが、労働者が離脱する手段がないという点であったが、今回の修正でその欠点が形式上は解消されたということになる。

使用者と労働者が対等の立場に(実質上も)あることが前提の離脱規定だ

労働基準法は「労働条件は、労働者と使用者が、対等の立場において決定すべきものである。」と定め*2、労働契約法は「労働契約は、労働者及び使用者が対等の立場における合意に基づいて締結し、又は変更すべきものとする。」*3としている。つまり
労使の立場が対等ではないことを当然なこととして、修正をかけているのだ。
恐らく修正条項には「離脱の申出をしたことを理由に不利益な取扱をしてはならない」というような文言が加えられることになるとは思うが、実際は労働基準法や労働契約法の条項によっても労働者に不利益な条件で契約し、契約を変更されたと言うことはいくらでもある話だ。また、不利益取扱の禁止には「合理的な理由がある変更は有効」という重大な例外があり「高プロ」制度の場合この「合理的な理由」が認められる可能性が他の場合より高いといえる。なぜなら「高度」で「プロフェッショナル」な働き方をする労働者に対して適用する制度であるのだから「高度」で「プロフェッショナル」な業務に給与を多く支払うという給与設計とすることは自然なことになる。とすれば「高プロ」から離脱すると「高度」で「プロフェッショナル」なことを前提に支給される各種手当てを削減することは極めて当然なことになるためだ。
例えば
年収1080万円であったとしても、その内訳を
基本給240万円(月額20万円)
職務給360万円(月額30万円)
職能給480万円(月額40万円)
という給与設計とすれば、離脱した瞬間に職務給と職能給を外し、年収240万円とできる。こうなると「高プロ」業務を離脱するとなると大幅な減収を甘んじよと言うことになるので実際に労働者にとって離脱の自由はなくなってしまう。そして労使の力関係を考えればこのような労働条件に双方合意させられてしまう可能性は極めて高い。
更に問題はこれだけではない。

実際の手取りは大きく下がるが、社会保険料は高止まりする。

今回の働き方改革関連法案を厳しく批判する佐々木亮弁護士は
高プロ制度は地獄の入り口 ~ High-pro systm is the gate to hell~(佐々木亮) - 個人 - Yahoo!ニュース

にて次のように批判する。

(前略)
まず、年収を1075万円と設定し、契約上、働かなければならない時間を、6264時間とします。
 この6264時間とは、1年の365日から、使用者が付与を義務づけられている休日日数104日を引いた261日に、24時間を掛けた時間数です。
 理論上、この時間数が、高プロでの最大の労働時間数となります。
 これを働くようにという契約も、高プロにおいては、法違反ではありません。
 
 当然ですが、人間は機械とは異なるため、24時間労働を何日も連続することは不可能です。
 どこかで力尽きて働けなくなるでしょう。
 その場合、1時間働けなくなるごとに時給換算した1716円ずつ給料が減ることになりますし、24時間休めば、4万円以上、給料が減ることになります。
 
 でも、そうなると高プロの年収要件を割って、高プロの適用がなくなるのでは?と思うところですが、高プロは、一定の年収が得られる「見込み」でいいので、欠勤控除などで下がる分は「見込み」には影響しないものと思われます。
 
 さて、そうすると、どうなるでしょうか。
 高プロで所定労働時間の設定をするにあたり、物理的な最大限の労働時間を所定労働時間と設定した場合の時給は1716円です。
 これを労働基準法の労働時間規制が許される労働時間で再計算すると、年収357万7860円(※3)となるのです。
 なんと!
 高プロは年収1075万円以上の労働者が対象と言いつつも、実は年収357万円くらいの労働者にも、やりようによっては適用できちゃうんですね。
(後略)

そう、使用者側は「契約どおりの勤務ができていないのだから、遅刻早退控除や欠勤控除をするのはノーワークノーペイの原則からして当然だ」といえてしまう。
そして更に問題なのは、「社会保険料が収入が大幅に減少しても下がらない」ということだ。
どういうことか?
確かに社会保険料は固定的賃金が減少し、その下げ幅が2等級以上であり、かつ、その状態が3か月継続すれば保険等級を引き下げ、その保険料を下げるということをしている。その趣旨は給与実態にあった保険料とする点にあるのであるが、この場合の「固定的賃金の減少」とは、降給や給与形態の変更ということを原因とするものであって、欠勤等の控除を理由とすることができないためだ。
勿論年1回7月に実施される保険料算定により実際の支給額に見合った保険料にはなるが、実際に保険料の引き下げが開始するのはその年の9月または10月給与からであり、場合によっては1年数か月間高い保険料を甘受することになりかねない。
上記佐々木弁護士の例で言えば、年収1075万円以上のはずが実際は年収357万円となり、かつ保険料は高額となると実際の手取りは厳しいものになることは言うまでもない。使いようによってはリストラの手段とすることもできるのだ。

