kodebuyaの日記

労働問題が最近多くなった食レポブログです。

松本健一氏死去

うかつなことにこの件を先ほど知った。
訃報:松本健一さん68歳=評論家 「評伝 北一輝」 - 毎日新聞

近代日本の思想史、文学研究などで活躍した評論家の松本健一(まつもと・けんいち)さんが27日、亡くなった。68歳。年明けにお別れの会を開く。喪主は妻久美子(くみこ)さん。

 群馬県生まれ。1968年、東京大経済学部卒。民間企業を経て、法政大大学院に入り近代日本文学を専攻。在学中に刊行した「若き北一輝」で単行本デビューした。右翼の巨頭のイメージが強かった北一輝の実像を実証的に明らかにした。また、現在を幕末と第二次世界大戦後に次ぐ「第三の開国」に当たるとして、日本の変革を論じた。日米関係や東アジア外交史にも詳しく、民主党政権では内閣官房参与も務めた。歴史や文学、思想史に精通し、著作や講演、テレビなどで幅広く活躍した。

この方の書物については
【再読】松本健一 「日本の失敗」---「第二の開国」と「大東亜戦争」 - kodebuyaの日記
で書いたように同氏の

日本の失敗―「第二の開国」と「大東亜戦争」 (岩波現代文庫)

日本の失敗―「第二の開国」と「大東亜戦争」 (岩波現代文庫)

を再読していたのだった。

初読の際、北一輝の研究者というので右翼系の研究者かと思いながら読み始めたのだったが、読み進めているうちに「これ左翼呼ばわりされるんだろうなぁ」と不思議な感覚に襲われたことを思い出した。

故人の冥福をお祈りいたします。

「いいことしたから嘘でもいいじゃん」とはならないの?

どうして解散するんですか?
が騒ぎになっていることを知った。

どうやら子どものふりをして世間を騙したということなんだそうで、当の本人も事実を認め謝罪しているようだ。
疑問それ自体はまっとうなものだとは思うので、何も属性を偽ることなく堂々と聞けばいいのにと思うのだが、結果として嘘をつき、その嘘がばれた後の対応も稚拙だったこともあってネット界隈の怒りを買ってしまった模様だ。

件の人物のやったことは論外であることはもちろんだが、これを批判している人たちって「水伝」とか「親学」とか「江戸しぐさ」とか「殉愛」とか「震災のメール」とか「ハーバード大学図書館の朝」とか「金持ちと結婚したいの女へのJ.P.モルガン社長の返答」等々を批判しているのだろうか。
これらを「いい話だから設定の部分が嘘でもいいじゃん」と擁護しているのであれば、件の人物の行為は必ずしも否定できないと思うんだけれども。

件の人物の意図が「子どもという衣を纏うことで政治家にこの度の解散に対する意見を世間にわかりやすく伝えるようにさせたい」ということであるならば「政治家にこの度の解散に対する意見を世間にわかりやすく伝えるようにさせたい」という部分だけを取れば否定されるべき話ではなく「いいことしたんだから設定の部分が嘘でもいいじゃん」と擁護できてしまうんだが。

「いや、本人の衆院選出馬の布石だから、ステマだから問題だ」
それいえば「水伝」とか「親学」とか「江戸しぐさ」とか「殉愛」だって同じ穴の狢としか思えないんだが。

しかし、つまらないことをして現政権批判者に対する後弾を撃ってくれたなというのが正直な感想だ。

労働教育と受け皿

若年層労働者の7割が「労働上の権利を学校で学びたかった」 | リセマム

働いていて困った経験がある若年層労働者は約6割に上り、約7割が「働く上での権利・義務を学校教育でもっと学びたかった」と回答していることが、日本労働組合総連合会が11月20日に発表した「学校教育における『労働教育』に関する調査」より明らかになった。
(中略)

働く上で関わりのあることについて、学校(小学校・中学校・高校・大学・短大・専門学校・大学院)で学んだことがあるか聞いたところ、学んだ割合は、「働くことの意義について」がもっとも高く70.9%、次いで「社会の仕組みと雇用の関係について」65.6%、「職場における男女平等について」62.7%、「税金について」62.0%、「労働者の権利について」58.0%、「労働者の義務について」57.6%となった。調査項目中で学んだ割合がもっとも低かったのは、「職場でのトラブルや不利益な取扱について(内容や相談場所など)」で29.6%にとどまった。

 労働教育に関する意識について、「働く上での権利・義務を学校教育でもっと学びたかった」68.7%、「働くことの意義を学校教育でもっと学びたかった」57.8%と、半数以上の若年層労働者が、学校教育で働く上での権利・義務や働くことの意義をもっと学びたかったと思っていることが明らかになった。
工藤めぐみ

Yahoo!ニュース - 新聞社の「定額残業制」に労基署が「是正勧告」 どういうことなのか? (弁護士ドットコム)

(前略)
●定額残業制はそもそもNGなの?

労働基準法13条には、次のように書いてあります。『この法律で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については無効とする』」

つまり、労基法の「基準」に達していない労働契約は、無効になるわけだ。そもそも定額残業制はダメなのだろうか?

「たとえば、『残業の時間の実態はどうであれ、残業代として支払うのは定額で○円です』という合意があったとします。

一方、労働基準法37条には、『残業時間に応じ割増賃金を支払わなければならない』という規定があります」

その2つが衝突したら、どちらが勝つのだろうか?

