kodebuyaの日記

労働問題が最近多くなった食レポブログです。

会社主催の宴会の後の罹災は労災になるか?

画期的な判決なんだそうだ。
www3.nhk.or.jp

(前略)
6年前、福岡県苅田町でワゴン車が大型トラックに衝突し、ワゴン車を運転していた34歳の会社員の男性が死亡しました。
男性は上司から会社の歓送迎会に誘われ、忙しいため断りましたが、再び出席を求められたため酒を飲まずに過ごし、同僚を送って仕事に戻る途中で事故に遭いました。
労災と認められなかったため妻は国に対して裁判を起こしましたが、1審と2審は「自分の意思で私的な会合に参加したので労災ではない」として退けられ、上告しました。
8日の判決で、最高裁判所第2小法廷の小貫芳信裁判長は、当日の男性の行動は上司の意向を受けたもので、会社からの要請といえると指摘しました。
さらに、歓送迎会は上司が企画した行事だったことや、同僚の送迎は上司が行う予定だったことを挙げ、「当時の事情を総合すると会社の支配下にあったというべきだ」として、1審と2審の判決を取り消し、労災と認めました。
飲み会の後の事故は労災と認められないケースがほとんどですが、8日の判決は事情によっては救済される可能性を示すものとなりました。
(中略)
最高裁判所の判決について、労働問題に詳しい玉木一成弁護士は、「労働者の実態を踏まえた画期的な判断だ」と話しています。
玉木弁護士はこれまでの労災を巡る裁判では飲み会が強制参加だったかどうかなど形式を重視して労災と認めないケースが多かったとしたうえで、「今回は飲み会に参加したいきさつや上司のことばを受けた労働者の意識など、実態を踏まえて労災と認めた画期的な判断だ」と評価しています。
(後略)

確かに会社主催の飲み会とはいえども出席が強制されていなかったり会費制になっていたりなど建前上は「任意参加」であったとしても、その実際は参加しないと上司等との今後の関係に良くない影響を心配していやいや参加するという「実質強制」という事も多いであろうから今まで形式上の任意性の有無だけを判断材料とする労災認定から実質までも考慮することになれば、今まで認定されなかった労災が認定されるようになる可能性も増えるであろうからそういう意味では画期的とはいえる。
では、最高裁がこの宴会を「業務の一環「と判断した点はなんだったのか?アップされた判決文*1からいくつかポイントを上げてみたい。

「上司」が会社代表者とほぼ同視できる立場のものであったこと

判決は事実認定として

本件会社の代表取締役社長であるD(以下「D社長」という。)は,本件親会社の事業企画部長を兼任し,同社の本店所在地である名古屋市にいることが多いため,本件会社の生産部長であるE(以下「E部長」という。)がその社長業務を代行していた。
(強調は引用者。以下同様)

そう、今件の「歓迎会に誘った上司」は単なる上司と言うよりも限りなく会社経営者に近い職責者からのものであり、むげに断れるようなものではなかったということだ。因みに当該会社は被災労働者を含め7人程度しか在籍していない会社であることを鑑みると、その上司との折り合いが悪くなると言うことはその人物の居場所が会社からなくなることを意味するとしても決して大げさではなかったろうと予想できる。
そういう意味では、「限りなく強制に近いものであった」と言うべきだろう。

その経費が会社の計算で支出されていたこと

E部長の発案により,中国人研修生と従業員との親睦を図ることを目的とした歓送迎会を行っており,その費用は本件会社の福利厚生費から支払われていた。

会社主催の歓送迎会であったということが認定されたと言うことだ。上記と合わせて考えるとより業務の一環の性質が濃くなると思える。
強制であったとしてもその費用がこの件でE部長のポケットマネーで全額まかなわれていたとすれば、個人の私的行為であり「業務の一環」性が薄れるのではないか。

参加時間が短く、アルコール飲料の類を飲んでいなかったこと

Bは,(中略)本件会社の作業着のまま本件飲食店に向かい,本件歓送迎会の終了予定時刻の30分前であった同日午後8時頃,本件飲食店に到着し,本件歓送迎会に参加した。その際,Bは,本件会社の総務課長に対し,本件歓送迎会の終了後に本件工場に戻って仕事をする旨を伝えたところ,同課長から「食うだけ食ったらすぐ帰れ。」と言われ,また,隣に座った中国人研修生からビールを勧められた際にはこれを断り,アルコール飲料は飲まなかった。

本件被災労働者Bは、宴会の全てに参加したわけではなく、また、アルコール類を口にしなかったという。
このことや上司Eに対しすぐ仕事に戻ることを伝えていることや、作業着を着替えることなく宴会に参加していることを考慮して、最高裁は業務の中断を認めなかったのではないか。
労働者災害補償保険法やその関連通達では休憩時間中の罹災は労働者は労働義務から解放されることより労働者災害補償保険の適用外である。しかし、運転手や休憩時間中の電話当番や夜勤中の仮眠のような「手待ち時間」中は労働義務から解放されたとはいえないとしている。
今件は終了予定時刻より早く終わればそれだけ早く仕事に復帰する必要があったわけであるし、仕事復帰を前提として着替えをせず、アルコール類を飲まなかったわけであるから、休憩時間のように業務から完全に解放されていないという評価をしたのではないだろうか。

会社への帰路途中にある従業員寮への送迎を行ったこと

もともと本件研修生らを本件アパートまで送ることは,本件歓送迎会の開催に当たり,E部長により行われることが予定されていたものであり,本件工場と本件アパートの位置関係に照らし,本件飲食店から本件工場へ戻る経路から大きく逸脱するものではない

経路を大きく逸脱するようであれば通勤労災の考え方からすれば「経路逸脱」にあたるため、労働者災害補償保険法の適用ができなくなるが、今件は宴会場と事業場を結ぶ線の中に寮があったと評価されているため「経路逸脱」にはあたらないと最高裁は評価しているが、これは上記2点をもっても「業務中」と判断されなかった場合に通勤災害の適用の余地があるということなのかもしれない。
とはいえ、上記2点並びに本来はE部長が送迎すべきことを替わってBが行っているということであるから当該送迎行為は「本件会社から要請されていた一連の行動の範囲内のもの」であり、会社の指揮命令の下業務遂行中の罹災と判断されたといえる。

労災認定は結局拡張されうるのか?

以上の点を考えると、本件事故は業務中といわれてももともとやむを得ない時間中の出来事であり*2、もしも、宴会開始時刻から最後までアルコール類を口にしていたというようなことがあれば、労災認定されなかった可能性もあるし。着替えを済ませていたとすれば業務中断と評価されていた可能性もある。また、労働者の立場として社長と同視できる人物からの参加依頼という状況からしても参加の任意性が認めにくいという事情があり、一律「宴会の後の罹災が労災と認められる」とは言い切れないように思える。

では労働者としてどうすればいいのか?

弊ブログの記事で恐縮だが
いまさらながら気をつけたいこと - kodebuyaの日記
に書いたようにこの宴会が明示または黙示的に業務の一環で行われることの確認を得るべきだろうと思う。
これから、屋外のビヤガーデンで会社の宴会をするケースが増えると思うが、くれぐれも全ての宴会の後の罹災が労災の適用を受けると考えるとむしろ危険だと思う。

*1:http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/000/086000_hanrei.pdf

*2:社長付の運転手が社長の商談待ちの間に事故に遭えば、社長に「この時間は休憩時間なので好きなように過ごしなさい」と言われたなどの特段の事情がない限り、労災認定されると考えるべき