可能性を作ることが問題だ。

もちろん、佐々木弁護士の言う例は極端なものであり、このような運用をすれば社会的な制裁もあるだろうから、実際に運用されることはないという反論はあり得るだろう。
しかし、運用の可能性があると言うことは、それ自体が労使間の交渉での使用者側の恫喝材料となり得ることを意味する。運用の可能性を作ってしまうこと自体が問題なのだ。
極めて労働者にとって凶暴な制度であり労働制度審議会への差し戻しでは足りない。一刻も早く廃案とすべきだ。

*1:そもそも労働運動は賃金だけではなく労働時間などの労働環境の改善を求めていたという歴史があり、「沢山払うから死ぬまで働け」という話は歴史を無視したものでしかない

*2:第2条1項

*3:第3条

統計をつまみ食いする安倍政権

裁量労働制は「平均的な方」で比べると一般労働者よりも労働時間が短い?

現在国会で審議中の所謂「働き方改革法案」であるが、驚くべき答弁が総理大臣と厚労大臣から飛び出したようだ。以下上西充子法政大学キャリアデザイン学部教授のブログから引用。
news.yahoo.co.jp

立憲民主党長妻昭議員に対する安倍首相の答弁(衆議院予算委員会2018年1月29日)
それと、厚生労働省の調査によれば、裁量労働制で働く方の労働時間の長さは、平均な、平均的な方で比べれば一般労働者よりも短いというデータもあるということは、御紹介させていただきたいと思います。

民進党・森本真治議員に対する加藤厚生労働大臣の答弁(参議院予算委員会2018年1月31日)
どういう認識のもとにお話しになっているのかということがあるんだと思いますけれども、確かにいろんな資料をみていると、裁量労働制の方が一般の働き方に比べて長いという資料もございますし、他方で平均的な、平均で比べれば、短いという統計もございますので、それは、それぞれのファクトによって、見方は異なってくるんだろうと思います。

では、その総理が言うところの「データ」や、厚労大臣のいうところの「資料」だが、これが適切に引用されているものであれば驚くべきことになる。拙ブログが裁量労働制拡大に反対したのはこの政策が「定額働かせホーダイ」になりかねない危険なものであるからだったが実際はそうではない、労働者の働き方の自由を確保できる可能性がある大変有意義な政策ということになるものであると、この政策に対する私の評価を大幅に変えなければならないということになるからである。

裁量労働制と労働時間の長さとの相関関係

野党側は労働時間が長くなることについての根拠を
ictj-report.joho.or.jp
に代表される統計データに求めた。
f:id:kodebuya1968:20180204121430p:plain

こちらは勤務時間のアンケートをそれぞれの労働者に行い、得た回答を時間別にグラフ化したものであり、これを見る限り実に6割の裁量労働制適用労働者が12時間以上の労働を行い、10時間以上となれば9割の労働者が当てはまっていることがわかる*1
また、同調査に寄れば

裁量労働制が適用されている者の通常の業務量にたいする認識
恒常的に自分のキャパシティを超えた業務量を抱えている14.1% (30名)
たまに自分のキャパシティを超えた業務量を抱えている57.3% (122名)
いつもちょうどよい業務量24.4% (52名)たまに業務量が少ないと感じている2.8% (6名)
恒常的に業務量が少ないと感じている1.4% (3名)
計100.0% (213名)

となっており、7割以上の労働者が「恒常的にまたは偶に」自己のキャパシティを超える業務を抱えていると考えているのがわかる。
以上調査は

業務の遂行方法(やり方)に関する裁量はあったとしても、業務の「量」に関する労働者の裁量は限定されており、実際の業務量も、労働者が自身で時間配分を調整できる範囲にとどまらないことがわかる。

と結論づけている。

「平均」の定義

一方、政府側は一般労働者・裁量労働制適用労働者の「平均」の労働時間を比較し、「裁量労働制適用労働者」の労働時間は一般労働者のそれに比べ短い「場合」があると反論した。上掲上西教授に寄れば政府は
http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12602000-Seisakutoukatsukan-Sanjikanshitsu_Roudouseisakutantou/shiryo2-1_1.pdf
を根拠に答弁したとのことであるがここでいう「最長の者」、「平均的な者」の定義を

この調査の調査項目に「平均的な者」と「最長の者」についての労働時間を把握した項目がある。一般労働者の時間外労働・休日労働の実績を紹介したページ(p.7)に、「最長の者」と「平均的な者」について、次のように説明がある。
5 時間外労働・休日労働の実績
※この項の「最長の者」とは、調査対象月における月間の時間外労働が最長の者のことをいい、「平均的な者」とは、調査対象月において最も多くの労働者が属すると思われる時間外労働時間数の層に属する労働者のことをいう。
 ここで注目したいのは、「平均的な者」とは、「最も多くの労働者が属すると思われる時間外労働数の層に属する労働者」のことであって、労働時間の平均値を表すわけではないという点だ。