「もし、現実に働いた残業分の割増賃金が、定額○円分を超えていないなら、合意は有効です。

しかし、現実に働いた分が、定額○円分を超えている場合、『その部分』については、法の規定に達しない合意として、無効となります」

労使合意のうち、労働基準法37条のラインを超えた部分が、部分的に無効になるというわけだ。

「労使合意は、それが個別の契約であれ労働協約であれ、法令の定める水準に達していることが必要です。労使合意と法規では、法規の効力が優先されるわけです」

労働基準法は「最低ライン」

労働者と使用者の合意があっても、法律が優先されるのはなぜだろうか?

「労働者は使用者に対して不利な立場にあります。自由な契約内容を認めてしまうと、一方的に不利な契約内容を押し付けられかねません。

そこで、憲法27条2項は、労働条件を法律によって定めるとしています。

労働基準法は、憲法27条2項のいう『法律』の一つで、労働者の生活の最低水準を維持することを目的として定められたルールです。

したがって、労働基準法の水準を下回る労使合意は、効力を認められません」

合意が無効だと、どうなるのだろうか?

「そういった場合、労働条件は労働基準法の定めが適用されることになります。つまり、今回のような場合、労働基準法37条が適用され、割増し残業代が支払われることになります」

このように、笹山弁護士は解説していた。

ブラック企業が問題視されるようになってしばらく経つが、これが問題になったのは「過労死問題」の存在が大きかっただろうか。
勘違いされるが、労働者はその成果物に対して対価を得ているわけではなく、その人の時間を事業主に売ることの対価として賃金を得ていると日本の労働法は考えている。*1それは労働法の基幹法規でもある労働基準法はその多くの条文を労働時間に割いていることからも明らかであり、そういう立て付けにせざるを得なかったのは事業主と労働者の力関係は圧倒的に事業主が強く、ややもすると労働者を長時間酷使する労働がまかり通る事態を避ける必要があったからだ。
労働基準法のいっていることは

1. 労働者を1日単位、1週間単位で長時間労働させることは認めない。

2. 事業の関係上、やむない範囲で上記規定に反するのはやむを得ないが、その場合は労働組合なり労働者の代表の了解を得よ。

3. 超過した労働時間については割増賃金を支払わせるがこれは野放図な残業を抑止する目的である。

ということで、何か難しいことをいっているわけではないがこれを知らない労働者は非常に多い*2。確かに義務教育時点でこれらを教育する必要はある*3が、併せて労働基準監督官の増加も喫緊の課題だ。

労働基準監督官とは - コトバンク

労働者や労働条件を守るため、労働基準法などに基づき、雇用主らを監督指導する。違反者を逮捕、送検する権限も持つ。国際労働機関(ILO)は労働者1万人あたり1人以上の監督官がいることが望ましいとするが、日本は約0・5人にとどまっている。

最初に引用した記事によれば

働いていて困ったことがある人の36.4%は「何もしなかった」と回答しており、理由は「面倒だった」44.5%、「改善されると思わなかったから」39.8%、「みんなもガマンしていると思ったから」29.4%、「会社に居づらくなると思ったから」27.5%といった「あきらめやガマン」が上位となった。また、「どうすればいいかわからなかったから」20.4%、「誰に相談すればよいかわからなかったから」17.1%といった、「対応の仕方がわからない」というケースも少なくなかった。

とある。

教育を受けたとして、どこにアクセスすれば問題が解決するのかを知ったとしても、実際に動いてくれなければ期待は失望に変わる。

*1:じゃ成果給はなんなんだということになるが、まさにそれはインセンティブの話でここでは基本給を問題にしている。

*2:かくいう私もそうだった

*3:併せて社会保険の教育もするべきだろう

内向き化する日本

日本をトリモロしたい人にとっては随喜の涙を流すほど嬉しい結果が出たようだ。

日本人の「国民性」 震災後に変化? NHKニュース

日本人の国民性について、「他人の役に立とうとしている」と考える人が「自分のことだけに気を配っている」と考える人を初めて上回り、調査を行った研究所は「東日本大震災後、人との絆が多く語られた結果ではないか」と分析しています。
(以下略)

この結果そのものは初めてのものではなく、平成25年版厚生労働白書にも、若者*1についてではあるが、同様の記載がある。

平成25年版厚生労働白書 −若者の意識を探る− (本文)|厚生労働省

現在の若者は積極性に欠けると評されることもあるが、日本の未来を良くするために行動しようと思っているかと尋ねたところ、「自分に何かできると考えたことはない」と答えた人は、わずか 9.0%だった。
「仕事や学業を通じて貢献したい」と答えた人が 34.8%で最も多く、「社会的起業やボランティアを通じて貢献したい」と答えた人が 11.7%、「寄付やチャリティーを通じて貢献したい」と答えた人が 8.6%であった。「貢献したいがどのようにすべきかわからない」と答えた人(33.2%)も合わせると、日本の未来のために何かしら行動しようという意欲を持つ若者は過半数に上ると考えられ、少なくないことがわかる(図表2-1-19)。

社会への貢献意欲に関する経年変化を見てみると、社会の役に立ちたいと思っている者は、1980年代後半から増加し、近年高い水準を維持している(図表2-1-20)。
「若者の意識に関する調査」においても、社会のために役立つことをしたいと思うかと尋ねたところ、「そう思う」が 20.8%、「どちらかといえばそう思う」が 59.2%であり、約 8割の若者が社会貢献に対して前向きであった(図表2-1-21)。
(同白書48-49頁)

同白書はこのほかにも若者の生活満足度の調査を行っておりこれによると

  • 現在の生活については

15~39歳の8.9%が現在の生活に「満足している」、54.4%が「どちらかといえば満足している」
と回答しており、合わせて約6割の若者が、現在の生活に対して満足していた(図表2-1-1)。
「国民生活に関する世論調査」(内閣府)でも同様に、2012年の時点で、20歳代、30歳代のそれぞれ約 7割が、現在の生活に概ね満足(「満足」又は「まあ満足」)であると回答している。また、他の年齢層と比較すると、20~30歳代は、40~50歳代よりも、概ね満足している人の割合が高い(図表2-1-2)。
(同白書38頁)

であり、

  • 満足感の背景は

現在の生活に「満足」又は「どちらかといえば満足」していると答えた若者に対し、その最大の理由を尋ねたところ、精神的な充実によると答えた人(82.6%)が、経済的豊かさによると答えた人(5.7%)を大きく上回った。精神的充実の中でも、好きな家族や恋人、友人等の存在による精神的充実と答えた人が全体の 55.2%と際立って多く、趣味や仕事などよりも身近な人との付き合いが、現在の若者における満足感の最大の要因となっていることがわかる(図表2-1-7)。
(同白書40頁)

であり、

  • 生活満足の理由は

未婚者や離別者よりも、既婚者は、身近な人とのつながりによる精神的な充実感によって現状に満足している人の割合が高いことがわかる(図表2-1-11)。世帯収入別でみた場合、年収が高くなるほど経済力や社会的地位によって満足している人の割合が少しずつ高くなるものの、年収 1,000万円未満までは身近な人とのつながりによる充実感により現状に満足している人の割合が最も高い(図表2-1-12)。
就業形態別にみると、自営業種及び会社役員・団体役員以外は、身近な人とのつながりによる充実感により現状に満足している人の割合がいずれも 5割を超えている(図表2-1-13)。
(同白書42頁)

となっている。

また、そのような若者達は海外での就労に興味は薄く(同白書141頁)、長期雇用の下でのキャリア形成を志向した(同白書137頁)、働く目的を経済的豊かさよりも、楽しい生活を重視(同白書136頁)する若者である。

以上を踏まえて、件のNHKの報道を見てみるとこういう考え方もできる。

「他人の役に立とうとしている」人が増えていることは間違いはなく、その理由として人との『絆』が多く語られたことがあることを認めるとしても、そこでいう「他人」とは好きな家族や恋人、友人等といった自分の半径数メートルにいる「他人」なのではないか。

勿論このような生き方が悪いと言いたいわけではない。いつの時代にもこのような生き方を求める人はいたことも間違いではない。
問題にしたいのは『絆』の及ぶ範囲は手厚く面倒見もいい人が、必ずしも範囲外の人にも同じではないということだ。

そう考えなければ最近問題になっている在日朝鮮・中国人に対するヘイト問題や電車内でのベビーカー問題に代表される、日本社会における排外意識の顕在化が説明できないからだ。

内向きの社会の行き着く先については先の記事
【再読】松本健一 「日本の失敗」---「第二の開国」と「大東亜戦争」 - kodebuyaの日記で指摘したとおりだし、何よりもそれを私は恐れる。

*1:15歳から39歳まで

【再読】松本健一 「日本の失敗」---「第二の開国」と「大東亜戦争」

最近再読している本。

日本の失敗―「第二の開国」と「大東亜戦争」 (岩波現代文庫)

日本の失敗―「第二の開国」と「大東亜戦争」 (岩波現代文庫)

さて、満州事変が勃発したとき、ジャーナリズムはこの昭和六年=一九三一*1を語呂合わせで「いくさのはじめ」とよび、盛んに交戦気分をあおった(昭和九、十、十一年になると、一九三四、五、六年をもじって「いくさのしごろ」などとはやしたてた)。
戦後になると誰もが口をぬぐってしまったが、ジャーナリズムが満州事変を「いくさのはじめ」といって交戦気分をあおったとき、これを咎めたてるものはほとんどいなかった。唯一、大本教出口王仁三郎(でぐちわにざぶろう)のみが、なんで日本人が西暦などで語呂合わせをするのか、皇紀天皇紀元)でいえばいいじゃないかと、昭和六年=皇紀二五九一*2を「じごくのはじめ」と語呂合わせでよんだだけである。
(同書139-140頁)

同書に寄ればマスコミも戦争を煽ったということだが、当時の戦争観を考える必要があるだろう。
台湾征伐から始まり、日清・日露・第一次世界大戦とそれに伴うシベリア出兵にいたるまで、これらはいずれも日本が外国を舞台に起こした戦いであって、少なくとも日本本土においては戦争はその悲惨さというよりも勇壮さが強調されたのであった。
一方ヨーロッパにおいては第一次世界大戦までの戦争観はその当初こそ「クリスマスまでには帰れる」という言葉が象徴するように、ロマンティックかつヒロイックなものであったが、第一次世界大戦が進むにつれ大量虐殺兵器の完成と総力戦という未だかって経験したこともないような事態を招くに至った。このことの反省から、戦後「不戦条約」を締結し(その実効性があったかどうかはともかくも)国際問題の解決手段としての戦争を放棄することを選択したのであった。もちろんナチスドイツの暴走を止める手段としてはむしろ悪用されてしまったと評価することもできるとは思うが、それはナチスドイツの無法性を読み切ることができなかったが故の事態であり、当時のイギリス首相チェンバレンの政治的決断の要素の大きな一つになったであろうことは否定できない。

一方、日本政府は第一次世界大戦戦勝国としてそして国際協調路線の下この不戦条約を批准したのであったが、己のことではなく所詮外国の話でありこの条約の意義を国民として理解できず、旧態依然の戦争観から諸外国の満州事変に始まる一連の行動への批判に反発し、マスコミのみならず国民も戦争に熱狂するような状態に陥ってしまったのではなかったか。まさに同書の指摘する「精神の鎖国状態」だ。そして同書は、満州事変以降の戦争は「攘夷」運動なのであって、運動の結果としての第2の開国が「敗戦」だったと指摘している。そして敗者として日本は不戦条約と大西洋憲章の理念を受入れ、その結果が憲法9条に反映したと指摘している。*3