であると指摘している。

つまり、各々の労働者の労働時間の平均をとり比較するのではなく、母数が一番多い労働者の労働時間の平均を取り比較をしたということだ。これで上記資料を見ると確かに裁量労働制の労働者は8.5時間~9時間の労働者の母数が最も多くなる。その母数の平均を取るというのであるから、仮にどちらも同じ時間帯の労働者が一番大きかったとしても、一般労働者の時間の平均が9時間、裁量労働制の労働者の平均が8.5時間となると、一般労働者の方が長くなるということになるという理屈だ。

普通「平均」というと、この場合は調査母数全体の総労働時間を集計し、母数で割るのだと思うが、ここで言う平均は必ずしもそうではなく、母数の一番大きなものの労働時間の平均をとったというもので、それ自体はおかしなやり方だとは思わないが、必ずしも野党側の質問に真正面から答えているとはいえないだろう。
むしろこれについてのブクマ
b.hatena.ne.jp

>>maruX ↓労働時間が長い方からボロボロと死んでゆくのに中央値取ってなんか意味あるの…?

という批判のとおりだろうし、上西教授の以下の批判に政府は答えるべきだろう。

 政府は小細工によって国民を欺くような真似はやめて、現在でも裁量労働制のもとで働く労働者が長時間労働になりやすいという調査データが示す現実にどう対処し、どう過労死を防ぐかという問題に、真摯に向き合うべきだ。

問題は労働時間そのもののみにあるのではない

裁量労働制はその言葉のとおり労働者の「裁量」に委ねられた労働であるということであるが、その実際は少なくとも業務量については労働者の裁量がおよばないものであり、それが原因で10時間以上勤務を余儀なくされる労働者が過半数を超える実態があるというべきであり、経営者側が労働者に裁量権の全てを渡すくらいにしなければやはりこの制度改革は「定額働かせホーダイ」制度だという誹りを免れないだろう。
また、統計資料を恣意的につまみ食いする安倍政権の態度は更に非難されるべきだ。

*1:10時間以下の場合は一般労働者の占める割合が多いが、それは多くの企業が残業時間を月40時間とする36協定を締結している影響ではないかと思われる

裁量労働制拡大と自己責任

所謂「働き方改革一括法案」が今国会で審議される。
本来なら昨年末の臨時国会で審議される予定だったものが「モリカケ問題」で丁寧な説明をしたくなかった安倍晋三首相がろくに開催日数を用意しなかった御陰で通常国会に持ち越されたというものだ。

「アメとムチを一括に出す」

この法案の答申は厚労省のホームページから見ることができる。
www.mhlw.go.jp

そのポイントだが

1.働き方改革の総合的かつ継続的な推進
 働き方改革に係る基本的考え方を明らかにするとともに、国は、改革を総合的かつ継続的に推進するための「基本方針」(閣議決定)を定めることとする。(雇用対策法
2.長時間労働の是正、多様で柔軟な働き方の実現等
(1) 労働時間に関する制度の見直し(労働基準法
時間外労働の上限について、月45時間、年360時間を原則とし、臨時的な特別な事情がある場合でも年720時間、単月100時間未満(休日労働含む)、複数月平均80時間(休日労働含む)を限度に設定。
※自動車運転業務、建設事業、医師等について、猶予期間を設けた上で規制を適用等の例外あり。研究開発業務について、医師の面接指導、代替休暇の付与等の健康確保措置を設けた上で、時間外労働の上限規制は適用しない。
・月60時間を超える時間外労働に係る割増賃金率(50%以上)について、中小企業への猶予措置を廃止する。また、使用者は、10日以上の年次有給休暇が付与される労働者に対し、5日について、毎年、時季を指定して与えなければならないこととする。
企画業務型裁量労働制の対象業務への「課題解決型の開発提案業務」と「裁量的にPDCAを回す業務」の追加と、高度プロフェッショナル制度の創設等を行う。(企画業務型裁量労働制の業務範囲を明確化・高度プロフェッショナル制度における健康確保措置を強化)
(2) 勤務間インターバル制度の普及促進等(労働時間等設定改善法)
・事業主は、前日の終業時刻と翌日の始業時刻の間に一定時間の休息の確保に努めなければならないこととする。
(3) 産業医・産業保健機能の強化(労働安全衛生法等)    
・事業者から、産業医に対しその業務を適切に行うために必要な情報を提供することとするなど、産業医・産業保健機能の強化を図る。 