従軍慰安婦を巡る一連の問題で、岸田外務大臣は「発進力を強化する」と発言したわけだが、
Yahoo!ニュース - 慰安婦、対外発信強化=政府答弁書 (時事通信)諸外国が問題としているのは女性の人権侵害が吉田証言以外に於いても軍主導の下おこなわれた点なのであって、吉田証言という誤報があったという一点をもって突破できるようなことでは無いと思うのだが、安倍晋三以下内向きの情報発信に熱心な人々はそのようなことは気にならないようだ。戦後70年近くたち、戦争の被害者*4も少なくなり、戦争を知らない世代が日本を指導しているわけだが、彼等の戦争観が薄っぺらいことはかって本ブログでも指摘したのだが*5、精神的に鎖国状態に陥った指導者が薄っぺらいヒロイズムに酔っているとしたらと考えただけでも恐ろしく思う次第。

*1:原文は傍点

*2:原文は傍点

*3:同書159-164頁

*4:日本の反戦運動は加害者としての視点を欠くという批判はあるが、それでもこれ以上の被害者を作らないという活動があっても良いとは思う

*5:安倍晋三戦後最悪の式辞を述べる。 - kodebuyaの日記

小渕優子辞任へ

自身の資金管理団体の不適切な支出で批判を浴びていた小渕優子が辞表を提出したとのことで、安倍晋三首相は後任人事を行うことになった。
小渕経産相:安倍首相に辞表提出 - 毎日新聞

小渕優子経済産業相(40)は20日午前、安倍晋三首相と首相官邸で会談し、自身の関連政治団体を巡る不明朗会計問題の責任を取り、辞表を提出した。調査結果を踏まえ、世論の理解が得られる説明をするのは困難だと判断した。首相は受け入れ、後任の人選に入った。2012年末に発足した第2次安倍政権で、閣僚が辞任するのは初めてとなる。

 首相は「女性の活躍」を主要政策に掲げており、看板の女性閣僚が「政治とカネ」の問題で辞任することで、政権が大きな打撃を受けるのは必至だ。
(後略)

この件「だけ」が影響しているとはとうてい思えないのだが、支持率も下げてしまったようだ。
東京新聞:内閣支持率48%に下落 共同通信世論調査:政治(TOKYO Web)

内閣支持率48%に下落 共同通信世論調査
2014年10月19日 16時20分
 共同通信社が18、19両日に実施した全国電話世論調査で、内閣支持率は48・1%となり、9月の前回調査に比べて6・8ポイント下落した。小渕優子経済産業相の関連政治団体をめぐる「政治とカネ」問題などが影響した可能性がある。安倍政権の経済政策による景気回復を「実感していない」との回答が84・8%に上った。
 来年10月からの消費税率10%への再引き上げに反対との回答は65・9%、賛成は31・0%だった。日本でのカジノ合法化については反対が63・8%で、賛成の30・3%を大きく上回った。
 原発再稼働に反対するとの回答は60・2%、賛成は31・9%だった。
(共同)

政権のウリだった「アベノミクス」の化けの皮がはがれていくなかで、更なる負担を既成路線化し、かつ「第三の矢」なるものが「カジノ合法化」と「原発再稼働」という中での相変わらずおなじみの「政治とカネ」問題が噴出したこともあり、支持率を下げたということが共同の調査結果から見て取れるというべきだろう。*1

「人気」のある安倍内閣としては赤城「絆創膏」大臣や松岡なんとか還元水大臣の疑惑をかばい続けて民意を失った前回の轍を踏むことだけは避けたいだろうし、所謂「オトモダチ」でもない小渕優子をかばいたてる義理もないだろうし、早晩引導を渡すだろうと思っていたので当然の結末としかいいようがない。むしろ小渕優子にしても早めに責任をとったことにして幕引きを図った方がダメージも少なく、次(があればだけれど)を狙うことも可能になるわけでお互いにとってベターな決断だったということだ。

次は、小渕に比べ「オトモダチ枠」に近い松島みどりがターゲットになるのだろうがこの人物の処遇によって安倍自身が前回とどう変わったのか・変わっていないのかの試金石になる。
松島の件については法務大臣という要職に就く人物の遵法意識が希薄ということが問題なのであって、その様な人物が職に就いていること自体安倍内閣の性格を明らかにするものだと思うし小渕の件よりも重大というべきだ。

小渕優子については哀れにすら思える。
こちらの記事を読んだからだ。
小渕経産相:東京育ち、選挙区と縁薄く… - 毎日新聞

小渕優子経済産業相が辞任する見通しになり、地元の衆院群馬5区からは問題化した観劇会について「親の代からの支援者をつなぎとめるために続け、ミスをした」などの声が上がった。

 ◇父の代の支援者つなぎとめ策?

 父の恵三元首相の地盤を引き継いで衆院選に初出馬した2000年、小渕氏は2位候補の5倍近い得票で初当選。民主党政権交代を果たした09年衆院選でも、次点の3倍近くの票を集めるなど圧勝を続けてきた。

 一方、親子2代にわたり支援してきた自営業の男性は「幼いころを群馬で過ごした元首相と異なり、東京で育った小渕氏に対し親近感は薄いと感じている有権者は多い」と指摘する。50代の女性支援者は「政治家になった優子さんは人気者で全国各地に呼ばれ、地元に戻れる機会が少なかった。年に1度の観劇会を特に大事にしていたのでは」と語った。

 観劇会は元首相の時代から続き、バスを連ねて東京へ向かった。別の支援者は「先代から楽しみにしていた人が多く、やめる選択肢はなかったはず。支援者へのサービスであり、後援会にとって『見えの場』だった」と話した。

 ただし、元首相時代の観劇会を知る元秘書によると、「費用を負担すれば公職選挙法違反になる」というのが共通認識だった。このため往復のバスは補助席まで使って経費節減に努めていたという。【角田直哉、田ノ上達也、増田勝彦】

小渕優子がどのような人格を持っているのかなど知るよしもないが、
政治資金問題でも露呈! 小渕優子はやっぱり何も考えていない女だった!|LITERA/リテラ 本と雑誌の知を再発見
を読む限りに於いては、ただの2世のぼんぼん(女性に使うのかどうか知らないが)でしかないようだ。先代が亡くなり随分立つがその当時の秘書団がいなくなり、政治資金規正法改正も相まってそのあたりを指南できる者がいなくなってしまったということだろうか。

今の日本の選挙制度では2世3世議員が出現しやすくなることは事実であり、「地盤と看板」しかない無能な2世議員であれば、それを守るためにはこの手のサービスをせざるを得なくなるということだ。東京生まれの東京育ちのお嬢様が縁もゆかりもあるのかないのかよくわからない「地元」に戻り下々のご機嫌をお伺いするのが美しい国の選挙ということだ。

(追記)
松島みどりも辞任の意向を示したとのこと。
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20141020/j66761110000.html
辞任となれば肝いりの「輝く女性」の象徴でもある閣僚2名が政権を去ることになる。

*1:それでも随分高いというのが正直な感想だ。

勇気を持って認めるはずもなく

大阪市の民間校長については、その不祥事の多さからもはや人でも殺さない限り何がおきても驚かないし、呆れないという状態だったが、久しぶりに呆れた記事がこちら。
元民間人校長:「ホテルマネジャーはウソ」大阪市教委告訴 - 毎日新聞

(前略)
捜査関係者によると、元校長は採用前の昨年2月、高級ホテルでマネジャーとして約16年間働いたとする虚偽の職歴証明書を市教委に提出した疑いが持たれている。証明書にはホテルに実在する外国人幹部の偽のサインが書かれていた。

 元校長は別に提出した応募書類に架空の有限会社で代表を務めたという職歴も記載した。市教委は昨年4月に元校長を採用したが、元勤務先の裏付け調査をしていなかった。

 今年5月、市教委への匿名の情報提供で発覚した。小学校内のPTA会費約10万円を持ち出したことも分かり、市教委は今年7月、元校長を懲戒免職にした。元校長が体調不良を理由に経緯の説明を拒み続けたため、告訴に踏み切った。

最早、勇気を持って失敗を認めた方がいいと思うのだが、「謝ったら死ぬ病気」を抱えるあの市長がそんなことをするはずもない。
大阪に住んでいないのでわからないが、相変わらず夕方のニュースでは橋下の屁理屈を垂れ流しているんだろうか。同じ視聴するなら彼の屁理屈を予想しながら視聴するのもなにかの役に立つかもしれない。
ということでせっかくなので(?)予想される屁理屈を列記しておく。

  • 民間でもあり得ること

さすがにこれは酷すぎる言い訳なのでないかな。
大阪市教育委員会を擁護することになりかねない言い訳をするとは考えにくいし。

  • 大阪市の教員でもあったことで、殊更民間校長に発生する率が高いわけではない。

これは前回の不祥事で使った言い訳だけれども、流石に使うほどの厚顔ではないだろう。

  • 校長がやったことを見てほしい。学校という伏魔殿に風穴を開けたではないか

これは言いそうな気がする。
「いい話なら嘘でもいいじゃん」でおなじみの江戸しぐさが学校教育に使われるこのご時世。
また、当の市長も本業ではかなり無理な弁護をして、無理矢理和解に持ち込んだ実績の持ち主でもあるし。

  • 僕は方針を示しただけ。このような人物を採用した教育委員会側に問題がある。

これが本命かな。

失言王のコネタ

麻生太郎氏 御嶽山の被災者に対する「激励」発言が曲解されネットに拡散 - ライブドアニュース

30日放送の「ニュースウオッチ9」(NHK総合)に出演した麻生太郎副総理・財務大臣が、御嶽山の噴火による被害者について「激励申し上げる」などと発言したことが大きな話題になっている。

この日の番組にゲスト出演した麻生氏は、登山者12人の死亡が確認された御嶽山(長野・岐阜県)の噴火について発言した。

大越健介キャスターが「まずは御嶽山、大変な災害が起きてしまいましたね」と振ると、麻生氏は昭和54年(1979年)に御嶽山が噴火した時は死亡者が出なかったと指摘したうえで、「今回はやっぱり時間帯が違ったせいか非常に亡くなられた方やら心肺停止の方やら非常に多く出ておられますんで」とコメント。

さらに「亡くなられた方に本当にお悔やみ申し上げると同時に、皆さん方被害に遭われた方々に、本当に、まことに大変だったろうなと思って、心から、私どもとして…激励申し上げるっていうか、うん…」と言って、言葉に詰まった。

すると、大越キャスターは「そうですね、ま、われわれ自身もお見舞いの気持ちとお悔やみの気持ちを持って放送させていただいております」とフォローした。
(後略)


麻生太郎副総理 「激励申し上げます」 - YouTube
2ちゃんねる界隈では死者に対して「激励と言ったというデマが拡散されているキイキイ」と喧しい。
確かに動画を見る限りでは激励という言葉は被災者に対しての言葉だが、揚げ足をとれば
「亡くなった方は被害者じゃないの?」
ということで、議論は終了と言うことになるんだけれども、この動画を見て気がついたことが2つ。