3 雇用形態にかかわらない公正な待遇の確保
(1) 不合理な待遇差を解消するための規定の整備(パートタイム労働法、労働契約法、労働者派遣法)
・短時間・有期雇用労働者に関する正規雇用労働者との不合理な待遇の禁止に関し、個々の待遇ごとに、当該待遇の性質・目的に照らして適切と認められる事情を考慮して判断されるべき旨を明確化。併せて有期雇用労働者の均等待遇規定を整備。派遣労働者について、(a)派遣先の労働者との均等・均衡待遇、(b)一定の要件※を満たす労使協定による待遇のいずれかを確保することを義務化。また、これらの事項に関するガイドラインの根拠規定を整備。 
(※)同種業務の一般の労働者の平均的な賃金と同等以上の賃金であること等
(2) 労働者に対する待遇に関する説明義務の強化(パートタイム労働法、労働契約法、労働者派遣法)
・短時間労働者・有期雇用労働者・派遣労働者について、正規雇用労働者との待遇差の内容・理由等に関する説明を義務化。
(3) 行政による履行確保措置及び裁判外紛争解決手続(行政ADR)の整備
・(1)の義務や(2)の説明義務について、行政による履行確保措置及び行政ADRを整備。
(赤太字、青字は引用者)

この一括法案の嫌らしいところは、不完全ながらも(むしろ現状追認でしかないが)時間外労働の上限を設け、勤務感インターバル制度を設けることを(努力規定とはいえ)事業主に求め、そしてある意味本法案の目玉でもある「同一労働同一賃金」とそれに伴う労働条件の均等を求める一方で、所謂「裁量労働制」の適用範囲を青天井にしようとしている点にある。
確かにいずれも「働き方改革」なのであろうが、残業時間の規制と、「定額働かせホーダイ」の異名を持つ裁量労働制の業種の拡大は個別に論じられるべき議論であり一括にとても馴染まず、また労働時間の問題と「同一労働同一賃金」の問題は別物だと思うのだが現政権が長期政権のわりには目立った成果が出ていない以上、ここで実績を作っておきたいと思う政権側とホワイトカラーエグゼンプションの実現を長年の希望にしていた経団連側の意向が合致し、一括提案になったのだろう。
もっと邪推すれば「日本人の低い生産性」をごまかすために時間という概念を第三次産業からなくそうとしているのではないかとすら思えてくる。

裁量労働制の拡大と制度を支える「自己責任」の論理

 裁量労働制の拡大については当ブログでも言及したが、今野晴貴氏のこちらの記事がわかりやすい。
news.yahoo.co.jp

この記事と記事に紹介される判例を見る限りではやはりこの制度は問題がありすぎると言わざるを得ない。
最大の問題はこの制度の根幹を支えるのが「自己責任論」にあるからだ。

所謂「ブラック企業」問題のカウンター言論としては
「帰ることができたのに帰らなかった。」
生活残業だったんだろう」
「辞めることができたのに辞めなかった」
「好きで入社したのにお門違いだ」
「わかっていて入社したくせに」
など、自己責任論が噴出する。実際この制度が運用されるようになれば、さらにこの風潮に拍車がかかることになる、というよりも仕事が自己責任で処理できる社会になっていない中でこの制度の運用は極めて危険だ。というのも「名ばかり裁量」が横行することになりかねないし、今野氏の上記記事を読む限り実際「名ばかり裁量」の問題を解決することなしに制度拡大すればこのような被害が噴出することは目に見えている。
その上以下の問題もあると考える。

判例の確立した基準からも後退する

裁量労働とはいえども、会社は従業員の健康を守る義務があり、そのためには時間管理が必要である」というのが判例で確立した裁量労働制に対する規制であり、実際この判例理論があったからこそ労働基準監督署はこのような是正勧告を出すことができた。https://www.buzzfeed.com/jp/kotahatachi/medtronic-jp?utm_term=.fb4Dx4038#.ju90Bg1Kv
しかし、今回の一括法案にはそのような文言は記載されておらず、また高度プロフェッショナル業務では求められている健康保全措置の義務づけもないことから、判例理論の規制はほぼ骨抜きになることが危惧される。

日本特有の同調圧力

そしてなによりも大きいのが自分一人だけ帰りにくいというような同調圧力にある。
かって舛添要一が「ホワイトカラーエグゼンプション」を「馬鹿な上司を置いてさっさと帰ろう法案だ」といったことがあった。「馬鹿であれなんであれ人事評価をするのがその上司である以上上司の顔色を伺わずに帰ることなんてできないだろ、舛添って社会人経験がないのか」と思った。日本の会社風土をそのままに導入すると結局会社居残り競争になってしまう状態が加速されるのではないか。

労働者の勝ち得た権利を手放す暴挙だ

実際法案が成立したとしても、事業主は時間管理義務を免れることは実質不可能であり*1、もしかすると採用する事業主は少ないのかもしれない。
しかし、労働における拘束時間の問題は長年の労使間の闘争を経た末に労働者が勝ち得た権利であり、それに逆行するようなことは今までの利益を嬉々として手放すものであり決して認めてはいけないと言わざるを得ない。