  • 麻生太郎は「お見舞い」という言葉と「お悔やみ」という言葉の違いを知らない。
  • どうやら喋った後に間違えた*1ことに気がついた。

NHKのキャスターがいみじくもフォローしたとおりお見舞いの気持ちとお悔やみの気持ちで済ませることができるところを、亡くなった方には「お悔やみ」と使ってしまった。「お見舞い」はありきたりで使えない。何か気の利いた一言を言おうとしたところ思い浮かばず、ようやくひねり出した台詞が「激励」だったということではないか。
動画を見ると言葉と言葉に隙間があるが、言葉に詰まったというよりも何か気の利いた言葉を探しているようにも見える。

ところで「激励」って言葉の意味はなんだったっけ?
げきれい【激励】の意味 - 国語辞書 - goo辞書

げき‐れい【激励】
[名](スル)はげまして、奮い立たせること。「選手団を―する」「叱咤―」

厳密に言えばこのような場所で使う言葉ではないようだ。
お付きの人はこいつがテレビに出演するときはきちんと質問内容のすりあわせをして、レクチャーしたほうがいいよ。
野放図にするから過去もこんなことばっかり言っている。

麻生太郎☆名言集☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆

・(終末期医療について)さっさと死ねるようにしてもらわないとか、考えないといけない。
・名古屋人というのは民度が低い。あんな市長(河村たかし)を選んじゃうんだから
・たらたら飲んで、食べて、何もしない人(=患者)の分の金(=医療費)を何で私が払うんだ。
・(北朝鮮がミサイルを撃ったことについて)金正日に感謝しないといけない
・東京で美濃部革新都政が誕生したのは婦人が美濃部スマイルに投票したのであって、婦人に参政権を与えたのが最大の失敗だった
地球温暖化を心配する人もいるが、温暖化したら北海道は暖かくなってお米がよくなる
・審議をしないとどうなるか。ドイツでは昔、ナチスに一度(政権を)やらせてみようという話になった
・金がないのに結婚はしない方がいい。稼ぎが全然なくて(結婚相手として)尊敬の対象になるかというと、なかなか難しい感じがする
・ドイツのワイマール憲法もいつの間にかナチス憲法に変わっていた。誰も気が付かなかった。あの手口に学んだらどうかね
・野中のような部落出身者を日本の総理にはできないわなあ

最後の件については

野中広務 差別と権力 (講談社文庫)

野中広務 差別と権力 (講談社文庫)

に詳しい。

とはいえ、あのスタジオの雰囲気はいいね。大晦日の日テレの番組を見ているようだった(笑)。

*1:日本語の使い方と言うよりもむしろ本人の「本意」(笑)の表現のしかた

NHKスペシャル「老人漂流社会 "老後破産"の現実」

NHKスペシャル|老人漂流社会"老後破産"の現実

高齢者人口が3000万を突破し、超高齢社会となった日本。とりわけ深刻なのが、600万人を超えようとする、独り暮らしの高齢者の問題だ。その半数、およそ300万人が生活保護水準以下の年金収入しかない。生活保護を受けているのは70万人ほど、残り200万人余りは生活保護を受けずに暮らしている。年金が引き下げられ、医療や介護の負担が重くなる中、貯蓄もなくギリギリの暮らしを続けてきた高齢者が“破産”寸前の状況に追い込まれている。在宅医療や介護の現場では「年金が足りず医療や介護サービスを安心して受けられない」という訴えが相次いでいる。自治体のスタッフは、必要な治療や介護サービスを中断しないように、生活保護の申請手続きに追われている。
“老後破産”の厳しい現実を密着ルポで描くとともに、誰が、どういった枠組みで高齢者を支えていくべきか、専門家のインタビューを交えながら考える。

昨日放映のこちらの番組を興味深く見た。
番組内では3つのケースが紹介されるのだが、うち1番目と3番目のケースはほぼ国民年金((所謂「基礎年金部分」))は満額支給を受けているにもかかわらず憲法が保障する最低限度の生活生活ができないというもので、2番目は生涯国民年金のみ加入し、かつ、年金未納期間があるので満額支給すら受けることができないというものだった。

以下、感想を。

年金の2面性

年金には

  • 保険

の 2つの面がある。
年金を考えるときにどちらの立場で考えるかで大きく結論が変わるのが老齢(基礎)年金だ。
現行の保険制度は全国民共通の国民年金を基礎として、その上乗せ部分としてサラリーマンとその配偶者が加入する厚生年金保険や、公務員などが加入する共済年金、所謂1号被保険者が加入する国民年金基金となっている。
上乗せ部分は、あくまでも上乗せなので支給事由の発生原因がなんであれ保険事故が起きた場合、今まで支払った保険料に応じて支給されるものであるので、まさに「保険」の性格が全面にでている制度だと言える*1
一方、基礎年金部分については「基礎」ということなのであまねく支給事由の発生した国民には支給されるものであり、特に障害・死亡を原因とするものについては所定の保険料納付要件さえ満たせば*2満額の支給がされる。
つまりセーフティネットの面を重視していると言えるものだ。
死亡・障害は突然起こりうるもので、その備えをすると言っても難しいケースがあるからだ*3
その一方老齢基礎年金は「保険」の面を重視している。すなわち保険料の納付実績に応じて年間最大78万円程度の年金が支給される制度であり、厚生年金保険のそれに近いものといえるのが現行の制度だ。
たしかに「老齢」という保険事故は誰しも当然に起こりうることであり、その備えをしなかったことは自己責任と言えるのであろうが、後で述べるとおり年金制度の設計が現在の日本の家族制度と乖離してしまっていることもあり、「保険」の面だけを強調すると「セーフティネット」の面が意味をなさなくなってしまいかねない。一方「セーフティネット」の面を強調すると、現在の年金額ではいかにも足りない(満額でも約月6.5万円しか支給されない)ということになり、その増額分の負担が現役層に大きくのしかかるということになってしまう。