そしてこんな批判にはこう答えよう

「成果に対して賃金を支払ってなぜ悪い?」
→法律上禁止されていませんからどんどん支払ってください。ただし、人を拘束していることはお忘れなく。
「だらだら残業している人間がカネを稼いでいいのか?」
→そのとおりです。だからきちんと労務管理と仕事量管理をしてください。

あぁそれから「それならば全従業員を業務委託にする」とか「全従業員を役員にする」とか考えるだけ無駄なのでとりあえず。

*1:深夜労働については割増賃金の支払い義務があるからだ

切り捨てることで成り立つ大阪府の教育指導

d.hatena.ne.jp

を読んで思ったこと。

この件は、学校側と企業側と(消極的には)学生側との利害関係が一致し成り立ってきた構図がその構図にどうしても組み込まれることを潔としなかった生徒が声を上げてきたことで可視化されたことなのではないかと思う。

労働者の容姿に企業側がどこまで介入できるかについては、地裁レベルではあるが、このような判決がある。

労働者の服装や髪型等の身だしなみは、労働者個人が自己の外観をいかに表現するかという労働者の個人的自由に属する事柄であり、また、髪型やひげに関する服務中の規律は、勤務関係又は労働契約の拘束を離れた私生活にも及び得るものであるから、そのような服務規律は、事業遂行上の必要性が認められ、その具体的な制限の内容が、労働者の利益や自由を過度に侵害しない合理的な内容の限度で拘束力 を認められるというべきである。
郵便事業事件 神戸地判平成 22.3.26 事件番号:平成 21 年(ワ)149 号

髪型やひげという自分の意思で*1表現することができるものでさえ「合理的な内容の限度」でしか拘束できない。これが「生まれながら」や「本人の責めに帰すことができない後天的な事由」での場合であれば、ますます拘束力は認められないという方向に向かうと思われる。

企業側とすれば従業員はその支配下に入れたいということになるのだろうから、きちんとそのような社員に相対するという手間も時間も場合によっては訴訟リスクも抱えるなんてことよりも、早い段階でそのような人間を入社させない、排除するという方向に向かうだろうし、可能であるならば、教育機関があらかじめそのようなことを起こさない人間を作り出してくれているのであればますますありがたいし、そのような教育機関出身の人間を積極的に採用していきたいと思うだろう。

学校側としても、就職率が高いということは何よりも優る宣伝材料であり、しかも脅すだけで効果が出るというのだからこんなに効率の良い方法はないということなのだろう。
そして学生達も髪の色「だけ」異常に厳しいことだけなのだし、少なくとも多くの学生は髪の色を諦めさえいれば就職も見込めるということなのだから、全てがwin-winの関係になりめでたしめでたしのはずなのだ。

だから大阪府側(というより学校側の意向なのだろう)は争う姿勢を見せた。
そうしなければ大阪府の教育カイカクの嵐の中で生き延びる方法がなくなってしまう危険性があるからだということなのだろう。生まれながらだろうがなんだろうが全て学校の指導を強制するというやり方に正当性があるという姿勢をとり続けなければ全てが崩壊するという恐怖心がこのような学校側の強硬な姿勢を取らせた要因なのではないか。

新自由主義の根本は自己責任ということだが、究極には「生まれてきたことも自己責任」まで行き着いてしまう。大阪府下の教育はそこまでいってしまっているのではないかといわざるを得ない。

*1:もちろん事情によりどうすることもできない場合もあるけど

労働問題でも政府の露払いをするNHK

これはミスリーディングだと言われてもしょうがないだろう。
トヨタ 裁量労働の対象拡大 時間に関係なく手当支給へ | NHKニュース

トヨタ自動車」は生産性を高めるため、実際に働いた時間とは関係なく、一定の時間働いたものと見なして賃金を支払う、裁量労働の対象を拡大して、管理職以外の総合職のおよそ半数に対し、残業時間に関係なく月17万円程度の手当を支給するなど、新しい人事制度の導入を検討することになりました。
(中略)
具体的には、主に事務や研究開発に携わる30代の係長クラスを対象に、管理職以外の総合職のおよそ半数に当たる7800人程度まで拡大して、残業時間に関係なく月17万円程度の手当を支給する方向です。この金額は月45時間分の残業代に相当するもので、これを超えて残業した場合は別途、手当を支給する一方、働きすぎを防ぐために新たな連休取得なども検討しているということです。