厚労省の考えるモデル家族

現在の年金制度の基になった旧国民年金制度は昭和36年4月に始まったものだが、これは、番組でも指摘があったことだが

  • 右肩上がりの経済
  • 3世代同居
  • (これは指摘されなかったが)超高齢者社会の早い到来はない

を前提に設計されたものだった。
つまり、年功序列で上がる給料で親と子どもの面倒を見た現役世代が、引退すると今度は子どもの世代が自分と孫の面倒を見る。子どもが引退すると今度は子どもの子どもの世代が・・・という扶養関係を前提に、孫の小遣いや3世代家庭の家計の足しにと支給するのが老齢年金であるということだ。
経済の成長は鈍化し、核家族化は進行した。高齢化社会が想像以上のスピードで到来した。
孫の小遣いや3世代家庭の家計の足しに支給される年金を家計のメインにして生活する人が増加するとは厚労省は思えなかったということだ*4

都会より地方の方が危機的状況といえる

番組で紹介された1と3のケースはいずれも都内で、1については区の行政の援助の元生活保護を受給できるようになり危機は脱した*5。また、3番目のケースも定期的に介護保険法による居宅サービスを受けており、そういう意味では行政とつながっている状態であった。これらはまだ、財政に余裕のある地方公共団体だからできたことだと思える。
第2の秋田県のケースでは月2.5万円の年金受給でありながらなんの公的支援も受けていないというものであったが、地方の高齢化の進行はすさまじいものであり、そのような高齢者を多く抱える地方公共団体は支援の手をさしのべるということはほぼ不可能な状態のように見えた。

高齢者医療費の負担をどうするか

番組内の3ケースともいずれも重大な持病を抱え、その医療費が家計に多大な負担をかけていた。
現在の後期高齢者医療制度においては、被保険者の自己負担割合は原則1割となってはいるが、定期的に通院を余儀なくされることが多い高齢者にとってはその自己負担であっても多大な負担になってしまうことは容易に予想される。
番組内では健康保険にある「特定疾病患者の負担軽減制度」のように、自己負担額が一定の金額を超えればそれ以上の負担を求めないような制度にするべきとの提案があった。
財源の問題がついて回るので実現は困難かと思うが、収入の割合に応じて負担の上限額を決めるのはいい方法だと思う(実際に健康保険では同様の制度があるし)。
後期高齢者になると病のリスクが高くなるのは若い頃の不摂生云々があったにしても当然起こりうる話であって、いわば衣食住にかかる経費と同様に考えるべきだ。

今の年金受給者を考えることは将来の自分を考えることだ

現行の年金制度が破綻状態にあるのかどうかということは論評できる立場にないが、少なくとも誰しもが起こりうる老齢については十分に考えた方がいい。
「ゆるい働き方」を選択し、「どうせ年金なんて俺たちはもらえないから」と保険料を払わない(というより払えないというべきか)のも人生だが、少なくとも「600万人を超えようとする、独り暮らしの高齢者の半数、およそ300万人が生活保護水準以下の年金収入しかない。」という事実は一度見ておいた方がいいだろう。

*1:もちろん国民年金に比べてという意味であって、障害・死亡を原因とする場合は別途調整が入るケースもある

*2:つまり保険料が未納であってもその程度がひどくなければよいということ

*3:若くして障害を抱えるケースを想起されたい

*4:ちなみに高齢者世帯所得の中で公的年金等が占める割合は70%前後

*5:年金受給者でも生活保護を受給することは可能であることは次のリンクを参照されたい。 「NHKスペシャル 老後破産」を防ぐためには…(藤田孝典) - 個人 - Yahoo!ニュース

結局悪用されるだけ。

ゆるい就職:若者が正社員で働くのは「負け」 慶大助教が提案 - 毎日新聞

 「今どき、若い世代が正社員で働くのって『負け』だと思うんです」。正社員で長時間労働に苦しむシステムエンジニアの男性(23)が発言すると、会場に集まった約60人の若者から賛意のどよめきが起こった。

 次々に発言が出る。「週休2日じゃ自分の好きなことなど何もできない。それで退職しました」「残業続きで生きるために働くのか、働くために生きるのか分からない」「会社説明会に行っても金もうけ以外に働く目標が見えない。意味があるのか」「起業をしたい。週5日、会社に合わせて働く気はない」。そのたび若者たちは深くうなずく。

 これ、「ゆるい就職」に関心を持つ若者たちが18日、東京都内で「週4日の休みをどう使うか」などを話し合ったワークショップの一場面だ。「ゆるい就職」は人材紹介会社「ビースタイル」(本社・東京都新宿区)の事業。週休4日、つまり週3日働いて月収15万円の仕事を紹介するという。派遣など非正規雇用。15万円は額面。手取りでは12万〜13万円か。週3日勤務は社会保険の適用外だ。

 企画した若新さんは「週5日勤務を『人生すべてを仕事に支配される働き方』『仕事のために人生があるわけじゃない』と感じる若者が増えています。大多数は違和感を抑え、安定にしがみつくが、そこから一歩を踏み出そうとする若者がここに集まった」と説明する。