トヨタが採用したこの制度のポイントは
・残業時間に関係なく月17万円程度の手当を支給
する一方で
・この金額は月45時間分の残業代に相当するもので、これを超えて残業した場合は別途、手当を支給する
というところにあり、これがこの制度の肝というのであればそれは単なる「45時間のみなし残業」というだけであって、NHKの報道するような「裁量労働制の拡大」とか「時間ではなく成果で評価」という話とは全く関係がない。

そもそも裁量労働制とは独立行政法人労働政策・研修機構に寄れば2種類ありそれぞれは

<専門業務型裁量労働制
専門業務型裁量労働制は、(1)業務の性質上その遂行方法を労働者の大幅な裁量に委ねる必要性があるため、(2)業務遂行の手段および時間配分につき具体的指示をすることが困難な一定の専門的業務に適用されるものです(労基法38条の3第1項)。具体的な対象業務は、a.研究開発、b.情報処理システムの分析・設計、c.取材・編集、d.デザイナー、e.プロデューサー・ディレクター、f.その他厚生労働大臣が中央労働基準審議会の議を経て指定する業務(コピーライター、公認会計士、弁護士、不動産鑑定士弁理士、システムコンサルタント、インテリアコーディネーター、ゲーム用ソフトウェア開発、証券アナリスト金融工学による金融商品の開発、建築士、税理士、中小企業診断士、大学における教授研究)に限られます(労基則24条の2の2第2項、平成9年労働省告示7号など)。

<企画業務型裁量労働制
企画業務型裁量労働制は、企業の中枢部門で企画立案などの業務を自律的に行っているホワイトカラー労働者について、みなし制による労働時間の計算を認めるものです。このような労働者も、専門業務型裁量労働制の対象者と同様に、仕事の質や成果により処遇することが妥当な場合があることを根拠としたものですが、濫用のおそれもあるため、労使委員会における5分の4以上の多数決による決議を要するなど、専門業務型に比べて要件は厳格になっています(関連法令の他、厚生労働省の指針もご参照ください。平11.12.27労働省告示149号(平15.10.22厚生労働省告示353号により改正)。

すなわち、労使委員会が5分の4以上の多数決による決議を行い、使用者がその決議を行政官庁に届け出た場合には、事業の運営に関する企画・立案・調査・分析の業務であって、性質上その遂行方法を大幅に労働者に委ねる必要があるため、その業務の遂行の手段および時間配分の決定等に関し使用者が具体的な指示をしないこととする業務に、その業務を適切に遂行するための知識・経験等をもつ労働者を就かせたときには、その労働者については決議で定めた時間だけ労働したものとみなすことができます(労基法38条の4第1項)。みなし制の効果は、専門業務型の場合と同様です。

企画業務型裁量労働制の対象業務に当たるか否かは個々の労働者ごとに判断され、「企画課」などの部門の全業務が対象業務になるわけではありません。対象業務の具体例は、上述した指針に挙げられています。また、対象となる労働者としては、少なくとも3年ないし5年程度の職務経験をもち、対象業務を適切に遂行しうる知識・経験をもつ者が想定されています。

また、この制度を実施するには、上述したように、使用者および事業場の労働者を代表する者からなる労使委員会による決議が必要です。労使委員会の委員の半数以上については、事業場の過半数組合、そうした組合がない場合は過半数の代表者が任期を定めて指名することを要します(労基法38条の4第2項)。労使委員会の決議事項は、a.対象業務と対象労働者の具体的範囲、b.みなし労働時間、c.対象者の健康・福祉の確保措置および苦情処理措置、d.実施にあたり対象労働者の同意を得ること、および不同意を理由に不利益取扱をしないこと、e.決議の有効期間、f.記録の保存などです(労基法38条の4第1項、労基則24条の2の3第3項)。

以上のうち、対象者の健康・福祉の確保措置としては、代償休日や特別休暇の付与などがあげられます(健康等の確保の前提として、始終業・入退出時刻の記録等により勤務状況を把握することも必要になります)。また、決議に基づく労働者の同意は、各人ごと、かつ決議の有効期間ごとに得なければなりません。なお、裁量労働制のもとでも、使用者が安全配慮義務を負うことに変わりはありませんので、使用者としては、労働者が心身の健康を害するような働き方をしていないかどうかに注意し、必要に応じて適切な措置をとることが求められます。

Q6.裁量労働制とは何ですか。|労働政策研究・研修機構(JILPT)

とあるように、労働時間を「みなす」のであって、残業時間を「みなす」というものではないからだ。

政府が導入を目指す「(拡大の)裁量労働制」とは、拘束時間のみならず仕事の進め方を労働者の裁量に委ねる*1というものであって、この制度に懸念を持つ労働法専門の弁護士は「労働量の調整権を労働者が持たない以上、結局定額働かせホーダイ」になるという懸念を表明しているわけだが、トヨタのそれは残業時間の調整権も含めて労働者になんの裁量もないものでありこれを「裁量労働」にひっくるめるのは流石に誤報というしかないだろう。
むしろ政府が目指しているのはトヨタのそれのような「労働者に裁量を認める」というものではなく「事業主の裁量を今まで以上に強く認める」というものなのであろうからNHKはその露払いをしたということなのだろうか。
NHKはこの件について一刻も早い訂正報を流すことを強く求めたい。