 「ゆるい就職」のうたい文句は「週5日勤務の『あたりまえ』がバカらしい」。ウェブサイトには「正規雇用など安定した就職を希望している方は間違っても応募しないでください」の注意書きも。それでも9月上旬の説明会には、定員の4倍、360人が応募した。

 実際に説明会に足を運んだ約150人の内訳は、既卒が7割、現役学生が3割。男女比は7対3。学歴は比較的高く、いわゆる「MARCH(明治、青山学院、立教、中央、法政)以上」が35%を超えた。若新さんによると「3分の1が芝居や音楽などの趣味や芸能活動を続けたい人、3分の1が起業やプロジェクトをはじめる準備時間がほしい人、残り3分の1が『今後やりたいことを模索したい人』」。共通点は、勤務地や労働時間、職務に制限のない「正社員」という働き方への疑問だ。

(中略)
 
 一部で「ゆとり世代の新しい働き方」などと好意的に取り上げられる中、「『週休4日で15万円』は別に新しくない。どんなに言葉で飾っても内実はアルバイトやパートタイム労働と同じ。使い捨てられかねない」と指摘するのは、ブラック企業対策プロジェクトのメンバーでNPO法人POSSE事務局長、川村遼平さん。「かつての『フリーター』、最近の『ノマド』など、サラリーマン的働き方へのアンチテーゼはどの時代も若者を魅了する。しかし働き方の多様化を実現するには、非正規でも安定した暮らしができる社会制度が前提です。『ゆるい就職』では年齢が上がると、収入や社会保険などの面で生活に行き詰まり、ダブルジョブ、トリプルジョブを強いられる危険もあるのではないか」

 東レ経営研究所ダイバーシティワークライフバランス推進部長の宮原淳二さんは「主婦や高齢者、セカンドキャリアを考え始める55歳くらいの人にはこの選択肢は面白い」と評価しつつ「新卒などこれからキャリアを積む20代には、雑多な仕事をこなし実力をつける『雑巾掛け』が重要だ。それをはしょると30、40代の仕事に響く。また『週休4日』の仕事は転職時の職歴として評価されない可能性が高い。『週休4日』を短絡的に捉えず、自身のキャリアを見据えた選択が必要だろう」と助言する。

 ビースタイルの「ゆるい就職」プロジェクトリーダー、宇佐美啓さん(30)は「若者全員にこの働き方を押しつけるわけではない。選択肢を増やしたいだけ。安定を得る代わり単身赴任も長時間労働も受け入れ、家族を養うのが当然だった50、60代男性と今の若者とは見える光景が違う。ワーク・ライフ・バランスを大事にし、仕事以外にも充実感を得たいのが僕ら、そしてより若い世代」と説明する。

 採用に関心を寄せる企業はIT業界を中心に広告、印刷業界など約20社。社員約100人を抱えるIT企業「イノベーション」の富田直人社長は「景気が良くなり、中途採用で良い人材が採れない。チャレンジ精神のある優秀な人材が採れるなら、週休4日でも構わない」。しかし、ほしい人材は「新卒者と同等レベル、つまり一流大卒で高校で生徒会長をやるくらいリーダーシップがあり、コミュニケーション能力が高く、人当たりも良く、企業文化になじめる人」。結構ハードルは高い。

(後略) 

このプロジェクトの発案者の言い分は、あの竹中平蔵の迷言「みなさんには貧しくなる自由がある」*1を彷彿とさせるもので、「流石慶応大学の経済学部」と嫌味の一つも言いたくなるものだ。

毎日新聞は両論併記の形で紹介はしているがこの制度の問題点は

「『週休4日で15万円』は別に新しくない。どんなに言葉で飾っても内実はアルバイトやパートタイム労働と同じ。使い捨てられかねない」

の一言に尽きるだろう。

先日厚生労働省は短時間労働者に対する被用者保険の適用拡大を公開*2したのだが、この拡大の肝は今までは社会保険適用外だった週30時間未満の労働者のうち

  • 週20時間以上
  • 月額賃金8.8万円以上(年収106万円以上)
  • 勤務期間1年以上
  • 従業員501人以上の企業((現行の適用基準で適用となる被保険者の数で算定。))

に該当するものを被保険者とするもので、影響緩和措置はとられるものの大企業に負担を求める内容となっている。大企業にしてみれば人件費の更なる負担は避けたいところであり、厚生労働省が公開したとおりの運用になれば上記のような勤務形態のニーズが高まるであろうことは容易に予想が付く。
そう、新手のリストラ手法になる可能性が高く、期待されるような

週5日勤務を『人生すべてを仕事に支配される働き方』『仕事のために人生があるわけじゃない』と感じる若者が増えています。大多数は違和感を抑え、安定にしがみつくが、そこから一歩を踏み出そうとする若者

の為の正社員制度になり得ない可能性が高いと言うことだ。
思えば、自由な働き方で自己実現ということで拡大された派遣制度というのが元々あったはずであったがその肝心の派遣が派遣法改正の関係で派遣業者が激減しその結果派遣社員が減少してしまい派遣先企業が使いにくくなったのだけれど、その変形・補完としての制度ではないかとしか私には思えない。

毎日新聞の記事はいみじくもこう書いている。

ほしい人材は「新卒者と同等レベル、つまり一流大卒で高校で生徒会長をやるくらいリーダーシップがあり、コミュニケーション能力が高く、人当たりも良く、企業文化になじめる人」

これくらいのスペックでかつ、『人生すべてを仕事に支配される働き方』『仕事のために人生があるわけじゃない』と考えるならば、無理に正社員でなくても学生ベンチャーで起業した方がいいのではないかと思う。
「正社員」という響きに騙されてはいけないと、人生の先輩は思ったりする今日この頃なのだ。