しかしどうでも良いけど45時間のみなし残業に17万円支給というのはどうなんだろう。流石に最低賃金は割っていないとは思うが基本給と諸手当がいくらなんだろうと余計な心配をしてしまうのだった。

*1:「市場調査」という名目で行列のできる飲食店で2時間も並ぶということになると必ずしも労働時間で管理することに意味があるとはいえない

連合さん大いに変よ

所謂ホワイトカラーエグゼンプション法案*1は、安倍政権下で2年前に提出されていたが、労働者側の反発が大きくまた本質的には経済に興味がない現政権下では棚晒しとなっていたのだが、水面下では動いていたらしく連合が修正案を出してきた。
これによって、秋に開かれる*2 臨時国会ではまたぞろこの法案の審議が始まりそうである。
今回は労働者の代表である連合が修正を求め、政府はそれに応じるということだから「連合お墨付き」法案であり、この法案の成立は確実に成る危険性が極めて高いといえるだろう。

連合の修正とはどういうものか

これは
www.asahi.com
にある図表に詳しい。
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政府法案としては「働き過ぎ防止」のために
・年104日以上の休日取得
・労働時間の上限設定
・勤務間インターバル制度
の「いずれか」を選択するとあったのだが、
これを
・年104日以上の休日取得を義務として
その上で
・労働時間の上限設定
・勤務間インターバル制度
・2週間連続の休日取得
・心身の状況に応じた臨時の健康診断
のいずれかを複数選択するとしている。

新たな電通事件を作りたいのか

以前も書いたことだが、この法案の本丸は裁量労働制の適用対象者の拡大にあると思っており、この内容では裁量労働制の改悪により新たな電通事件が起きるのではないかというのが正直な感想だ。

連合は条件を加算したというのだがあまりにも弱すぎるのだ。・

年104日以上の休日というのは、週休2日制を言い替えたに過ぎず、仮にそうであれば年末年始・国民の祝日・夏期休暇など一切認めないとすることができる。
また、連合の言う選択についてだが、健康診断であるがあくまでも「心身の状況に応じた」とあり、労働者の希望に応じる義務を企業側に課すのだろうが実際に労働者がその権利を行使できるかと言うことについては健康診断の受診率は小規模事業所で8割を切っている状態であり*3をみると企業に課せられた義務の健診ですらこうなのだから、任意の健診を受診するとなるとさらに受診率が低下するのは間違いない。
問題は勤務時間・休息時間の確保なのであって、
・労働時間の上限設定
・勤務間インターバル制度
・2週間連続の休日取得
を2つ選択として、健診は外さなければ勤務時間改善には繋がらないだろう*4
実際、勤務時間の上限といえば36協定を思い浮かべるがあれも労使の協定で青天井にできることを考えると、選択方法によっては「定額働かせホーダイ」にお墨付きを与える制度にできるのだ。

現在は人手不足でありそのような制度を持つ企業に入社するかどうかは疑問ではあるが、入社時から裁量労働制社員として働かせるのではなく、半年・1年経過後に裁量労働制を採用するというやりかたができる以上、この条件下で裁量労働制の適用を拡大することは極めて問題があるといわざるを得ない。
「連合さん大いに変よ」と言わざるを得ない。

*1:とするとわかりにくいので「定額働かせホーダイ」というべきだろう

*2:というより現時点で野党は臨時国会の開催を求めており憲法の規定では開催をしなければならないのだが、当然のように政府・与党は無視するらしい。

*3:古いデータだが厚労省データによるhttp://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/saigai/anzen/kenkou07/j1.html

*4:もしくはインターバル制度は少なくとも必須項目に追加する

有名ブロガー氏に学ぶ有給休暇

ネタにマジレスなのかかどうか私生活まで知る由もないので軽々なことはいうことができないが、某有名ブロガーが現在前職の会社に対し戦いを挑もうとしているらしい。
労基署に行って、昨年末辞めた会社と戦うことにしました。 - Everything you've ever Dreamed

ここでの論点は以下の3つあると考えている。

1 退職後の有休取得は可能か?未消化の有給買い取りは会社の義務か?

2 協定のない有給休暇の計画的付与は有効か?

3 年休未消化を理由に退職後に退職を撤回できるか?

それぞれを考えてみたい。
某ブロガー氏の目に留まるとは思えないが*1有給とその周囲の確認のために残しておく。

退職後の有休取得は可能か?未消化の有給買い取りは会社の義務か?

有給休暇とは一言で言えば「労働者のリフレッシュを目的とした制度」であって、労働義務がある日を「有給休暇カード」を使ってその職場での労働義務を免除するというものであるから、「労働者が就業していること」が有休取得の要件となる。
だから、有給休暇を退職後行使することはまず不可能というしか無い。

それなら、未消化の有給を会社が買い取れと退職後の労働者が会社に対して主張できるのか?会社はその主張に応じる義務があるのか?ということだが、給与計算上の有給処理方法は給与形態によって2つあって
1:月給者の場合は欠勤控除としない。
2:時給者・日給者はその日分の給与を手当てとして((基本給に組み入れてもいいが、有給と本来の勤務とは分けた方が好ましいと思う))支給する
ということになる。
月給の場合は控除をしないということになる訳だからそもそも制度として有給の買い取りを予定していないと言うべきだ。だいたい有給を会社が買い取れるようにすると全く有休を取得させないという方法が可能になり有給制度の趣旨を没却しかねない。
それでは一切の有給買い取りが認められないのかといえば、例外的に、退職日の段階で消化しきれなかった有給を会社の任意で買い取ることで精算することは認められている。
逆に言えば買い取るかどうかは会社の任意によるのであって、慣例的になっているのでなければ必ずしも買い取る義務は無いと言わざるを得ない。

もちろん、件のブロガー氏が会社と折衝の結果買い取らせることができればいいのだけれどその場合であっても問題は有給の日数が何日残っているかが問題となる。

協定のない有給休暇の計画的付与は有効か?

件のブロガー氏の会社は4週8回の休日の休日制度を取っていたということで、このことは別におかしくはない。ただ、この休日制度は月を単位とはしてはならないので、

4週間ではなく月末〆の1ヵ月間で8日以上休んだ場合、その8日を超過して休んだ分は本人に連絡も確認もなく年休消化として処理

することは「有給休暇の計画的付与協定」を労使間で交わさなければ違法となる。
この制度を組むときに専門家の知識なしにしているとは考えにくく、おそらく労使協定はあるのだろうが、仮に存在しないということであればこの有給休暇のみなし取得は違法でありブロガー氏の計算による有給日数を認めるということになる。

年休未消化を理由に退職後に退職を撤回できるか?

退職の撤回については自己都合退職の場合は認められにくいが、例外として錯誤・詐欺・強迫をうけて退職願や退職届を提出したといったような労働者の自由意思でなされたものかどうか極めて疑わしい場合には例外的に撤回が認められることになる。
問題は有給休暇の日数が12日しかないと「騙されたので」この日に退職したのであってそうでなければ本来の有休取得日数分を経過した日に退職をしていたといえるのかどうかだ。
問題は有給日数が退職を決める重大な要素かどうか、もっといえば有給が全く残っていなければそもそも退職をしなかったといえるほどの要素かどうかにかかっているのではないかと思う。
いや、もし退職届提出から退職日までの間2か月も給与が入っていれば安心して求職活動ができたはずだということであれば全くそのとおりなどだが、そこまでくると労働審判に委ねることになるであろうから、速やかに無料弁護士相談を利用し法的に主張が可能か確認した方が良いだろう。
とはいえ、この場合「有給の計画的付与協定」が有効に成立しているのであれば有給残日数どおり取得したということになってしまうので無意味な主張になってしまう。


なお、主張が認められた場合だが、退職日の訂正届を会社はハローワークと年金事務所に提出し、市県民税についても普通徴収の切り替えの訂正をすることとなる。
雇用保険の求職者給付についてはもし支給されてしまったのであれば返還することとなるし、年金・健康保険の保険料については会社が天引きすることになる。仮に国民年金国民健康保険の保険料を支払ってしまっていた場合には後日同氏に返還されることになるので二重払いにはならない。
また、個人対会社となると話し合いにはまずならないので、どちらかのユニオンを介するのが得策である。労基署も今はやりの過剰労働や未払い残業ということであれば重い腰を上げると思われるがこの件で積極的に動くかといえば悲観的にならざるを得ない。
件のブロガー氏がどう考えるかは関知することはできないが、この件のみで会社とやり合うのは上手いやり方とは思えない。
ブクマにもあるとおり未払い残業でやり合う方が良いように思う。最後「部長」だったそうだが同氏のブログの記事を信じるならば休日出勤も当然な「名ばかり管理職」にしか思えないので証拠がどの程度用意できるかによるが十分そちらの方が勝算があるだろうし入ってくる金銭も有給に比較して多いのではないかと思う*2

*1:同氏曰く社会保険労務士有資格者とのことなので100も承知なのだろう。以前も通勤災害の件でわざと知らないようなふりをした記事を書いていたし。

*2:もちろんそれを折衝材料として同氏主張の有給日数分の賃金を解決金として獲得するという方法もありだけど